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ゆるり秋宵  作者: たむら
season1
21/47

約束は、春に(☆)

「夏時間、君と」内の「夏時間、君と」の二人の話です。「如月・弥生」内の「チョコレートはあげない」にも関連しています。

白川(しらかわ)さん、来週の土曜日、一緒に文化祭に行かない?」


 火曜の朝、HR前に私を訪ねてきた理数クラスの滝田(たきた)さんからそう誘われた。

「え? ――ああ、そっか」

 子安(こやす)君のお友達の彼女が滝田さんだってことは、付き合いはじめの頃に子安君から聞いた。万事のんびりな私から声を掛けるより早く、人懐こい滝田さんはある時突然文系クラスにやってきて、『子安君の彼女さんだよね?』と、ボーイッシュできりりとした顔をにこにこさせて、私に話し掛けてくれた。それから、変にベタベタすることもなく、廊下で顔を合わせれば声を掛けあう、気持ちのいい関係が続いている。


 滝田さんは大好きだと云う缶のアップルティー――校内の自販機では売ってない――を飲みながら、「もしかして、その日って予定あった?」と缶を持つ肘をもう片方の手で支えながら小首をかしげた。そんな仕草さえもいちいちかっこよくて、同性ながら少しどきどきしてしまう。

「ううん、ないよ。行きたいと思っては、いたんだけど」

 その含みのある言葉を滝田さんは「そうだよね」とあっさり看過した。

「うちの嵯峨(さが)君は女受けしないタイプだけど、子安君は心配だよねー」

「――うん」

 ほんとは子安君からもおいでよって誘われてたけど、うーん、てごまかしてた。だって、行ったら絶対女の子に写真撮られてたりするもん。普段だって、一緒に街を歩けばその外見で視線をすーっと集める人だし、お祭りモードな文化祭ならナンパだってされちゃうかもって、行きたいけど足踏みしてた。でも。

 もし一人で行ったなら何かあった時凹んでそのまま帰っちゃうかもしれないけど、滝田さんが一緒なら、心強いと思ってしまった。

「やっぱり、行きたいな」

「うん、行こう行こう!」

 滝田さんがにこっと笑って、「じゃあまた詳しい事は近くなってからね」と手を振って、自分のクラスへと帰っていく。――一六五センチの私より何センチか高い背を、丸めることもムリに張ることもなく、踊るようにすいすいと廊下を歩く滝田さんの後ろ姿を見て、うーん素敵だなあって思った。確かに、後輩なら思わず憧れちゃうかもしれない。


 『文化祭、滝田さんと行くね』ってメールしたら、すぐに大喜びなテンションのお返事が来た。――お返事をもったいぶっててごめん。しかも心の狭い彼女でほんとごめん。

 そう思いながら、『楽しみにしてる』って送った。


 男子校の、しかも彼氏の学校の文化祭なんていくのは初めてなので、勝手が分からない。

 服装をどうしようかと滝田さんに相談したら、「白川さん考えすぎだよ、いつもどおりで大丈夫だって!」と笑われてしまった。

「まーあたしも初めてだけどさ、彼氏の学校の文化祭とかって」と云うけど、その割に余裕だ。その事が不思議で、聞いてみれば「ラブラブですから!」ってな答えが返ってきた。

「いや、ほんとにさ」って、滝田さんは照れ笑いして、それからすっと真顔になる。

「色々云う人はいるじゃん、『どうして彼氏があの人なんですか、もっと釣り合う人じゃなきゃ認めません』なんて云う後輩もいるしさ」と、云われたことを思い出してか、眉をぐっとひそめて、それからすぐにゆるめられた。

「でもさあ、いいんだもう。嵯峨君は私のことちゃんと大事にしてくれてるし、嵯峨君でっかいから私も自分がでっかいこと気にしないでいいし、そう云うの全部ひっくるめて好きなんだもん」

