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世界樹なんか倒せるかぁぁぁぁぁぁ!!  作者: 蒼露 ミレン
第四章 【世界樹】と魔法とドラゴン
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第四章:11 『【世界樹】なんか……』

「あぁ……寒いなぁ」


 赤い大地をひた進んでいるはずなのに寒い……奥に行けばいくほど、その寒さは徐々に強くなっていくようだった。まあ、確かに暖色である赤色だが、同時に血を連想させ、人に寒気を与える。きゃー、怖い。


 馬は何とも思っていないのだろうか。馬車はスピードを一定に、目的地へとまっすぐ進んでいる。


 ふぅ、と吐いた息が白い。馬車に乗っている間は暇なのでそれを見ていたのだが、いい加減飽きてきてしまった。何か面白いものはないかと外を眺めてみると、天上に覆い尽くす葉の隙間からワインレッドと黄金色のふたなりの月が見えた。葉の隙間から差し込んだ光が赤い大地を照らしている。


 しばらく見なかった月だったが、それを見て安心した。今は夜なのか。

 それは、ずっと時間の感覚がおかしくなってしまっていたからだ。まさか昼夜逆転しているとまでは思わなかったが、大体の時間が分かったことに安堵の息を漏らした。


 乾いた大地にできた小さな砂嵐を突き進んでいく。今乗っている馬車もそこへ突っ込んでいくのだろう。

 【世界樹】の下だというのに、やたら風が強い。あの木が、自分が倒されることに恐怖でもしているのだろうか。


 と、そこへ一人の兵士が幌馬車に近づいてきた。幌を開けると、馬を走らせたまま「もうすぐ着きます。ご準備を」と言った。あたしが頷くと、兵士は少しずつ馬車から離れて行った。


「はぁ……」

「……珍しい……可愛い子……ため息……」


 そうだったかな?

 正面に座る歌音に疑問をぶつけたかったが、今の彼女に言葉が通じるとは思わなかったので、言いかけた言葉を飲みこんだ。でも会話をこれで終わらせるにはあまりにもかわいそうなので。


「……この先に、希望なんて無いからだよ。こんな荒廃した世界で、何をどう足掻いたって無駄だって、みんな諦めてる」

「……可愛い子……は……?」

「え?」


 その答えは知っているだろうに。ついに記憶にまで障害がきたしたのか。

 もしくは、別の意味を込めての質問? それなら分からないけれど……歌音は一体、あたしに何を求めているんだ?


「……可愛い、子……諦め、る……?」

「………………………」


 思った通りでした。

 やっぱり歌音は何かおかしい。今何かと答えても仕方ないだろう。だからあたしは歌音の台詞に答えず、隣に置いたクリーム色のバックから巻物を取り出した。そこに書かれているのは、セピアが仕上げた魔法。


 厳密に言うと、セピアが仕上げた魔法をさらに効率化させたものだ。この魔法なら、あの【世界樹】を倒すことも夢じゃない! はず!!


 いやぁ、やっぱり緊張するね。さすがに直前なだけあって、緊張感はいつもより割マシだ。

 まあ、この魔法が失敗するわけもないし、それに失敗したってあたしは諦めない!


――絶対に【世界樹】を倒してやるっ!


「ふぅ……いよいよ、か」


 瞑目すると、小さく呟いた。


「さぁ、どうやってこの世界救うかなぁ?」


 馬車の外に広がる絶望の光景を思い起こす。

 このままじゃ、生物は住まない。

 だから誰かがなんとかしなきゃいけない。それをするのが――あたしだ。


「神様にでも祈ってみる? あはは。そんなことで世界が救われるなら、とっくに救われてるっての。戦争なんて起きず、みんな笑って生きていられる。みんな幸せに生きられる。大人だって理不尽に子どもを操ったりしない。本当に……バカらしい世界」


