表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile2 狂へる遊戯 ~Strawberry Fields Forever~
123/129

69 「子宮」


 ハフシのアイアン・ナース、エルのパッカードが到着した時、狭い路上をレッドキャップの車体が塞ぎ、仁王立ちする彼女の視界の先には、横転した救急車がいた。

 フロントは左半分がメチャクチャに破壊され、ヘッドライトは死んでいたものの、LEDの赤色灯だけは輝き続けていた。


 「シレーナ!」


 貴也は車から飛び降りると、叫びながら彼女の元へかけようとしたが――


 「来るな!」

 「!!」


 彼女が見に纏っているものには覚えがある。

 以前、トークンモールで見た“それ”と同じ。


 「まだ終わってない」

 「終わってないって…あれだけ大破してりゃ――」

 「死んでない。分かるんだ。ワタシと同じ匂いが、壊れた箱から臭ってくる」

 「まさか…」


 刹那!

 轟く衝撃音と熱波!

 横転した救急車が爆発し、夜空を煌々と照らす!

 全員の目は、そこに釘付け。


 「!!」


 シレーナの身体が、何かを感じ取った。

 左斜め。違法駐車の2トントラックの影!

 足が動いた!


 その左手は、スクロールしながら照準を定めた!

 

 共鳴する銃声! 交差する銃弾!


 全てが終わった時、舞台に現れたのはガソリンタンクを撃ち抜かれたワゴン車と、腹部を撃ち抜かれた少女。

 群青の瞳は、トラックの影から出てきた彼女を、無表情で出迎えた。


 「どう…して…」

 「これが、ワタシの仕事だから…」

 「仕事…まさか…アンタが……スマイル…」

 

 そう言葉を残すと、エマは倒れ小刻みに震える。

 寒さに怯える子供のように。


 「怯えなくていい…少し早く、アンタの“夕暮れ”が来ただけ…」

 「そ…んな…」

 「いつもなら、一発で仕留めるんだがな。元凶たる子宮を撃ち抜いといた。

  アンタの事情に、同情はないと言えば、それは完全に嘘になるし、どちらかと言えば嫉妬に似た感情なんだろう。

  “ワタシ”も、アンタと同じように弄ばれた。だから、ワタシには子宮がない。

  アンタの姿が悲しく、うらやましかった」

 「お…とうと…く……」


 エマの幼い体が、静かに動きを止めた。

 目からこぼれる涙が、熱されたアスファルトに零れ落ちる頃、シレーナは亡骸に語りかける。


 「綺麗な体で旅立ちなさい。そして…もう、目覚めないように…」

 


 ゆっくりとエマから離れる頃、死んだ本人の銃弾によって垂れ流されたガソリンに、救急車の炎が引火。

 路肩に駐車された車が次々と火だるまになっていく。

 街路樹にも燃え広がり、街区にまで延焼するのは時間の問題。

 遠くから、消防車のサイレンが。


 全てが終わった。

 シレーナはゆっくりと、貴也の方へと歩みを向ける。

 幸か不幸か、彼女の処刑を見ていたのは、貴也だけ。


 「行ってくる」

 そう、吐き捨てて。

 「どこに行くんだ!」

 「決まってるだろ? 本命を撃ち抜くのさ。ワタシ達の本来の標的はジョナサンだ」

 

 貴也の肩を透かし、亜麻色の髪がすうっと行き違う。

 歩み出したシレーナに、彼は振り返りながら叫んで呼び止める。


 「シレーナ! さっきのは…」

 「タカヤ。先に言っておく。多分、今までワタシに関する昔話をいくつか聞いてると思うが…」

 「ああ」


 「全て、本当の話だ。過不足も妄想もない真実だ」


 「……」


 「同情すると言うなら、それは胸に仕舞ってすぐに引き裂け。幻滅すると言うなら、黙ってここから立ち去りなさい。

  話は以上だ」

 

 「シレーナ!」


 彼は再度、彼女を呼び止めた。

 眉をしかめ、真剣な表情で。


 「命を…粗末にするなよ」


 「……」


 「俺は、君がこっち側に立っているって、信じてるから!」


 その言葉を背中で受け取ったのか否かは分からない。

 無言で、M班の車が集結するヘッドライトの林へと消えていった。


 背後で燃え広がる炎。

 言葉の意味を理解する時間はなく、エルの怒号で貴也は現実へと引き戻されるのだった。


  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