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セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile1 ガーディアンの女 ~Desperate or hopeless encounter~
21/129

21 「合流―百華駅」

 

 同時刻

 

 ワルタナと百華の間には5つの駅があり、それを快速特急は最高速度で走り去る。

 そのワルタナから数えて4つ目の駅、白苑しらその駅付近の交差点を小型自動車が通過した。

 4ドアのハッチバック型コンパクトカー。シルバーのトヨタ パッソだ。

 実はこの車、捜査車両としてガーディアン所属校1校に対し1台、捜査車両として貸し出されている。

 それを運転するのはエル。

 53号列車より先行し、被害が発生した際に駅へ先回りするため、彼は車を走らせていた。

 校外から都市中心部へと走る、典型的な幹線道路、国道445号線をひたすら南へ。

 共通捜査車両なため、ハマーやパッカードのように、特別な名称は無い。車体前方両ドア下部と、トランクに小さくナンバーが振られている。


 「075からシレーナへ。鉄道の旅は、いかがかな?」

 ――今度の乗るときは、指定席を予約するわ。

 「ハハハ。そいつはご愁傷様ってやつだな」

 ――現在地は?

 シレーナのジョークに、笑いを飛ばすエルは、ハンドルを片手に無線へ。

 「白苑駅を通過して、百華北口駅に向かってるよ。そろそろ一般道が混み始める時間だ」

 出発した時は車がまばらだったが、片側2車線道路は今にも渋滞しそうな交通量だ。

 トラックのケツに貼られた「スピードを出さず、安全運転を心がけます」のステッカーが、何故か目について仕方ない。


 ◆


 一方の53号列車は、まだ幾らかの空白スペースがあるものの、車両定員より少し多い乗客数、といった感覚に見える。

 鞄を肩にかけたまま、というのができないくらいの混雑だ。

 シレーナはドアの方を向き、イヤホンで音楽を聴いている…ように見える。


 「百華駅への、人員配備は?」


 彼女はイヤホンのコードが合流する留め具にカモフラージュされている、小型マイクに向かって話しかける。


 ――できたよ。結局アイツ、来れないみたいだ。昨日見舞ってきたよ。熱は幾分か下がっていたけどね。

 「扁桃腺の腫れじゃあ、仕方ない。となると、配置人員は」

 ――2名。ラオとメルビンだ。


 実は、彼女の音楽プレイヤーには、無線機能が搭載されており、これを使ってエルと話をしていたのだ。

 この無線付き音楽プレイヤー、ガーディアンの標準装備の1つで、無論、ハフシや貴也も所持している。

 マンツーマンから、最大10人規模まで通信可能だ。


 ――そっちは、どうなんだ?

 「今、カンタバラ駅を通過。今のところ、目撃証言に合致する人物も、怪しい人物も確認できない」

 ――了解。こっちは百華駅での無事が確認され次第、出発する。

 「了解」


 通信を終えると、シレーナは辺りを見回した。

 新聞を読むサラリーマン、スマホをスワイプするOL、テストでもあるのか単語帳をめくる男子学生。

 女子生徒の姿も見えるが、怯えていたり、泣いていたりと異常事態は起きていない。


 いつもの日常だ。


 次いで、仲間の位置を見る。

 貴也の姿は確認できないが、ナギは目と鼻の先。電車両ドア中間部分に陣取っている。

 ガクンと、電車が減速を始めた。


 ――間もなく、百華、百華です。この駅で後ろに4両を連結し、10両編成で運転いたします。


 電車は無事に、百華駅ホームへ入線した。

 しかし、53号列車は全体の3分の1程度を走破したに過ぎない。いわば、ここからが本番と言う事なのだ。


 百華駅は静かな郊外駅で、かつて緑花木卸売センターが付近にあったことが、この駅名の由来である。

 現在は緑も豊か、国内でも「すみやすい街」として毎年上位に挙げられる。

 電車の扉が開き、数名の人が降りた直後、ドカドカと乗客が入ってくる。


 シレーナは流れに乗って、いったん外へ。

 ホームでは電車最後尾で、駅員が赤い旗を振っている。それを合図に、留置線に止まっていた空っぽの電車が入ってくる。

 その頃、彼女はホームで2人の男と話をしていた。

 1人は濃い肌色のアジア系、もう1人は目元を隠すほどの緑色の髪の青年。


 「昨日、ハフシを通じて、指示を出した通りよ。ラオ、貴方は増結した電車の先頭第2ドアに」

 「オーケー」


 アジア系―ラオが答える。


 「メルビン、貴方は第4ドアに」

 「分かりました」


 落ち着いた、というより若干暗い感じで答えたメルビン。

 2人とも、ガーディアンでシレーナの信頼する仲間である。


 「あ、それと、無線は周波数47で設定しておいてね」

 「現れますかね?」


 そう問うたメルビンに、シレーナは言う。


 「現れたら御の字よ。事件は一気に解決。私たちは暇でやかましい学校生活へ戻れるんだから」

 「やだなぁ…できれば……静かに過ごしたい」

 「解決しなくても、私の無線と調査の嵐よ」

 「それも嫌だ……」


 渋々、と言った感じでメルビンはラオと共に、電車へと乗り込む。

 一方の警察も、各車に1人ずつ捜査員を配置。ナギ班とは別の班から応援として回された面子である。



 ガコン!


 大きな音と共に、空気の抜けるシューという音が、盛大に漏れる。

 ブレーキを解除した際に聞こえるものだ。

 後ろ4両の連結が完了した。

 その後、がら空き電車の扉が開き、大勢の乗客がガーディアンと鉄道公安隊捜査員を巻き込みながら、なだれこむ。

 座席は一瞬で埋まり、次いでドア側、手すり付近と、空間心理とパーソナルスペースに基づく人間論のセオリー通りに、車内が埋められていく。


 「こちら、シレーナ。各員、状況報告を」

 音楽プレイヤーを取り出し、周波数を変えると、シレーナはマイクに話しかける。


 ――6両目第2ドア、ちいちゃん。異常なしです~。

 ――4両目第3ドア、ハフシ。今のところ異常なし。

 ――5両目第1ドア、貴也。異常ありません。


 次々と返ってくる、異常なしの応答。

 「了解。でも、気を引き締めるのはこれから。第一区画も半分とは言っても、全体的にはまだ3分の2の運転区間が残っている。時速80キロで失踪する鉄の箱を、あの亡霊の留置場にしてやりましょう!」

 そう言い放ち、電車に乗ろうとした。


 (亡霊……そう言えば、どうして彼女はあんな言葉を残したのかしら……)

 

 ◆


 午前6時45分 百華駅出発


 次は衣川。

 昨日、全てが始まったあの駅。


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