 神頼みで世界が救われるわけがない。

 誰もが諦めたことをしようとするのは、果たして無謀なことだろうか。

 少なくとも、足を踏み出さなければ世界は救われない。だれも救われない。


 人任せのなんだ、この世は。


「うーん……やっぱりこの世界、嫌いだなぁ」

「……でも、救、う……?」

「当たり前じゃん! だって、あたし以外はみんな諦めたんだよ? あたしみたいな……不覚にも天才と呼ばれたあたしが、この世界を救ってやらないと……美味しい紅茶だって、ゆっくりと飲めやしない」


 目を開けると、顔が触れるほど近くに歌音の顔があった。ち、近い……。

 歌音の顔を押しのけると、あたしは歌音の赤い瞳を見た。歌音も見つめ返してきて……なんだが気恥ずかしい。


「……それでも、心、の中では……後悔してる……? ……こんな……救う価値、も見出せない……ような、クズの……(せかい)を……救うことに……可愛い子……うんざりして、る……?」


 普段おとなしい彼女の口から、『クズの世界』という単語が出たことに驚いた。やっぱり今の歌音はおかしい。

 純粋な歌音が好きだったけれど、今の刺々しい歌音は、あまりすきじゃないなぁ……耳とかしっぽのもふもふは別腹だけど。


 歌音の耳やしっぽを見つつ、「……いや」と呟いた。

 あたしは別にうんざりしているとかそんなわけではないのだ。ただ――


「働きたくないなぁ、って思ってさ……」

「……あはは……」


 というか、あんな木さえなければあたしだって働いてないんだよっ!! 苦情を視線に乗せて歌音へぶつけるが、いつもの無表情がそれを無力化してしまう。


「……それじゃあ……可愛い子は……さし、づめ…『ニート』って……ことか、な? ……自宅……と、いう……檻、で……一生……を過ご、すんだ……」

「あ、それいいなぁ。っていうか、実際にそれを目指してたはずなのに、どこから間違えたんだろ……」

「……いや、いや……」


 無表情で呆れたように笑う歌音。無表情なのに感情豊かってどういういことよ。

 壊れた歌音は、昨日リールと話した後からもっとおかしくなった。というか、笑うようになった。もちろん無表情で。


 それにしてもリール……。

 結局、なんであたしに【世界樹】を倒させたくなかったんだろ。

 まさか本当に【世界樹】の精なのか? あんなお祭り大好き! 状態なのに。


 昨日のことを思い出していると、歌音がおもむろに馬車の先頭を指さした。


「……もうすぐ……着くよ……ほら……もう見えてる」

「え? どれどれ……でかっ!?」


 馬車の前方を見ると、天を支えている柱があった。いや、天を支えているように見えるが、あれは木だ。

 かなり巨大な木は、天を突き破っている。だから天を支えているようにも見える。天上に葉が生い茂るほどだから相当でかいのだろうと思っていたが、想像以上にでかい。しかも、まだ【世界樹】から離れているのだ。これから近づくにつれ、どんどん大きくなっていくのだろう。


 そう考えると、おぞましいものがある。

 そこへあのプレッシャー……今から身が震えてくる。


「……本当に、やるんだ」

「……うん……もう、すぐ……『絶望に、包まれた樹』……は、目の前……」


 一呼吸置き、楽しそうな口調で。


「……わ、くわく……するね……!」

「しないわよっ!? あれ、【世界樹】だからね!?」


 そこのところ、この少女は本当に分かっているのだろうか。

 そんな心配をよそに、馬車はカタリカタリと進んでいくのだった。



「ぐっ……がはっ」

「ナルティス様! 大丈夫ですか!?」

「だい……じょうぶ………に、見え……たら……あんた、おかし……ごふっ……」


 【世界樹】に近づくほど強くなってくるプレッシャー。それに押しつぶされそうになっている。

 ついに兵士たちもその人数を最初の3分の1程度に減ってしまった。


 無理もない。


 だって、あたしの頭にあるのは――


「逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい……かはっ! っでも」


 早く……ここから逃げないと……死ぬ……死ぬっ!!