 柔らかく笑う滝田さんは、もう『西女の誇る麗人』なんかじゃなく、ただの普通のかわいい女の子だった。

 そっか、ラブか。なら私だって負けてないと思う。中学の時からの恋心だってあるしね。

 とは云え、今は互いに受験生だし、模試の帰りにお茶だとかデートのあとに塾だとかばかりで、一日フルで遊ぶ機会も最近はなかなかないのがちょっと不満だ。

 毎朝電車の中で会ってるくせに、贅沢なの。でも、会いたいなあ。多分、いくら会ってもいくら遊んでもキリなくそう思うんだろうな。


 中学の時には、諦めてた。だって自分は彼より背が高かったから。

 猫背になってみても背は縮まらないから、せめて姿勢くらいはよくしようと、クラスのいじわるな男子にからかわれて泣きたい時にも半ば意地で背を伸ばしてた。

 そしたら、子安君はそんな私をちゃんと見ていてくれた。かなわないって分かっていても、余計に、好きになった。

 でもやっぱり告白する勇気が出ないまま卒業して、同じ駅で同じ路線を使っている筈なのに会えずじまいで、――すごく後悔した。

 毎日好きな人に会えるってことは、とっても恵まれているんだって云う事を、その機会を失ってから痛感したなんて、気が付くのが遅いよね。

 進学したのが共学校なら、もっと他の男子に目がいったのかもしれない。でも、私が通ったのは女子高で、バイト先でも子安君より気になる人に巡り合うこともなかった。


 毎日、駅ですれ違う人の中に、乗り込んだ電車の中に、その姿を探すのはもう習慣になってしまって、なかなかその癖が抜けないまま、気が付けば高校三年生になってしまっていた。いくらなんでものんびり過ぎると、諦めが悪くてマイペースな自分に呆れた。でも。

 四月、子安君は再び私の前に現れて、向こうから声を掛けてくれた。――悔しいな。探してたのに、その日だって。でも、そんなのすぐにどうでもいいことになった。

 それまで毎日探してたご褒美みたく、平日の朝は毎日電車で会えるようになった。それだけじゃなく、お付き合いまで。

 好きな人に、好きになってもらえるなんて思ってもみなかった。それだけでよかった筈だったのに、贅沢になっちゃった私は『彼氏がカッコ良すぎて困る』なんて思うようになっちゃってたんだなあ。やっぱり気が付くの、遅い。


 文化祭で、彼はどんな格好をしてるんだろう。子安君ときたら、いくらたずねてみてもカフェだと云う事以外は『当日までのお楽しみ』って笑うばかりだ。滝田さんの方も、『嵯峨君も教えてくれないんだよね』と首をひねっていた。

 カフェ、かあ。執事みたいな恰好とか、おしゃれなカフェのギャルソンみたいなのとか、すごく似合いそうで――やっぱりちょっとモヤモヤするかも。


 自分たちの文化祭は、私立の女子高のせいもあってかセキュリティが厳しい。外部の人は招待券がないと入れなくって、しかも男性は父兄に限られるので、嵯峨君と子安君を呼ぶことは出来ない。それを残念だねって滝田さんと悔しがった。

 そしていよいよその翌週は、松風高校の文化祭。


 ケヤキ並木(『松風』なのに)の一本道の奥にある、松風高校。少し離れた所からも見えた大がかりなアーチをくぐって、滝田さんと二人して男子校に潜入した。


 Tシャツの上にパーカーを羽織って、キュロットスカートからすらりと伸びたおみ足が履いているのはニューバランスのスニーカー。スポーティーなその装いは滝田さんにすごく似合ってて、思わず見惚れちゃった。

 そして、いつもは制服のボックスプリーツスカートを履いていてもどこか男の子っぽさ漂う滝田さんが、今日はどこから見ても女の子だ。何故だろうと思っていたら、耳にはリボンをかたどった金のイヤリングがチェーンの先に揺れていた。

