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セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile1 ガーディアンの女 ~Desperate or hopeless encounter~
19/129

19 「早朝―新畷駅」

 翌日

 午前5:42

 花菱鉄道新畷駅


 県境にもほど近い、校外の地上駅。

 本線となる北百合線を含む路線3本の始点のみならず、駅構内には巨大な操車場が置かれている。

 ここから、多くの電車と運転士が仕事へと向かうのである。


 始発が走り始めて久しい駅ロータリーに、ワインレッドのスカイラインが停車。

 「起きなさい」

 助手席で寝息を立てる貴也を、シレーナは肩を揺らして起こす。

 「ん……着いたのか?」

 「昨日、ちゃんと寝ておきなさいって言ったわよね」

 「うん」

 「何時に寝た?」

 「1時」

 その言葉に、シレーナは頭を抱えた。

 「何していたの?」

 「数学の復習して」

 「うん」

 「英語の宿題して」

 「ええ」

 「ソシャゲの無料ガチャ回した」

 「それ、必要?」

 「うん」


 即答。


 呆れたように、というより呆れ以外にない。

 彼女は手をひらひらさせ言った。

 「今度から、アンタの夕餉に睡眠薬でも仕込んでやるわ」

 そんな話をしていると

 「あれ、サモエド」

 ハスラーが前に停車し、中から地井とハフシが降りてきた。


 「おはようございまぁす」

 「おはよ。よく眠れたかい? 新入りクン」

 地井はいつも通りの気の抜けた感じで、ハフシは昨日とは打って変わり、セーラー調の制服で現れた。

 「シレーナ、これは……」

 「理由は後で話す。急ごう。出発まで15分しかない」

 シレーナと地井は車を近くの立体駐車場に入れ、改札前で落ち合った。 


 ◆


 人もまばらな駅構内。

 そこには、鉄道公安隊のナギ警部補と、その部下5名が打ち合わせをしている。

 昨日の事件があったため、鉄道公安隊が警備に当たることになったのだ。

 「お前たち!」

 ナギが声を上げた。

 「私たちも、リッカー53の警戒に当たります」

 「何を言っている。これはガーディアンの出る事件じゃ――」

 「既に6人が犠牲になっています。その全てが女子生徒で、内1名は知っての通り命を落とした。

  学生どころかガーディアンも狙われた。私たちの介入要件を満たす事件のはずです」

 「だが、相手はどこの誰か、分からないんだぞ」


 「そのための、我々です」


 シレーナがそう言うと、地井がナギに近づく。

 「過去の事件調書は読みました。大体のプロファイリングもできています」

 「君は?」

 「申し遅れましたね。私、ガーディアン特別スタッフの地井です」

 「特別スタッフ?」

 「ええ。彼女らを心理学の観点で補助しています」

 「……」

 「それとも、我々が介入することに、何か不都合でも?」

 シレーナの言葉にも無言。

 その時、部下の1人が話しかける。

 「隊長。そろそろ53号列車が入線します」

 「わかった」

 ナギは「仕方がない」と言うと、改札の方へ消えていった。

 彼女らも、その後を追う。


 6番線ホームに向かうと、既にクリームと淡いピンクのツートンカラーの電車が待機していた。

 車内には3人程度の乗客しかおらず、全員下を向いて寝ていた。

 ナギは、手慣れた感じで部下に指示を出した。

 この快速特急は新畷出発時には6両編成だが、朝のラッシュ時には後ろに4両を連結し10両編成で走行する。よって、途中まで1人が1両を担当する計算となる。

 連結を行う駅で、追加要因が派遣される。

 「よし、先に手筈を立てた通りだ。俺は3両目に乗り込む」

 『了解』


 一方のシレーナ達は、人が誰も乗っていない最後尾6両目に乗り込んだ。

 「で、俺たちの作戦は?」

 「慌てない。犯人が動こうとするまで、時間はたっぷりある」

 「でも、昨日ユーカを殺したのに、まだやろうとするかな?」

 すると地井が言う。

 「連続性のある性犯罪の場合、犯行を重ねることに大胆に、且つ制動が効かなくなります。犯人は女の子のお尻を切り裂きたくてたまらないはず。絶対今日、この電車で何かが起きますよ」

