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世界樹なんか倒せるかぁぁぁぁぁぁ!!  作者: 蒼露 ミレン
第二章 ガスタウィル皇国という国
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第二章:10 『喧嘩・ダメ・絶対』

 ピリリとした空気が肌を刺す。


「むぅ……何でこんなことになっちゃうかなぁ」


 あたしは深くため息を吐いた。

 横に座っている歌音は無表情にこちらを見つめて涎を流して……って、こいつは変態なので放っておこう。


 現状はこうだ。

 まず、アスタとニボシが急な手合わせをすることになった。しかし、本当に手合わせ程度のものになるとは限らない。仲の悪い二人だ。その言葉一つ一つにどこまで信憑性があるのかさえも分からないし……あぁ、ほんとに手合わせ程度で終わらせてよ? あとが面倒そうだし……。

 っと、愚痴を言っても仕方ないよね? てへっ。


 そして、剣闘場で訓練をしていた兵士たちをニボシの権限で退かし、今、そこには二人だけが立っている状況だ。

 剣闘場は円状の構造だ。真ん中が一番深く、そこを中心として段差が2つある。兵士たちはその一番深い中心のところで汗を流していたのだが、今はその姿もない。ニボシの権限で方々に散って行った。さすが権力。独裁力があって、素晴らしく醜い大人社会が垣間見えてきそうで涙が出る。その醜い争いに。

 そして中心から円状に広がる段差が剣闘場を一望する客席となり、あたしと歌音はそこに座っている。石でできているので固い……そしてお尻が痛くなる。

 早く終わってくれないかなぁ……あたし、これでも平和主義だから争いは嫌いなんだよ。それはアスタも分かっているはずなのに……嫌がらせか?


 それにしてはかなり悪質だなぁ、と笑っていると、剣闘場の中心からも笑い声が聞こえた。


「あはは。なめないでよ? これでもちょっとは剣術習ったことがあるんだ~」


 アスタの余裕はどこからきているのだろうか……いや、あいつはバカなだけだ。自分よりも権力の上の人間を怒らせて遊んでいるだけだから、本来ならば放っておくのが無難。

 しかし、その相手はつい先日会ったばかりのあの巨人だ。脳みそ単細胞そうな隆々とした筋骨を持つ人物。

 その二人はそれぞれバカなのだろう。だからこうやって手合わせを銘打った喧嘩を始めようと、木刀を握りしめている。


「いやぁ、見くびられても困りますよ? これでも、一応はバリスタ兵軍軍隊長なので」


 いやいや、あんたは見た目通り兵隊だよ? だから『これでも』といちいち付けるのは間違い。日本語を学びなおせ……って、あたしは習ったことないんだけどね!

 アスタはにやりと気味悪く笑い、


「あは……そのプライド、すぐさまズタズタに引き裂いて割きイカよろしく天日干しにしてあげるよ?」


 止めて、そのドヤ顔。全然うまくないから……こっちに親指立ててアピールとかしなくていいから。恥ずかしい……。

 しかしニボシは、気にしていないかというように、木刀を構えた。


「そうなれるといいのですけどね。その前にあなたの身体が細切れになって凧の如く空を舞わなければいいのですが……」


「やる気まんまんねぇ……」


 本当にやめてほしい。

 イカとタコとか……軟体動物対決しなくてもいいから速効墨でも何でも吐いて逃げてほしい。ドヤァ。

 ……うん。何もうまくないし、面白くないことは分かっているから……うぅ、穴があったら入りたい……。タコつぼでもいいから。

 気を取り直して、あたしは大声で二人に声をかける。


「早く終わらしてよー! あたし、喧嘩とか見たくないからね!」


 あと、怪我をしませんように。


「うん。手短に天日干しにするよ」

「はい。素早く空に舞わせてあげますよ」


「誰もそんなこと望んでいないですー」


 まぁ、そんなことを言っても無駄なことは重々承知の助。べらぼう、分かってるに決まってんじゃんか! じゃんがじゃんが!