 でも逃げるわけにはいかないんだ……っ!


「負けちゃ、だめ……立て……立ってよ……もう、目の前なんだ……っ!!」


 視線を上げると。

 幹が金色に輝き、ドクンドクンと脈を打つ――


――【世界樹】がそこにあった。


「無茶です、ナルティス様!

「無茶じゃない!! これに耐えないと……あいつを倒せないん……かふっ」

「ほら、また喀血してるではありませんか! なにもそんな身体で……喀血してまで、挑むことはな――」


「――あたしが負けたら、世界が負けるんだよ」


「っ……」

「そのくらい、分かってよ……あたしだって辛いんだしさ……」


 コポッと、口から血が零れた。あぁ、くそ……世界救う前にあたしが負けてどうするのよ……。

 朦朧とする意識の中、あたしは目の前の『悪魔』を見上げた。ガスタウィルが使っていた魔法はほぼ正確だった。ただ一つ、この本物のプレッシャーを除いては。


 倒されるのを嫌がるかのように、常にプレッシャーを放っている木……人が狂う木。あたしはここに来て、その意味を身体で理解した。確かにこれは『悪魔』なのだ、と。


 ここに来るまでに脱落していった兵士たちは、みんなこの見えない力に敏感で、早々にやられてしまったのだ。その中に歌音もいる。まさか、ここまで強いものとは思っていなかったのだが、油断した。というか迂闊だった。もっと、心を構えておけばよかったのに、ガスタウィルの魔法でどこか安心してたのかもしれない。

 自分のふがいなさにイライラしながら、拳を地面に叩きつけた。


「かはっ……あぁ、もう。体が重い、だるい……でも負けないっ」

「ナルティス様……」


 乗っていた幌馬車から歩いて数歩のところで座り込んでしまったあたしは、息を切らせて、それでも立ち上がろうともがいていた。でもうまく立ち上がれない……体が見えない力で押しつぶされそうになっているのがよく分かる。こんな中、よくニボシは立っていられるなと思ったが、彼の額からは大量の汗が流れていた。


 所詮、【世界樹】の前には人間は無力なのか?

 昨日リールに言われた通り、まだ倒すべきではなかったのか?


 そんなわけないでしょ!?


「あはは……いいよ、このぐらい。世界救うのがそんなに簡単なんて、そっちのほうが信じられないしね。だから……大人しくあたしに倒されろ、【世界樹】っ!!」


 睨むように視線を上に上げる。神々しく光る幹が、あたしの一言で一層強くなったように見えた。そして、身体にのしかかる重さも強くなった。吐血の量が多い。それに加え、耳からも熱い何かが流れ出た。早く決着をつけないと……本当にヤバい。