 「そこで、ボクたちが囮になって、犯人を捕まえるって作戦よ」とハフシ

 だが、これまでの犯行で狙われた5人に、何の共通性が感じられないのだ。

 犯人のプロファイルができたとしても、肝心の誰が狙われるのか分からなければ、手の打ちようがない。

 「電車の中を見ていたって駄目なの。外に目を向けなさい?」

 「外に?」

 シレーナは、スマートフォンの画面を見せながら、話し始める。

 「確かに、女生徒ばかり見ていては、何の法則性も見つけられないわ。年齢も学校も、そして乗っていた号車もバラバラ。でも、全てにおいて1つの共通項がみつかったの」

 「共通項?」

 「犯行後に電車が停車した駅よ。被害者のいた場所は全てドア付近、そして、そのドアは改札へ向かう階段が目と鼻の先」

 「じゃあ、犯人はナイフで刺した後に、人混みに紛れて逃げているという事か?」


 「私もそう思ったわ。でも、それがリッカー53の仕掛けたフェイクだとしたら?」


 「フェイク?」


 シレーナは頷く。

 「血を流した女の子が倒れこみ、その近くに改札へ向かう階段があるとしたら、警察は犯人が改札へと逃亡したと考える。

  でも、電車内の雑踏に紛れることができれば、誰にも怪しまれずに駅を立ち去れる。

  そうでしょ? 警察は被害者の保護と、逃げた犯人の追跡に目を向けて、誰も電車内に犯人がいるとは考えない。それに、舞台は混雑する電車。電車を長時間、その場に停車させておくことは不可能。そう、犯行現場そのものが犯人と凶器を乗せて次の駅へと走ったのよ。

  これなら、犯行があった駅の防犯カメラに、リッカー53と思しき人物が映っていないことの辻褄が合うわ。

  そして、この行為には、もう1つの意味がある」

 「意味?」

 今度は地井が答える。

 「女の子を発見してもらうためですよ」

 「どうして?」

 「シレーナちゃんが言った通り、犯行は混雑する電車内。血を流しているからと言っても、床に落ちた血痕に気づくには時間を要します。それに乗客の意識が必ずしも苦しむ女子生徒に集中するとは限らない。

  だとすれば、ドアの傍で犯行を行い。乗ってきた乗客に、その姿を見つけてもらう」

 「何のために」

 「犯人のある種の罪悪感とも、犯行に対する自己顕示とも見れますね。最も強いとなると後者」

 「案る程ね。じゃあ、リッカー53がどこで仕掛けてくるか。これが問題だな」

 するとシレーナは言う。


 「やっとガーディアンらしい言葉が飛び出たじゃない?」


 「捜査許可の辞令が降りたんだ。これまでとは違って、気を引き締めないとな」

 そう言って胸をポンと叩く。


 まるで合図のように、ホームでブザーが鳴り、扉が閉まった。

 「無論、ユーカのためにも…コイツは、風紀委員の真似事なんかじゃない。ホンモノの事件捜査なんだから」

 その言葉を聞いて、ある意味シレーナは安心と共に不安を覚えた。

 捜査の足手まといになる可能性は消えた。だが、恋人を殺した犯人を前に彼が冷静でいられるか。

 決意の中に彼女の名前があったことから、シレーナに一抹の不安がよぎった。

 それに……。

 彼女は自分の思考を振り払うと、言った。


 「さて。この悪魔のようなアトラクションを攻略するには、大きく分けて2つのゾーンに分ける必要があるわ。今から、それを説明する」




 午前6時08分 花菱鉄道北百合線53号 東ドーラ行快速特急 出発

 次の停車駅は市民球場駅


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