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セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile1 ガーディアンの女 ~Desperate or hopeless encounter~
34/129

34 「タカヤ―困惑」

 

 おかしい…一体どういう事だ?


 俺はこの間まで、我が家のように居なれた部屋を片付けている。あれだけあった膨大な資料や備品が、たった段ボール数個に片付くなんて…無情とはよく言ったもんだな。



 シレーナが迎えに来たのは、正午をかなり過ぎた頃。半に近かったかな。俺の学校は1時10分から4限目が始まる。

 昼飯はお預けになっちまったが、授業にはギリギリ間に合った。


 十文字館学園。都市部に立つ私立学園だ。


 地上9階建ての本校舎が、校門を入って真っ先に出迎えてくれるが、俺にはそれが、どうしても威圧的に見えてしまう。

 本能的なものかな?


 2日ぶりに学校に顔を出すと、クラスメイトからの視線が一気に注がれる。それが同情や悲壮を帯びているのは、俺でも分かった。


 まあ、当然の反応だよな。だって、ユーカとはよくつるんでいたし、一緒にガーディアンとして校内を巡回する様子は、この学校で知らない人はいなかったほどだ。今思い返せば、学校公認のカップルだっただろう。その上、全校集会も欠席ときた。

 凄い奴は、授業中に「一体何があったのか」横から小声で聞いてくる奴も……つか、誰だよお前。


 「大丈夫?」

 「元気出せよ」


 大勢が、そう声をかける中、親友ってやつは一味違う声をかけてくれるもんだ。


 「大変だったな。伊倉さんのコトは」

 「何でも言ってくれ。相談にはいつでものるからさ」


 悪友―って呼んだら、ガーディアンのイメージにそぐわないかな? でも、そう呼ばせてくれ。

 西園浩一(にしぞのこういち)と、ディーン・ウェイサー。中学からの付き合いだ。

 まあ、だらだらとした友人紹介…もしたいところだが、読者としては、俺の最初の「おかしい」って言葉が、どういう経緯で出てきたかが気になるところだろうし、そっちの方が興味があるだろ?



 前回、シレーナが話していた通り、俺には“この学校のガーディアン”として最後の仕事が残っていた。それはボックスと呼ばれる、スクールガーディアンの詰所の整理と、各種書類の提出だ。


 この学校のボックスは、多目的室や部室が集中する旧校舎にある。

 元々、十文字館は名門女子校だったんだけど、1990年に男女共学校となり、それに併せて女学園時代の校舎を改築。それが今の本校舎で、旧校舎は女学園時代から残る校舎の一部だ。ボロが来ていると思うだろ? でも、意外に整備されていて快適なんだな、これが。

 そんな旧校舎の家庭科室横に、ボックスは置かれている。俺たちが撤退した後は倉庫になるんだと。

 幸いにも今日は部活動優先日、授業が早めに終わったんで、片付けにしっかりと時間がさけることとなったわけだ。


 さらば短い青春よ。

 せっせと書類を段ボールに詰めて、デスクを拭いて…と、この時ふと思ったんだ。この部屋につながっているパソコン。それはガーディアンのデータベースにつながっている訳で、これで検索すればシレーナのことが何かわかるんじゃないか、ってね。


正直、シレーナという女の子のことは、今回の事件で初めて知った。それまで、俺とおんなじクラスの子だとは知らなかったんだ。

 何故、気づかなかったのか? その答えが、彼女を知り彼女を意識し始めてから、分かった気がする。

 シレーナの席は俺の斜め前。窓側の席だった。休み時間、彼女は1人で黙々と本を読んでるか、窓の外を眺めている。誰とも話そうとはしないし、席を立ってもトイレくらい…まあ、トイレに行くのを見たわけじゃないから、断言はできないけど…って、俺は変態かよ。

 ただ、こういう寡黙な女の子は、時として同性のいじめターゲットとなるものだ。学校ってのはある種の「空気社会」で、女子のいじめ程過酷なものはないと聞く。どれだけのモノなのか、想像もできないし、第一俺は男だ。


 ただ、シレーナはごく一般的な寡黙少女と違ったのは……何といえばいいんだろう?…ほら、あの人の言葉を借りると…そうそう、テレビに出てるミワチャマだ。あの人の言葉を借りれば「オーラが出ている」ってやつだ。

 人を寄せ付けない、それどころか自分の存在を、まるでステルスのように隠し、誰にも気づかれないようにしている。それは本を読むことで、窓を眺めることで、または何も話さない事で成立しているとはとても思えない。


 だから、俺は午後の授業中、ずっと気になっていたのだ。下二段活用の奇怪さや、ヒッタイトの鉄精製の奇蹟より、シレーナ・コルデーという女の子は何者なのかという1つの問に。


 それを答えてくれるのは、今日でお別れとなる、ボックスのパーソナルコンピューター。


 ガーディアン・データベースにアクセス。

 ID、学校コード入力。

 ログイン。


 学校:十文字館学園。

 氏名:シレーナ・コルデー。

 情報:捜査官。

 検索―――


 「え?」

 そこに出てきたのは


 “該当する人物、捜査官はいません”


 「シレーナは、ガーディアンじゃない?…でも、確かにIDを」

 その時、俺の中にもう一つの可能性が浮かんだ。


 この「ガーディアン」という組織は、基本的に学校に1つ“ユニット”と呼ばれる、いわゆる「班」を設立することになっている。でも、何年か前は忘れたけど、それが一部改正された。

