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セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile2 狂へる遊戯 ~Strawberry Fields Forever~
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64 「ラスト・チェイス」


 ――おい! まだ見つかってねーのかよ。連続殺人犯。


 ――どうやら西区に現れた模様。国道を何台もパトカー疾走中。


 ――子供を襲うの飽きたから、今度は女性ばかり無差別に襲ってる模様。

 

 ――ワイ、JC。殺されるの怖いから、明日学校休むニキww


 

 実況、デマ、おふざけ。

 轟々と流されてくる情報の嵐。小鳥のさえずりは最早、騒音。

 路肩に停まったアイアンナースの車内で、サンドラは事件に関するツイッターの呟きを見ていた。

 既に嬰児遺棄事案は、聖トラファルガーの手を離れM班、特にシレーナこと“スマイル”の手に委ねられている現状。

 その上、地井を見守っていても何も始まらない。朝倉沙奈江に、彼女を任せて2人はトラファルガー・ガーディアンから、M班へと立場を移して動き始めていた。


 2人がいるのはコデッサ区。巨体の横を車が追い越し、何台かは地下への入口へと吸い込まれていく。

 この先は、グランツシティ中心部外側を周回するハイウェイ、新都市高速グランツ線が走っている。


 「すごいデマの数ッス…このままじゃ、不安は広がるばかりッスね」

 「ああ。どうにかして、連中の居場所を突き止めないとな」


 しかし、ハフシはハンドルを握りながら歯ぎしりをする。


 (一体、彼らはどこに?)


 その時、アイアンナースの無線からエルの声が叫んだ。

 

 ――ハフシ! サンドラ! 応答してくれ!

 「こちら、ハフシ」

 ――2人が動いた! 救急車を奪って逃走中だ!

 「場所は?」

 ――西区からアラヤド区中心街に向かってる。さっき、警ら中のパトカーが1台、手配車両を見つけて追跡している!

 「分かった。今、ハイウェイ入口だから、10分ほどで合流できるはずだ。そっちは?」

 ――グルナ区のトンプソン邸にいた。今、ダッシュで向かってるところ!

 「オーケイ!」


 無線を切り、ハフシはエンジンを入れる。

 

 「救急車を強奪って…あの2人、どこに向かってるんッスかね」

 「さあね。でも…人の命を弄ぶのは許せない!」


 アクセルを踏み、クラクションと共に車道を思いっ切り縦に横断すると、白い巨体は地下への入口へ消えていくのだった。


 ◆

 

 同時刻

 アラヤド区 家庭裁判所前。

 家裁通り

 

 

 文字通り家裁前を通り、センター街、国鉄アラヤド駅の北側を突っ切る大通り。

 2車線道路を塞ぐ検問所は、一触即発の状況を維持していた。

 全ての車の流れを遮断し、市警のパトカーが壁を作る中――


 「来たぞ!」


 そいつは赤色灯を点滅させて、ヘッドライトの彼方から姿を現す。

 ニッサン NV350をベースとしたバンタイプの救急車。

 端から見れば、緊急車両がやってきた。そう見えるだろう。

 しかし、警察官は手にしたサーベルライトを振り上げ、身を挺して叫ぶ。


 「止まれーっ! 止まるんだーっ!」


 救急車の後方には、サイレンを鳴らす市警のパトカーが1台。

 だが、救急車は止まらない!

 逃げる警官を振り切り、パトカーを弾き飛ばして、検問を突破。

 どう見ても、緊急走行ではない!