「これ、嵯峨君が誕生日にくれたやつなんだ」と照れながらそっと耳に手をやる仕草を、噂の嵯峨君にも見せてあげたい。

 私は結局、膝丈のシャツワンピースにカーディガンにぺたんこのブーツって云う無難な格好で来てしまった。――ほんとは、前にこのシャツワンピース着た時に子安君が「かわいい。白川によく似合ってる」ってデートの合間にぼそっと云ってくれたから。その時から、私の中でこの服はスペシャルになった。ほんと、単純。


 法被を着てはちまき巻いて、まるで電気屋さんにでもいそうな格好の子があちこちで呼び込みをしている。それを笑って断りつつ、ようやくたどり着いた三年一組。

 その入り口には、『女装カフェ』とでかでかと書いてあった。

「女装カフェ……」

 思わず呆然と呟いていた隣で、滝田さんがおなかを抱えて大笑いしてた。

 で、でも、全員が女装って訳でもないかも。そう思っていたのに。

 戸口で二人してつっ立っていたら、一〇〇均で売ってそうなやっすい金髪のかつらをつけて、チアガールの格好をした子安君が「禁断のカフェへいらっしゃーい」とノリノリで私たちを出迎えてくれた。折角整った顔立ちなんだから上手にお化粧すればいいのに、わざとほっぺと口は真っ赤っかで、水色のアイシャドーを二重の部分にきっちり入れて。――やだ、私も我慢出来なくて笑っちゃうよ。

 滝田さんと二人して、腹筋とほっぺが痛くなるほど笑って、そんな私たちの前で子安君は「笑わないでよ、傷付いちゃうわ」ってくねくねするからいつまでたっても笑いのループから抜けられない。

 そんな子安君の後ろから、山のように大きい人が「なんで子安は平気なんだ……」って渋―い顔して云いながらのそっと出てきたと思ったら、滝田さんが「さ、嵯峨君っ……!」とだけ云ってまた新たな笑いのツボにはまってしまった。――子安君に負けず劣らずパンチの効いた格好をした彼に、こちらから挨拶をしてみた。

「はじめまして、白川です」

「はじめましてがこんなんですいません、嵯峨です……」と、セーラー服を身に纏った大きな男の子が、毛糸でつくったらしいおさげ(でっかいピンクのリボン付き)を揺らしてものすごく恥ずかしげにお辞儀をしてくれた。

「ちょっ、やだもうかわいいっ! かわい過ぎるぞ健たろ子っ」

 滝田さんが涙を流しながら笑って、それでも携帯で撮影を試みていたけど、やっぱり笑ってる振動でどうしてもぶれてしまうらしい。

「こら、笑うな」

「ムリだよぅ!」

 賑やかな二人の横で、私もそっとねだってみた。

「……子安君、写真、一緒にとってもいい?」

「いいわよ~」

 あくまでにこやかに了承すると、私と自分の携帯を嵯峨君に渡して、チアガールっぽいポーズをばっちり決めてくれた。

 ああもう明日、筋肉痛になりそう、笑いすぎて。


 嵯峨君はその姿で写真を撮られることをものすごく嫌がっていたんだけど、結局滝田さんが押し切って、そちらの二人も無事に撮影できた。――セーラー服の半袖から見えた逞しい腕に滝田さんがぎゅっとしがみついてて、嵯峨君は「嬉しい筈なのに素直に喜べない……」ってこぼしてた。

 撮影を終えて、ようやくカフェに入り滝田さんと席に着くと、すぐにメニューを持った嵯峨君がやってきて、「食べ物も提供してるけど、普段家庭科でしか調理になじみのない男連中の作るもんだし、飲み物だけにしといたほうがいいよ」って長身を屈めてそっと教えてくれた。その助言に従って、『初恋の味』という名のただのカルピスと、『刺激的な恋』という名のただのコーラをそれぞれオーダーした。それを飲んでいる間にも、嵯峨君はやってきた部活の後輩に「似合ってますよ!」って云われて憤慨してたり(それでまた滝田さんは笑いの発作が起きてた)、子安君はポンポンを振って呼び込みしていたりと見ていてちっとも飽きない。