 ニボシとアスタはお互いに睨みあって、間合いを取る。どちらが先手を取るか、それだけで勝敗を決することもあるだろう。


 性格と体格からして、ニボシは力で押し切るタイプ。ガスタウィルに忠実なニボシは、真面目な性格もあるし、単純な思考もあるようにも思える。その証拠に、ガスタウィルのいない今、ニボシは自分の感情だけでアスタと手合わせをしている。

 そしてアスタは見た目からしてもぺテン師。小細工だぜヒャッホー! 状態の剣術が披露されるだろう。ニボシと違って、こちらは素性が知れないし……大体、アスタが剣を握ることすらも想像できなかった。まぁ、あの集落にいたぐらいだから、剣術の一つや二つ、出来て当然だったのかもしれない。


 それらの解析からすると、先に攻撃を仕掛けるのは――


「はっ!」


 以外にもニボシだった。


 ニボシの一振り、それだけで空気が泣いたようにゴウッと震えた。

 

「あは」


 しかし、アスタは木刀の先だけでそれを流した。

 そのまま身体ごとニボシの脇へ入り、体当たりをする。バランスを崩したところへすかさず顔面へ向けて木刀を突く。って、危ないよぉ……。

 その突きをニボシは顔をずらして避ける。両手を地面に着いて、逆立ちの要領で足をアスタ目がけて振り上げると、アスタが数メートル先まで吹っ飛んで行った。


 砂煙を上げて着地したアスタは笑みを浮かべてニボシとの間合いを取る。


 思っていたように、ニボシは力だけで押し切ろうとしているように見えた。

 ニボシは全身の筋力を使って素早く動き、次々と剣撃を加える。その一振りはどれも空気が震え、その剣の重さがひしひしと伝わってきた。

 その逆に、アスタは刀身をうまく使ってニボシの剣を受け流し、隙あらば攻撃を加える。どこまで性格がねじ曲がればこんな剣術が出来るのだろうか、と思うほどにえげつない。剣の素人のあたしでも分かるほどに、アスタの剣は気味が悪い。


 間合いを取るのも、アスタの特徴のようだった。

 防御は最大の攻撃、と言わんばかりにニボシからの先手を待ってから攻撃を加える。

 ニボシは大ぶりだが、一撃一撃の威力が高く、まともに剣を受けてしまえば致命傷を免れない。

 それを悠々と流して見せるアスタ。ちょっと剣術を齧ったからと言ってもここまで強くはならないだろう。きっと、あたしの知らないところで剣術に打ち込んでいたに違いない。

 それは一体何でなのだろうか。

 集落にいたから、仕方なく――はたして、本当にそんなことが理由になるのだろうか。


 強要された……それならばっくれればいいし、本当に嫌なら逃げてしまえばいいんだ。

 でも、逃げるには逃げられなかったのだとしたら……。


 例えば、あたしが―――


「……可愛い子……?」


「……え?」


 突然の歌音の声に、あたしは反応が遅れてしまった。

 歌音は首を傾げてあたしの顔を見つめていた。


「……難しい、顔……」


「そ、そう……かな?」


 自分でも気付かないほどに目の前で繰り広げられる戦闘に見入っていたのか、それともあたしが余計なことを考えていたからか――それは定かではないが、あたしは無意識のうちにそんな顔になっていたらしい。

