2 「朝」
琴殊27年 グランツシティ。
この国でも1、2を競うほどの規模と勢力を持つ大都市、否、それらは首都をも追い抜かそうとしていた。トルコ・イスタンブールのように、はたまたブラジル・リオデジャネイロのように。それ以外に特筆すべきは、学校を始めとする教育機関が、どの都市よりも多い。
故に誰が言ったか「輝く学生の街―グランツ」
朝陽が全てを万遍なく目覚めさせるには、まだ時間が浅い。
鳥と電車と清掃屋がようやく目覚めたところ。まだ誰しもが本能のまま睡眠を欲し、床についている。ベッドで眠っている彼女も。
純白のシーツに同化しそうなワイシャツと下着に包まれた、幼さの残る顔と体。亜麻色の肩甲骨に付くほどのセミロングは、シーツの海に浮かぶよう。
雀のさえずりを切り裂くように、スマホから目覚ましとは違う音楽が流れてくる。
ガーシュインのラプソティ・イン・ブルー。
その曲の名に呼応するように、彼女がゆっくりと目を開けた。
透き通る程綺麗な群青の瞳。
枕元で自分の存在を知らせるスマートフォンに手を伸ばし、耳に当てた。
もしもしの一言もなく、相手の男は喋り始めた。
――シレーナ。大至急、衣川駅に来てくれ。二度寝はするなよ……シレーナ? 聞いているのか、シレーナ。
「事件?」
不機嫌そうな第一声。目覚めには最悪のシチュエーション。
――人身事故だ。女子生徒が電車に飛び込んだんだ。
「自殺なら、あなたたちで調査して、後は警察と鉄道会社に任せなさいよ」
なんとも物騒な会話だ。
――そうしたいけど、そうはいかないのさ。
彼女―シレーナはベッドから起き上がると、眠たそうな眼をそのままに聞く。
――実は、この生徒は殺されたんだって訴える人物がいてね。それがなんと、俺たちの同業者なのさ。
「ガーディアン?」
――ああ。どうやら奴さんによると、死んだ女子生徒もガーディアンらしいんだ。まだ、身元照会は終えていないけどな。
「死んだ女の子は、誰かに恨まれていたの? ガーディアン殺しは、怨恨がほとんどだけど」
――そこを聞いているんだが、ずーっと、だんまりを決め込んでいる。兎に角、殺しだと訴えてきている以上、調査が必要だ。よりによって警察はただの人身事故で片づけたがっているから、現場を荒らされるのも時間の問題だ。
「ふうん。電車が動くまでの時間は?」
――現場検証がもうしばらくかかりそうだが、ラッシュの時間が迫っている。できるだけ早く来てくれ。
「了解」
シレーナは通話を終えると、ワイシャツを脱いだ。
カーテン越しに光が差し始め、白い肌に下着姿の彼女を舐めるように包み込む。
背伸びをすると、くびれた腰にしなやかな手足、発達途中の乳房がシルエットとして浮かび上がった。
「嫌な朝」
そう呟いてシレーナは、チェストの上に置かれたオーバルフレームのメガネを取り上げた。




