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セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile1 ガーディアンの女 ~Desperate or hopeless encounter~
23/129

23 「コンラン」

 

 「…っ! ……っ!」

 彼女の体が小刻みにびくつく。

 その様子を知らずか、スカート下部に手が差し出され、その臀部をゆっくりと撫で上げる。

 ドアへと逃げたい衝動に、脳内が混乱を極めていた。



 どこからこうなってしまったのか、全然分からない。

 セーラー服にショートカットの、所謂清純な女子生徒。

 今、自分の体で起きていることが、犯罪行為であると確実に認識できたときには、恐怖で体は硬直し、羞恥心から声すら固まってしまっていた。

 私は彼女たちとは違う。しっかりと声を出して言える。

 「この人、痴漢です!」って。

 そう思っていた。

 でも、現実は違う。

 今では怖くて後ろを振り返れない。 


 「!!」

 右のお尻に力が入る。

 撫でられたっ!?

 今度は左っ!?

 他人の手が自分のデリケートゾーンを害している嫌悪感に、体内を電気が走りっぱなし。

 できることは、足を震わせ、不快感から漏れる声を両手で塞いで堰き止める。

 ただそれだけ。

 後どれだけされたら、自分は解放されるの?


 (お願い、誰か気づいてっ!)


 少女の願いは空しい。

 周りの人に視線を送ろうとも、誰も彼も携帯端末に夢中。

 目線を固定し、指をせわしく動かしている。

 微かに、下着が肌から離れる感覚。指を入れようとしているのか。

 肌を冷たいものが走る。


 (やめっ…てっ…)

 完全に受動態となった少女の声にならない叫び。


 「辛いよね?」

 誰かが耳元でささやいた。


 (まさか…痴漢…さん?)


 「とっても苦しくて、息もできないよね?」

 それは確実に、少女の心の叫びを代弁していた。


 (分かっているなら、もうやめて!スカートに、手を入れないでっ!)


 「大丈夫だよ。今…解放してあげるから」

 えっ?解放?

 どういう意味?


 刹那!


 「ひうっ!」

 じっと我慢していた声が漏れる。

 右のお尻。

 今までとは違う、何かが突き刺さる感覚と、その後に来る痛み。

 気づくと、自分の太ももを何かが伝い落ちている。

 (嘘っ…お漏らし?)

 自分の体を見下ろした少女は、次の瞬間凍りついた。


 スカートから血がピトッ…ピトッ…と垂れていた。


 「へっ…えっ…」

 パニックに叫びたくなった瞬間!

 後ろから片手で抱きしめられる。そして


 「はうっ!」

 左のお尻にも同じ衝撃。


 刺された。


 彼女はそう判断せざるを得ない状況だった。

 思えば、最初からおかしかったのだ。手にしては冷たく先端がするどかった。

 (あれは、ナイフ……じゃあ、この人…もしかして…)

 姿を見せたそいつは、黒いフードで顔を隠していたが、猫なで声で囁いた。


 「…よかったね…気持ちよかったでしょ? ちゃ~んと、解放してあげましたからねぇ~」


 これ以上ない恐怖が、少女を支配していた。

 連続列車内通り魔。その犠牲者になってしまったのだ。

 (私…殺される…の?)

 死への恐怖。

 どうすればいいのか。

 真っ白になった脳に、意識は追いつけない。

 「お…かあ…さん…」

 白目を剥き、前にいる人の背中に倒れこんだときには、もう、通り魔の姿はなかった。


 ◆


 「おい! 気をつけろよ!」

 その怒号が悲鳴になるのに、数秒とかからなかった。

 気づいたシレーナは、すぐさま人混みをかき分けて、その中心部へ。


 「おい、君、しっかりしろ! おい!」


 若いサラリーマンに抱えられていたセーラー服の女子生徒。気を失ったカノジョの下半身からは血が流れ出し、既に車内の床をも赤く染めていた。

 瞬時に、致死量レベルの失血でないと判断したシレーナは、無線を引っ張った。


 「シレーナより各捜査員へ! 5両目で緊急事案発生! リッカー53が現れた! 警戒せよ!」

 ――シレーナっ! そっちに……。

 「動くなっ! そこにいろっ!」

 指示を出すと、少女に近寄り、応急処置に入った。

 シートに座る客が、すぐに席を立ち、そこへ彼女をうつ伏せの状態で寝かせた。

 乗客に動揺が走り、奥の乗客は何事かと、頭や体を伸ばして見ようとする。

 近くにいた女性に手伝ってもらい、彼女の周囲に人の壁を作ると、スカートをめくる。白い下着は赤く染まっていたが、命に係わる程の出血ではなかった

 「大丈夫そうね」

 どうやら、自分が被害者になったショックと痴漢された恐怖から、気を失ったようだ。

 次いで、エルと交信。

 「エル、リッカー53が現れた。臀部に二か所の刺し傷。大至急、次の駅に救急車を―――」


 「いたぞ! リッカー53だ!」


 突然、怒号が車内を走り抜けた。

 その主は、ナギ警部補。


 「逃がすかっ! 貴也クン! 犯人がそっちに行った! 取り押さえてくれっ!」

 大声で叫びながら、車内を移動しているようだ。

 彼女は冷静に、無線を取り出した。

 「タカヤ! それらしき人影は?」

 ――それどころじゃ…みんな、背伸びをしていて…うわっ…!

 どうやら、周囲を見渡せる状況にないらしい。


 「え?なになに?」

 「どうしたんだ?」

 「おい、血を流してるぞ!」

 「事故か?」

 乗客たちが口々に思ったことを吐き出し、騒ぎ始めた。


 「みなさん。落ち着いて!」

 すると、再びナギが大声で叫ぶ。


 「貴也クン! 犯人が連結部分に行ったぞ!」


 その時、ガラガラと列車の連結部分のドアが開く音がシレーナの耳に。

 ガチャン。


 閉じた。


 シレーナは、ハフシを呼び出した。

 ――ハフシ、そっちに犯人が…。

 その時だった。連結部分のドアが開くと、思いもよらない言葉が乗客の耳に届いた。



 「みなさん! 気を付けてください! 刃物を持った連続通り魔が、車内を逃走中です!」

 

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