 「条件を満たせば、複数の学校の生徒が集合し、ユニットを結成することを許可する」というもので、ガーディアンの捜査官である生徒が報復で殺される事件が起きたからとか、生徒指導や生徒会より力を持つことを嫌った学校が、相次いでガーディアンを締め出したからとか、いろいろ理由はあるらしいけど、どうして改正したのか実は、いまだに謎のまま。

 ガーディアンが組織され、改正されたルールは、後にも先にもこれだけ…だったと思う。俺の記憶では。


 制服の違うシレーナ達が、1つの班として動いていた。ならば、この改正ルールの下でシレーナは動いていたことになる。

 コードが入らなかったのは、恐らく十文字館学園の名前が入っていたから。

 「でも、どうして単独で別の学校と? 俺たち、前からボックスを構えていたはずなのに」

 まあ、文句を言っても仕方ない。


 氏名:シレーナ・コルデー。

 情報:捜査官。

 検索―――

 

 “該当する人物、捜査官はいません”


 「…え?」

 壊れてるんじゃないか?

 念のため、自分の名前で検索してみた

 

 氏名:佐保川貴也

 ID:25**

 学校:十文字館学園

 情報:捜査官

    幼少期に喘息の持病

    琴殊27年*月*日 バディ死亡により十文字館学園ガーディアン解散


 別に異常はない。

 もしかしたら。と、シレーナ以外のメンバーで検索をかけてみた。

 ハフシ、メルビン、ラオ、エル……だが。


 “該当する人物、捜査官はいません”


 「おかしい…一体どういう事だ?」

 いや、それより前に気付くべきだったのだ。

 自分のデータ。その解散の後に続く一文に。


 “次の所属、及び後任のバディ、未定”


 辞令が届いたのは昨日夕方。データベースに解散まで記されているなら、次のバディがシレーナであることも記されていなければおかしいはずなのだ。

 だが、彼女らは確かにガーディアンの捜査官のはずだ。IDにパトカー、銃……どれも、どこかの阿呆が真似して揃えられる代物ではない。


 「じゃあ、彼らは…シレーナは何者なんだ?」


 呆然とする俺を引き戻してくれたのは、2回鳴らされた扉のノックだった。

 「は、はい?」

 「俺だ」


 その声は西園。

 

 「入ってくれ」

 扉が開き、癖のある天然パーマが覗いてきた。

 「うっわ。マジで引っ越しジャン」

 「手伝っても、蕎麦は出ないぜ」

 「いいさ。後でマクドでも奢ってもらうからさ」

 そう言うと、西園は両手を叩いて「なにか、出来ることは?」と聞いてきた。

 俺はパソコン配線を抜いてくれと頼んだ。

 「なあ、西園」

 「ん?」

 「お前から見てさ、シレーナ・コルデーって、どんな人だと思う?」

 「なんだ? ガーディアンを引退して恋に走るってか?」

 デスクに隠れて見えないが、多分にやけながら聞いてるな、アイツ。

 「いや。それにさ、俺、目的があってガーディアンやってるから」

 「給料とか、官給の下宿目的だろ?」

 「そうじゃなくて…おい、はぐらかすなよ」

 すると、西園は言う。


 「そうだね。俺もよく分からん。確かにクラスの女子の中では一番美人だよ。あの眼鏡さえなければ、絶世と言っても過言じゃないくらいだ。でもさ、あんまり誰かと関わらないし、喋るって言っても授業で指名された時くらいじゃん?」


 「暗いってこと?」


 「いや、あれはネクラとか、そう言う類じゃないな。なんというか、誰も近寄らせたくないというか…こっちから近寄りたくないというか…」

 その言葉に引っかかった。


 こっちから近寄りたくない?


 「自分で壁を作ってるって感じだな。来るものは全て拒む! 異論は認めん! ってな」

 「それが、“こっちから近寄りたくない”って思う理由か」

 すると、西園は黙り、ゆっくりと顔を上げた。

 「なあ、貴也」

 「お?」

 「今日お前さぁ、シレーナと一緒に学校に来たよな?」

 「それが?」

 「もしかして……伊倉と二股かけてたのか?」


 どうして、そうなるんだよ。

 こいつ、恋愛ゴシップ大好きだからなぁ……失恋相手おちょくって、ビンタされた回数は数知れず。猪木が今まで注いだ闘魂の数より多いんじゃないか?


 「ンな訳ないだろ」

 「よかったぜ」 

 「どこがだよ」


 すると突然、西園が真剣な顔になった。


 「お前に、こんなこと言う義理じゃないんだろうけどさ。シレーナだけはやめとけ。あの女を狙うなら、別の女子を追いかけろ」


 「どうして?」

 いつになく真剣な面持ちのコイツから、次に出た言葉

 「これは噂なんだが…といっても、この学校で知っているのは少ないし、アイツも幽霊みたいに過ごして―――」

 「だから、早く言えよ」


 「…アイツ、昔、人を殺したことがあるらしい」


 「え?」


 「それも、1人2人のレベルじゃないみたいだぜ?」


 こないだのチンピラのパンチよりきついものが、俺の胸を締め上げた。

 同時に奈落へ落ちていくような、虚無感。


 



 シレーナが…人殺し?


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