 そうこうしている間にドリンクを飲みきって、出ようかと滝田さんと話していたら「もうちょっとここで待ってて」と子安君に足止めされた。それから五分後、二人は机を積んで仕切ってある向こう側へと消え、そしてほどなく戻ってきた。お化粧を落として、『男装』してきて。

「おまたせ、行こうか」って子安君に手を差し出されて、素直にこちらも手を差しのべる。滝田さんたちは、と二人を見れば、同じように手を繋いで「じゃあまた後でね」ってもう扉から出るところだった。

「二人は早いねえ」と感心したら、「白川がのんびりなだけだよ」だなんて云われてしまった。失礼しちゃう。口をとがらせてたって笑ってる。

「仕方ないでしょ、私がのんびりなのは今始まったことじゃないし」って抗議した。

「別に悪いって云ってないよ」

 笑って云う人なんて、知りません。つんと澄まして云ってやりたいのに、手を繋いだままじゃ説得力はゼロだ。

 メイクもきれいに落として、いつもの制服姿に戻った子安君は、心配してた通りに周りの女の子の視線を集めた。断りもなく彼に向けられる携帯やスマホと、知り合いからか、掛けられる声。

 そんなので私が胸を痛める前に、子安君は「いくよ!」って繋いだままの手を引いて、一気に廊下を走りだした。

「え、何、待って待って!」

 つんのめりそうになりながら、人の波を縫うように進む子安君について行く。角を曲がって、階段を上って渡り廊下を渡って階段を降りて――あとは、分かんない。今手を離されたら迷子になる自信がある。

 子安君が足を止めたのは、部室棟前。同じだけ走ったのにどうしてそんなに元気なの、部活も夏で引退したくせにって云ってやりたいけど、普段運動なんかしない身でのダッシュで、とってもそれどころじゃない。ハアハアと何度も大きく息を吐いて、ようやく苦しくなくなった頃合いでまた手を引かれて、今度はゆっくりと歩いたまま部室棟の玄関を開けて入る。

「い、いいの? 勝手に入っちゃって」

「いいでしょう、俺生徒なんだし」と笑って、階段へと連れて行かれた。いや私バリバリ部外者なんだけど、と思っている間に、またどんどん階段を上られてしまう。もう。

 幸い二階建てなのでそれ以上は登れない、と思っていたらさらに屋上へ。子安君に引っ張ってもらって、なんとか上りきる。屋上の扉は鍵とかついてなくてセキュリティは大丈夫なの? って心配しながら、一緒にそこへ出た。