「一旦引きましょう。そんな身体では無理です。一度撤退してから、もう一度挑戦してみればいいじゃないですか」

「時間がないのよ。世界は、今も壊れ続けてる……ここでやらないと、がふっ! ……ここで倒さないと、もう二度目はないっ!」


 ここで逃げてしまえば、二度と来ない。

 この苦しさを知ってなお、【世界樹】を倒そうとここまで来るとは考えにくい。いま、動かない足を引きずってでもこの『悪魔』を倒さないと、二度目はない。


――逃げるな。


 ガクガク震え続ける足を叩き、無理やり立ち上がろうとする。周りに支えとなるものはない。膝に手を置いて、ゆっくりと立ち上がろうとして――ふっと力が抜けた。


「ナルティス様!」


 顔面を地面に叩きつけるが、痛くない。ついに感覚神経さえも麻痺してしまったか。

 ニボシの悲痛交じりの声を聞きながら、「……まだ」と立ち上がろうとする。上体を起こしただけで口と耳から赤い水が流れ出た。


「がふ……大丈夫……じゃないけど……これは強がりだけど……でも、倒さないといけないの……だから、力を貸して……この『悪魔』を、倒させてっ……」

「……」


 震える足を押さえて……力の入らない手を握りしめて。

 天上を睨み、喀血し、耳から血を流し、感覚が麻痺し、それでも……それでも――


「お願い……助けて……がふっ……この魔法を打てればいいの……この魔法さえ、あいつに当たればいいの!! だから――」

「……可愛い子……肩……貸す……」

「歌音」


 ニボシの鋭い視線が幌馬車から出てきた歌音に突き刺さった。しかし歌音はそれに動じず、あたしの右腕を取って肩にかけた。身長のおかげで、ニボシよりもずいぶん楽な姿勢になったので、巻物――魔法も取り出しやすくなった。


「ありがと、歌音」


 お礼を言うあたしの隣で、ニボシの鋭い視線が歌音に向けられた。


「ナルティス様に無理をさせてはダメだ、歌音。彼女はこの世界にとって重要な人物だ」

「……意見……尊重……」


 今度は歌音がニボシを睨みつけた。


「……可愛い子……【世界樹】……倒したい……私……それを、支え……る……誰にも……邪魔、さ……せない……」

「でも無茶をさせては――」

「うるさい」

 

 いつもより一層わがままになった歌音は。


 あたしの腕を自分の肩に回しながら、ゆっくり【世界樹】に近づいて行った。

 歌音はなぜか平然としていた。ニボシのように額から汗を流すこともない。これほどまで個人差が出るのか、このプレッシャーというものは。


 歌音が【世界樹】に近づくほど、プレッシャーが累乗しているように重くのしかかってきた。息をすることさえも辛いが、それを耐えて肩にかけたバックから巻物をなんとか取りだした。


「っあ……」


 しかし震える手が言うことを聞かない。巻物を地面に落してしまった。歌音と息を合わせてかがんで巻物を取ると、もう一度立ち上がる。今度はさっきよりも体が重い。足に力が入らず、半分引きずられる状態で歩く。


 苦しみながらたどり着いた【世界樹】の正面3メートル。これ以上はあたしの身がもたない。それに魔法の射程圏もあり、もし魔法が弾かれた時のことも考えないといけないので、いまいるここがベストポジションとなる。


「ありがと……歌音……」


 歌音の肩から離れると、そのまま倒れてしまう。心配そうに差しのべられた歌音の手は払った。

 そして座ったまま巻物を見つめ、胸に抱きしめた。


 この魔法にはみんなの思いが詰まっている。

 誰かを救いたい。

 誰かを守りたい。

 そのために、運命に抗おうとした一人の少年の思いが、この魔法に詰まっている。


 魔法は思いだ。


 思いの強さが魔法の強さに反映させ、その思いを叶えてくれる。それが魔法だ。

 この魔法を成功させ、この悪魔を倒す……それはきっと簡単なことじゃない。この魔法も成功するか分からない。


 それでも倒すんだ。

 失敗なんてありえない。

 だって、ここには――


――セピアの思いが込められているのだから。


 彼の代わりにあたしが来た。なら、その思いを完遂させるのがあたしの仕事。



「お願い……叶えて。あの子の思いを!!」


 バッと巻物を開く。

 

 幾何学の模様が輝き、魔法の発動を知らせてくれる。

 『連立式』の魔法は普段のものとは発動形式が少し違う。こちらのほうがためが長いのだ。


 巻物に書かれた文字が浮かび上がり、宙でどくろを巻く。

 うねる姿は、伝説の竜の如し。

 巻物から離れていく魔法の文字が次第に帯電していき、やがて雷の糸束となる!! 糸は次第に丸くなっていき、巨大な毛玉のように丸まった。毛玉からは絶え間なく電気が弾け、地面を穿つ。


 その巨大な毛玉が――


――突如、落ちた!!