 あたしは取り繕うように小さく息を吐くと、アスタとニボシのほうを見て言った。


「二人とも、すごいね」


「……うん……ニボシ……隊長、だ……から……」


 途切れ途切れ、日本語が儘ならない外国人のように、言葉を紡いで声を発した。昨日から平坦で無表情な声色なので、きっとこれが歌音なのだろう。

 こんな人間は、必ず過去に何かあってこうなったのだ。

 歌音もその一人なのだろう。

 しかし慈悲の念はない。憐れみ……それこそ罪というものだ。憐れむことはその子が『可哀想』だということを明らかに示しているのだから。

 平等平等を語る現代社会だが、ここら辺が少しルーズなところがあるようにも思える。


「……やっぱり、どこに行っても平等じゃないなぁ」


 【鳥籠】にいたころ、あたしは特別扱いされて、アスタが世話役になった。

 その出会いには感謝すべきものがあると思う。

 しかし、その特別扱いも不平等を輪唱する一つでしかない。


 特別扱いは不平等だ。

 よって、誰か一人を愛することは不平等だ。


「……可愛い子……?」


「あ……ああ! 何でもない、何でもない」


 取り繕うように苦笑いを浮かべると、正面へ向き直る。


 ニボシとアスタはすでに息が上がっており、限界が見えていた。もう、ここらで止めておかなければ本当に大怪我をしかねない。


「ねえ! もう、やめたら?」


 大声で叫ぶと、二人は互いの顔を見て笑いを浮かべた。え、何? ホモなの?

 恋しあう二人は剣先を地面に向けると、にこやかに笑って言った。


「あはは、まだ本気出してないしなぁ……」


「奇遇ですね。私も本気を出していません」


 マジで? と思い、歌音を見ると「……本当……」と返事が返ってきた。へぇ、経験を積むとそういう見分けがつくのかなぁ?

 すると、お互いにそれは把握していたらしく、頷きあった。息はぴったり。やはり剣を交えることでイケナイ道へ進んでしまったのだろうか。


「あはは、じゃあ次の一撃……一本勝負でどう?」


 アスタが聞くと、否応なくニボシは頷いた。


「ええ。いいでしょう。……しかし、私は諸事情故に本気は出せませんので8割程度で――」


 そう言った瞬間――


「ぅぐ……」


 空気が鉛のように重くなった。

 ……いや、これはニボシの殺気だ。本当にニボシは本気を出していなかった。しかもこれが8割……残りの2割はどこから力を出しているのだろうか……。

 あまりの重圧に、地面に突っ伏してしまいそうになるのを、なんとか耐える。

 そして、重くなっていく瞼でニボシの姿を確認すると、


「……え」


 あたしは驚愕して、一瞬の隙を作ってしまった。

 その隙を狙って、殺気があたしを押さえこんでしまった。地面に突っ伏して、二人の姿が見えなくなってしまった。


「ぐ……ぅぅ……」


「……可愛い子……抵抗……しないほうが、いい……」


 歌音の声が上から響いてきた。この重圧でも歌音は立っていられるみたいだ。

 それはアスタも同じようで、急に笑い声が聞こえてきた。


「あはは。これは、ほんとにすっごいねぇ。……まぁ、これが本気だったら正直がっかりだったから、ここまでだと、ほんとに安心したよ」


 そう言った瞬間、なぜが重圧は消えていた。

 楽になった身体で起き上がってみると、二人が剣を構えたところだった。どうやら、ニボシの殺気をアスタの狂気が相殺したのだろう――って、よく分かんないけど、そんな感じだと思う。

 しかし、殺気が無くなったからといって安心できたものではない。事実、二人の間には狂気が入り混じった殺気が漂っているのだから。


「もうやめてよ! ほんとに大怪我しちゃうよ!」


 あたしが叫ぶも虚しく、二人はバチバチと火花を飛ばしあっていた。

 そこに何者の介入を許さない。

 あたしの声が聞こえているのかさえも危うい。


「……ほんとに……止めようよ……」


「あはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 二人は同時に地面を蹴った。


 しかし、その間に影が……


「……喧嘩……ダメ……絶対……」


「ぐはっ」

「むぐっ」


 二人がほぼ同時に昏倒すると、その場に立っているのが歌音だけになった。

 いつの間にかあたしの隣の床がクレーターでボンっ! となっていた。おそるべし猫人族(ケットシ―)。そこに痺れる! 憧れるぅ!!