「わあ……」

 学校が高台に立っているので、低層階の屋上からでも遠くまで見晴らせる。

「あっちが駅。で、そこがハンド部のコート。並木通りからすぐのとこに、うまいサンドイッチ屋さんと和菓子屋さんがあるよ」

 遠くを差したり、足元近くを示したり。おかげで、子安君の松風高校ライフを垣間見ることが出来た。

「で、ここは一番のお気に入りの場所!」と云うや否や、大の字になって寝転がる。その横で、私もぺたんと座り込んだ。

 雲一つない晴天の、文化祭日和。校舎の中では放送がひっきりなしに流れてて活気もあったのに、ここだけぽっかりとのんびり空間だ。

「いつもここで、何してるの?」

「なーんもしない。ボーっとしてるか、寝てるか、音楽聞いてるか、白川のこと考えてるか」

「私?」

 びっくりして聞き返すと、目をつむったまま笑う。

「そ、私のこと。今何してるかなあとか、学校でぽーっとしてないだろうなあとか」

「ひどーい! ちゃんとしてるよ!」

「大丈夫、白川の実態は滝田さんからも聞いてる」

「……どんなふうに?」

「『マイペース』、だって」

「もー! 二人して勝手なこと云って!」

 ぺちっと頭を叩いてやりたいのに、ほんとは目を開けてるのかな? って思うくらい子安君は私の攻撃を上手に避けまくった。その挙句、手を掴まれてしまう。そして。

「今日、来てくれてありがと」

 ――不意打ちは、ずるい。どきどきしちゃうじゃない。

「ここに好きな子がいるなんて、なんかすごい嬉しい」

 うん、もう休戦でいいや。掴まれた手を、私からもきゅってした。

「私も。――お気に入りの場所に、連れて来てくれてありがとう」

「そう云う台詞は、もーっと夜景がきれいなとことか高級レストランとかに連れて行った時まで取っておいてよ」

「いつ行くのよ、二人とも受験生なのに」

「だよねえ」

 反動も付けずに子安君が起き上がる。あ、髪の毛がくしゃくしゃ。思わず空いている方の手を伸ばして撫でつけたら、「春になったら、旅行とか行こう」って、その手も取られた。

「……うん」

「意味分かってる?」

「分かってるよ!」

 苦笑されて、また憤慨する。分かってるってば、もう一八だもん。そういう、こと、だって。

 そんな風に人を動揺させておいて、当の本人はしれっとしている。こっちはまだまだ、落ち着かなさそうだって云うのに。


 ようやく少し落ち着いたかな? っていうタイミングで子安君からまた投げ込まれた「白川は放っておくと、三〇歳くらいまで未経験になりそうだよね」なんて失礼な言葉に、「そうならないように子安君がしてくれるんでしょう?」って負けずに返すと、「……ほらなあ、これだもんね」と嘆かれた。

「何? 云いたいことあるなら云ってよ」

「キスしたい」

 あ、――直球。

 繋いでいた手がするりと離れて、私の頬を擽る。それから頭を撫でて、そのまま後頭部に手が下がったと思うと、私の返事の前にもう引き寄せられてた。

 くちびるの感触にはまだ慣れない。でも嫌じゃないよ。

 優しいキスと、対照的に強めの力で絡められる手。けっして、『それ以上』にはならない接触は、今日も節度を保たれたまま、でも終わりを惜しむようにゆっくりと離れられた。僅かに残っていた甘い雰囲気も、風が一陣屋上を吹き抜けて行くと一緒に消えてなくなる。

「ほんとはここでお昼寝したいけど今日も白川かわいいかっこして来てるし、そろそろいこっか」

 差し伸べられる手を、「うん」と取り、再び校舎に戻って今度は図書室や食堂を案内してもらうと、もう滝田さん達との待ち合わせ時間になってしまった。

 待ち合わせ場所へ行けば、カルメ焼きやバザーの戦利品をたくさん手にぶら下げた滝田さんに、「どこ行ってたの? なんか面白いの見たり買ったりできた?」って聞かれた。

「特に何か買ったりはしなかったけど、面白かったよ」

「何してたの?」

「私のこと子安君に『マイペース』って云った人には内緒」

「ええ? ほんとのことじゃん!」

 わあわあしながら校門まで歩いていって、そこで男子たちとはお別れ。滝田さんとおしゃべりしながらケヤキ並木を歩いてふと振り返ると、ちょうど子安君もこちらを振り返っていて、なんだか胸があったかくなる。きっと万事のんびりな私は、家に帰るまでずっとあったかいまんまだ。


 春に向けての約束を思うと、電車の中で顔が赤くなる。それを滝田さんにもバッチリ見られて「何? 怪しいなあ」って食いつかれたけど云えないよそんなこと。

 春まで半年。近いような、でもその前にクリアしなくちゃいけない受験(こと)がどーんと行く手に立ち塞がっているから、とてもそれどころじゃないはず、だけどね。

 ――その約束を叶える為に勉強をがんばるって云うのは、ちょっと動機が不純すぎるかな。

 なんて思って、また顔を赤くした。


次に続きます。


14/12/12 誤字修正しました。

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