 ゴオオオオォォォォォォォォォォォォンンッッ!!


「倒れろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 バリバリッ!!


 雷にぶち当たった【世界樹】がざわざわと枝葉を震わせた。

 【世界樹】にぶつかった雷は激しく発光し、衝撃波を作りだした。目を閉じ、腕でガードして見せたが、まるで効果がない。少し飛ばされそうになって、後ろ向きに滑った。


 【世界樹】が倒れる瞬間を見逃すわけにはいかない――


 そう思ったあたしは、できるだけ【世界樹】を見ようと少しだけ目を開けた。


 ビギッ!


 今までの雷の音とは違う音――なんの音!?


 そう思い、【世界樹】を見ると、その表皮が割けているのが見えた。割けた場所は一つだけではなく、雷の直撃を受けた個所から徐々に広がっていく。表皮が宙を舞い、雷に焼かれて消える……よし。このままいけば【世界樹】を倒せ――


「――――っ!?」


 い……いや、違う。


 なにか、身落としている?

 お、思い出せ!! なにかが違う……まるで、この樹を倒すことが間違っているかのように……なんだ、この違和感!?


 考えろ!!

 今なら何とかなるかもしれない……今なら、魔法をキャンセルできるかもしれない。 


 ――でも、何を間違っているんだ?


「「「倒れろぉぉぉぉぉぉおお!!」」」


 兵士たちの喊声(かんせい)で、意識が現実に戻された。彼らは目を覆いながら叫んでいた。

 そうだ……【世界樹】に恨みを持っているのは、あたしたちだけじゃない。この兵士たちも、何かと恨みを持っている。


――もう、手遅れだ。


 そう思った瞬間。


 フッ、と魔法が強く光った。これは魔法が消える前兆だ。

 それも眩しかったので、思わず目を閉じてしまう。

 そして魔法は消えた。でも魔法が消えたのに、やたら明るい。


 おかしいと思い、空を見上げると。


「……!」

 

 そこにはふたなりの月が、美しく、輝いていた。 

 正面には、もう【世界樹】の姿はない。


 そう。

 あたしはついに――不可能だと思われていた【世界樹】を倒したのだ!!


「「「うおおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」


 今度は歓喜の声。ここまで様々なトラブルに見舞われながらやってきた苦労を称えあうかのように、手を打ったり、ハイタッチしたり、涙を流す者もいる。


「あはは……やった……ついに、やったんだ……」


 実感は薄いけど……この月明りは本物だ。

 胸の違和感はまだあるが、【世界樹】を倒してしまったのでもう遅い。それに、あれを倒すことが目的だったんだから……まあ、結果的には『倒れる』どころか『消える』だったけど。


 周囲を見渡しても、【世界樹】の存在は確認できない。木の株はあったのだが、それもあたしの腰程度しかない。それ以外の部分はすっかり消えてしまって、後に残ったのは白煙だけだった。


 もう、終わった。


 あたしの役目は終わりだ。

 はぁ、やっと息を吐ける。

 安寧の日々をこれから過ごすのだ。


「あー、やっちゃったなぁ。……これであたしも魔法を作らなくて済むんだ」


 あはは、と笑うと、一気に力が抜けた。今までの緊張感がどこかへ吹っ飛んでいったせいだろう。

 膝を地面につくと、口から零れる血をぬぐった。その時――


――――ぞわぁあぁぁああぁぁぁぁ


「……っ!!」


 気付いた。


 この話は、これで終わりじゃないことにっ!!


 そして、これからの行動は一つだけ。


「に、逃げてぇぇぇぇぇっ!!!!」


 しかし、言うも遅く。


 グルァァァァァァァァアアアアアッ!!!


 地上に影が差した。

 恐る恐る、全員が上を見上げる……。


「ぁ……ぁあ……」


 空を羽ばたいて、

 ワインレッドと黄金色の月を背景に、


――黒紫の竜が、現れた。



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