表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile2 狂へる遊戯 ~Strawberry Fields Forever~
108/129

54 「悪魔の館」


 「パパ。ゲームってのは、そんなに長い時間楽しめるモノなの?」


 ドアにもたれかかって、正気のない瞳と共に笑みを浮かべる少年。

 どう見ても、どう聞いても、そこにいるのは死んだはずのジョナサン・バーン。


 「お、お前…死んだんじゃなかったのか?」

 「やだな、パパ。残ってたのは、あれだけ焼かれた体だけでしょ?

  どうして、それだけで俺が死んだなんて確証が持てるんだい?」

 「…」

 「もしかして、昨日のアレを本気で受け入れたと思ったの?

  そこの火かき棒で殴りながら、自殺しろって言った事をさぁ」

 

 蒼白のロイスに向け、そう言うと、隣にいたレオンが声を強める。


 「どういう事なんだね、ロイス!」


 詰め寄る友人の目を見ることなく、ロイスはただただ黙るだけ。

 これでは…と思ったのだろう、今度はジョナサンに“救いの手”を振った。


 「お父さんに何をされたんだい? この私に、打ち明けてくれないかね?」

 一笑。

 「フンっ。どこの誰か分からない奴に、悲劇の主人公を演じる程、俺は馬鹿じゃない」

 「……」


 レオンを遮るように、ロイスは言う。

 

 「黙っててくれ、レオン。これは、コイツと俺の問題だ」

 「流石パパ」

 「黙れ! 一家の名を汚したお前なんか、息子でも何でもない」

 「残念だよ。初めてアンタを父親って呼んであげたのにさ」

 「今更、死人が何を言うか」


 すると、ジョナサンはポケットから一枚のカードを取り出して、テーブルの上に放った。

 ロイスが取り上げると、それは見ず知らずの少年の学生証だった。


 「アンタらが飯食ってる時に、ゲーセンで知り合った少年だよ。家族がケンカばかりして不安定らしくて、家に帰りたくなかったそうだよ。

  だからさ、俺、助けてあげたのさ」

 「助けた?」

 「そう。これから不幸な人生しか送れない彼の未来を、回避させてあげたんだ…優しいでしょ? パパ」


 「まさか…あの焼死体は…」

 「そう、彼だよ。今頃、幸福な世界にいるはずだよ」


 ロイスは冷静を装いながら、混乱する脳に命令を出し続ける。

 彼から目を逸らせ! ここから逃げろ!

 そう…。

 でも、出来ない。

 目を逸らすことができない。

 ジョナサンの声にも目にも、自慢や妄想と言った歪曲から来る恍惚と言うものが無い。

 かといって、そこに自己観念から来る主観以外の何かがあるかと言われれば、何もない。

 彼は異常だ…否、異常ゆえに本気だ! 

 そして、気付く。


 「お前…そのために、子供たちを?」

 待っていた。

 そう言わんばかりに、声を殺した笑いが、部屋に響いた。


 「ありがとう。パパ」


 まさかの謝意に、2人は凍りつく。


 「理解してくれたのは、パパだけだよ…そう、あの子たちを。 僕は、あの子たちを救ってあげたんだ」


 ◆


 「そんな…だって、あの遺体はロイスが、ジョナサンのだって確認したハズじゃない!」


 ゾディアックの中でも混乱は起きていた。

 声を荒げるエミリアに、エルは言った。


 「ロイスが、デタラメに確認したとしたら? そして、身元確認でそういったことが起こると見越して、ジョナサンが、背格好や体格を似せた、別人を用意したとしたら?」

 「となると、彼はまだ、このグランツシティのどこかにいるってこと?」

 「そう考えるのが、当然ってやつだわな」

 「じゃあ…」

 「これで死体が4つ。奴は、殺すことを覚えちまったさ」


 ◆


 「どうして、そんなことを…私へのあてつけか?」

 

 恐る恐るロイスが聞くと


 「いいえ」

 「では、君のお母さんか」

 「いいえ」

 「なら――!!」

 

 「同じ過ちを、防ぐためだよ」

 

 「どういう意味だ?」

 ジョナサンは、説明を始めた。


 「うちの家族も、いたって“普通”だった。“普通”だったのに、ある日突然崩れた。

  俺の恋人も…いいや、家族になるはずだった人も同じように。

  それで気づいたんだ。

  どんなに“普通”で“ありふれた”家族も、何かがキッカケで、最後は崩れるんだって。

  だったら、全てが崩れる前に、こっちから崩してあげよう。そう思ったんだ。

  最後に気付く痛みが強烈なら、前もってやってくる痛みの方が、幾らか軽いだろ?」


 「それで…子供たちを…」

 「この手で殴り倒したガキは、どいつもこいつも幸せそうだった。家族に曇りも欠点も見当たらなさそうだった。

  幸せであるほど、不幸になった時の痛みは大きいのに、それを考えずに生きている。

  それって、亀裂が入ったら一発で崩れる不良物件と同じじゃん?