 追いかけるパトカーに追随し、家裁近くの路地に隠れていた市警のパトカー2台が飛び出した。


 「アラヤド5より市警本部。手配車両は家裁前検問を…突破。国鉄アラヤド駅方向へ尚も東進」

 ――本部、了解。


 救急車は体を震わせ、1台、2台と一般車を追い抜いて行く。

 赤信号をも突破していくが、警告はない。

 仰天したトラックが、狂気を纏ったボックスを避けて横転。コンテナが対向で停止する車列を押し戻す。

 お次は避けきれない旧式のダッジに衝突。ハンドル操作を失って、反対車線に。真っ赤なBMWと正面衝突。沈黙。

 

 このままでは、被害は拡大する。

 逃げるためには手段を択ばない――それも、最悪な手を使っても。

 

 不意に、救急車の後部ドアが開かれた。

 ぴったりと背後に付いた市警のパトカーが1台。

 車内を確認するより先に、何かが車から降ろされ、パトカーのフロントガラスを突き破った。


 「う、うわあああああああああっ!」


 警察官が気づいた時、それは恐怖以外に表すものがない。

 ヘルメットから滴る血。警官の眼と、首を一文字に掻っ切られ絶叫の表情のまま死んでいる救急隊員の眼が合ってしまった。

 逃れる術もなく、死体は窓ガラスに固定されている。

 この先は交差点。進行方向は赤。

 救急車が通過した後、コントロールを失ったパトカーが差しかかり、丁度横切ろうとしたピックアップトラックと衝突。

 反動で2台は、角にあるコンビニエンスストアに突っ込んだ。

 立ち読みしていた女子学生グループを弾き飛ばし、会計に並ぶサラリーマンや老婆の上に乗り上げ、辛うじて息の合った彼らの身体を、ドリンクの冷蔵棚に押し込んで2台は止まった。

 エンジンオイルや破裂したジュースが、着ているスーツやセーラー服を汚し、クーラーがまだ温かい彼らの体を冷やしていく…。


 だが、奴は省みない。

 どこから持ってきたか、つっかえ棒のようなもので、エマが後部ドアをバンと閉め走り続ける。

 人を救うはずの乗り物は今、閻魔に生贄をこさえる餓鬼と変貌したのだ!


 ◆


 事態を重く見たアラヤド署は、全てのパトカー、警察官を総動員し行動を起こした。

 家裁通りに続く、全ての交通を遮断。通りを走る車両を、別の通りへと急いで逃がしていく。

 繁華街は騒然とした事態に陥った。

 パニックになる交通を後目に、救急車は光り輝く街角を横切り、国鉄アラヤド駅に向かう。

 何本もの電車が行き交うガード下をくぐり、アラヤド駅北口を通過。

 

 響くスキール音!


 黄色いパッカードがスピンターン!

 エルの操る捜査車両、イエローフラッグ!

 ようやく、狂気の行進に加担し、全速力で後を追いかける。

 

 「あの救急車か!」

 助手席に乗る貴也が、無線を引っ張り叫ぶ。

 「イエローフラッグより各移動、手配車両を捕捉! 現在、アラヤド駅北口を通過。尚も東進中!」

 一方のエルは、ハンドルを懸命に動かし、一般車両を交わしていく。

 ビンテージとは思えない程の、アグレッシブでスピーディーな動きで。


 「コイツはただのパッカード 160・クラブクーペじゃない。カマロのエンジンを積んだオリジナルだ。逃げ切れるかな、ボニー&クライド」

 

 ギアを入れ替え、迫る黄色いオールドファッション。

 唸るエンジンは、既存の車種のそれと違う荒々しい怒号。

 2台は遂にアラヤド区を出て、中央区に進入。

 この先は多くの学園や企業支社、行政機関が集中するシティ心臓部。


 緊張がヒートゲージを盛り上げる中、救急車が突然の進路変換。

 カーブの先に、姿を消した。


 挿絵(By みてみん)


 「ハイウェイの入口だ」

 救急車は、新都市高速グランツ線のインターへと進入。外回りと呼ばれる、北区・コデッサ区方面へと進んでいく。

 「この進路なら、ハフシ達とぶつかるぞ。一体、どこに行く気だ?」

 「わざわざ、手配が一層厳しくなってる拠点に戻るなんて…」

 エルと貴也も疑問を持ちつつも、アクセルを緩めるわけにはいかない。

 パッカードもハイウェイに。チェイスは高速での第二戦にもつれこんだ!



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