 歌音は瞬時に二人の間に立つと、その首に手刀を打ち込んでいたらしい。

 大人しくなった二人を見下ろすように眺めてから、歌音はニボシの手を持った。


「……可愛い子……部屋……運ぶ……」


「それじゃああたしを部屋に運ぶみたいじゃん」


 苦笑すると、歌音は首を傾げた。その仕草が可笑しく、あたしは笑いながらアスタの下へ行き、その手を取った。肩に腕をかけると、酔っ払いを運ぶのと同じようにして部屋まで歩いて行った。


――暫くして。


「……ほんとに、無茶して……」


 あたしはボロボロになったアスタを見下ろした。目立ったところに怪我はないが、小さな擦過傷くらいはある。眠りこけるアスタに応急措置をしつつ、あたしはため息交じりの息を吐いた。

 時間は分からないが、もう夕暮れ時。

 歌音の絶妙な手刀が世界を救ったのだ。いや、さすがに大げさすぎましたね。はい。

 歌音はというと、ニボシを寝かせるために、今いる部屋とは別の部屋に行った。この部屋は剣闘場からもっとも近く、すぐにメイドが救急箱を持ってきてくれたからありがたい。


「……早く……起きてよね?」


 しかし、アスタにその声が聞こえているわけもなく、ただ笑いながら眠っているアスタの顔を見て、あたしはふっと笑った。

 よく考えると、アスタの寝顔なんて初めて見るなぁ……。いつもあたしが眠っている間にアスタは集落に帰っていたし、四六時中一緒にいたわけでもないし……でも、これからはアスタと一緒にいる時間が長くなりそうだ。

 その期待を込めて、アスタの髪を撫でた時。


「失礼します」


 と、聞き覚えのある低い声が響いてきた。 


「……ニボシ」


 復習にでも来たか!? と言わんばかりにがるるるるっと唸ると、ニボシに笑われた。


「ふふっ。私はただ、アスタ様の容体を見に来ただけですよ」


「その言葉に信憑性は?」


「…………………………」


「わー! 嘘です嘘です!」


 すっごく睨まれたので、あたしはたじろいだ。というか怖い……。


「いや、別に起こってるわけじゃないんですが……。ま、いいです。アスタ様の様子はどうですか? 一応、歌音は手加減したと言っているのですが、どうもあの子は常識知らずで……」


「あー、確かにそんな感じする……」


 常識あるものは、寝起きの少女に襲いかかったりしない。

 苦笑交じりに答えると、ニボシも笑った。お、こうして笑うニボシはなかなかいい表情をしている。

 アスタのように嫌気のない笑顔というのはとても新鮮感がある。ん? あたしが色々と偏見を持っていたからか……?

 兎にも角にも、ニボシの笑顔というものは、今まで見てきた笑顔の中で一番輝いているようにも見えた。きっとこの人は信頼できる。あの王にだって忠実にいるような奴だ。簡単に人を裏切ったりはしないだろう。


「……でも、あたしは争いが嫌いだから」


「……すみません。つい――」


 その言葉を遮り、人差し指をニボシの唇に当てる。


「言い訳はめっ! そうやっていいわけばっかりだからなかなか反省出来ないんだよ?」


 強めの口調で言うと、やはり申し訳なさそうにすみません、というのだった。それにあたしは苦笑する。


「……で、本当は何が目的でここに来たの? あれほどアスタと対立してたくせに、簡単に手の平返して様子見に来ましたーってわけじゃないでしょ?」


 ニボシは苦虫を噛み潰したような顔になり、


「ばれてましたか……」


「当り前よ。こう見えて、あたしは結構人の見分けには自信があるから」


 どんっと薄い胸を叩く。


「それは、他人を信用してこなかった末路、でしょ?」


「ははっ、よく分かってるじゃん。そう。あたしはそもそも人を信じてない。でも、あなたの言葉なら信じられるかもしれないよ? だって、あなたいい笑顔なんだもん」


「判断基準は笑み、ですか」


「いいじゃん」


 言って、二人して笑った。

 まさかこんな日が来るとは思わなかった。


 夕暮れの太陽は翡翠。煌びやかに部屋を照らしては輝かさせる。


「……で、話って?」


 あたしは蒼い髪を靡かせながら聞いた。

 外から入ってくる風は冷たい。それは、もうすぐ夜になることを告げるかのようだった。そろそろ、翡翠の太陽は沈み、代わりにワインレッドと黄色のふたなりの月が出てくるころだろう。

 それまでに、この話は終わらせておきたい。


「――歌音の話を、少々」


 それまでに、アスタに起きてほしい……。





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