  だからさ、それをアイツらに教えてあげたのに、なあんにも理解しようとしないんだ。

  やっぱり、平和ボケは一番駄目だよ」

 「そんな理由で殺したのか?」


 「殺すつもりはなかったんだっ!!」


 激昂した彼の声が室内に響き渡る。


 「俺は悪くないんだ。どいつもこいつも、何を教えても“ごめんなさい”しか言わないからさ、頭にきちゃって…気づいたら死んじゃった」

 「女の子もか」

 「ああ。アレは殺すとこ見られたから、恋人が殺してくれた」


 表情を変えずに、淡々と話すジョナサンを見ていた彼は、うなだれ声を掠める。


 「なんということを…」

 

 それが、ジョナサンには歓喜に見えたらしく


 「パパ…嬉しいんだね?」

 「この……クズ野郎がっ! お前なんか、人間のクズだ! そんな奴は、この屋敷にはいらない! でてけ!」


 刹那――! 


 ◆


 「シレーナ?」


 鳴ったケータイに出て、相手は叫んだ。


 ――エル! 直ぐに突入しろ! ジョナサンは自分の母親を殺す気だっ!

 「えっ!?」


 直後、遠くから轟く乾いた音。

 エルには、それがパーティクラッカーでないことはすぐに理解できた。


 「銃声だ!」


 咄嗟にエミリアが車を降り、門に向かう。

 頑丈過ぎる鉄の門は、完全遠隔操作のため、手動ではびくともせず。

 インターホンを押すが、音どころか、なんにも反応しない。


 遅れてきたメルビンが叫ぶ。


 「どうしたんだ!」

 「びくともしないのよ。この門!」

 

 すると、メルビンは傍の監視カメラを見て、あることに気づく。

 レンズが動いていない。その上、人が通るための小さな扉もロックされている。

 

 「内部から出入り口がロックされてるんだ!」

 「嘘でしょ?」

 「多分、ジョナサンだ。屋敷から、誰も外に出さないために!」


 ◆


 ロイスは、さっきまで開いた口をつぐんだ。

 その代わりに、床に倒れたレオンには新たな口が後頭部に開き、そこから血が染み出していく。


 「すげえや。パパのお友達は、銃の的にもなれるんだね!」


 その言葉は、かつて自分に投げつけられたものと同じ――。

 ジョナサンは悦に浸りながら、眠そうな目と、まだ銃身が熱いトカレフを、ロイスに向けた。

 

 「これで、どこを狙えば人は死ぬのか、わかったよ」

 「ま、待ってくれ…」

 「大丈夫。皆、向こうで待ってる」

 

 そう言うと、左手でずっと持っていた、黒いゲームコントローラーをロイスの膝元に、放り投げた。

 血の色が、それと混ざり合ってしまった塊が、何を意味するか。

 ロイスには、すぐにわかった。


 「じゃあね」

 「お…お前っ!」


 再度銃声。

 再度、再度、再度!


 ◆


 響いてくる銃声は聞こえるのに、何もできない焦燥感。

 無駄とわかってても、門戸を揺さぶり、蹴り上げる2人。


 「どうすればいい?」


 その答えは、背後にあった!


 「どけっ!」


 向こうで叫ぶ声と共に、激しいスキール音。

 気づいた2人を掠め、バンが鉄の門に向けて一心不乱――!


 断末魔にも似た衝撃音と共に、白い車体が重厚な壁を打ち壊す!

 エンジンルームを潰し、窓ガラスも外れたバンは、惰性でガレージ前を過ぎ、植え込みに乗り上げ、そのまま邸宅の一室に突っ込んだ。

 建物に穴を開けた車は、車輪を空転させたまま沈黙。

 

 「エル!」

 

 車が門に突っ込む前に、路上に飛び降りたラオは、ゆっくりと立ち上がり、自分が起こした大突撃のありさまを、口笛で自画自賛。

 エミリアとメルビンの心配もよそに、無傷で。 


 「あーあ、新車だったんだけどなぁ。またシレーナから大目玉だ」

 「命には代えられないわ。死ぬのは御免よ」

 「それは言えてますね」


 エルは2人を見ることなく、外れかけた右側の門へと歩み寄り、それを一蹴。地面に完全に横倒しにして、言い放つ。


 「その言葉は、全てが終わってから言おうぜ」

 「そうね。違いないわ」

 

 3人は、その手に各々の銃を握りながら、悪魔の館を見上げるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