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第七話 少年、神に会う

 「今、どの辺かなぁ?」

 「まだ三〇キロってとこじゃない?」


 空は雲一つ無く、どこまでも青い空が広がっている。視線を落とすと、所々に木が点在している以外、見渡す限りの草原が広がっていた。

 太陽が草原を駆ける二人の真上で輝いている。もう、かなりの距離を移動した気がするが、初めて乗馬するトーヤは、それ程のスピードが出せなかった。アカンも、これからのことを考えると、余り馬の体力を使うのは得策とは言えないため、ちょうどいいペースだと考えていた。


 「もうそろそろ馬にも慣れてきたな。んじゃあ、ここから四キロ先に小さな村があるから、ちょっと飛ばしてみるか。」

 「うん。お腹も空いたし、そうしたいな。」


 「よし!じゃあ、遅れんなよ。ハッ!!」

声と同時に馬の脇腹を蹴り、スピードを上げるアカン。

 「僕だって、それくらい…ハッ!!」

同じく馬の脇腹を蹴るトーヤ。ところが馬はヒヒーンと嘶き、前脚を上げて、上体を反らす。

 「うわぁぁぁ!」

必死にしがみつくトーヤ。地面に脚をつけた瞬間、とてつもない速さでアカンの馬の方へ駆け出す。

 「ちょっ!…ちょっと、待ってよ!!あぁぁ!」


 そのまま、アカン達を抜き去り、なおも全力疾走を続ける。


 「と…止まってーー!!」

キーッ!!と急停止する。

 「っはぁ、はぁ、はぁ…ふぅ。」


 「おーい、大丈夫かー?」

後ろからアカンが追いついて来た。

 「な、なんとか…って、ここは?」


 「おー!暴走してったと思ったら、無事に着いてんじゃんか。ここがさっき言ってたウラカ村だよ。」


 目の前には手作り感の滲み出ている木の柵と、入り口らしき門があった。


 「早速入るか。…って、門番が見当たらないな。」

アカンが周囲を見回すが…誰もいない。

 「何かあったんじゃないかな?」


 「まあ、いいや。とりあえず、中に入れば何か分かるさ。」

と言うと、何かを唱えるアカン。すると、門が一人でに開いた。

 「アカン…今のは…?」

 「あぁ、父様に習わされた魔法の一つだよ。簡単なやつさ。」

ふと、アカンの顔を見ると、どこか悲しげな顔だった。

 「じゃ、中に入るとするか。」

そう言って、門の奥へと入っていく。トーヤも無言で後に続いた。



 「…変だなぁ。人の姿が全然見当たらない。真っ昼間に村人全員寝てるなんてこともないだろうし…。」

確かに変だ。規模は小さいが確実に生活している形跡は見られる。

 何だか嫌な予感がしてきた…。


 「伏せろ!トーヤ!」


 「えっ…ッ!」

振り向いたトーヤの頬を何かがとてつもないスピードでかすめていく。

 「大丈夫か!?」

アカンが駆け寄る。

 「い、今のは、いったい…?」

動揺するトーヤ。


 「チッ。逃げられたみたいだな。…この矢は冥界のもんだよ。恐らく、いや、ほぼ確実に堕天領のやつらだ。」


 「堕天領?それって、この間の黒鎧の時の…あいつらは誰なの?」


 「冥界のことは知ってるよな?確か神戦記じゃ死者の住まう世界としか書かれてなかったな。実は、死者以外にも、神堕ちしたやつ、魔界から逃げ延びたやつ、そして人が魔物化したやつなんかも住んでやがる。そいつらがいるのが堕天領ってわけだ。冥王も下手に手が出せないでいる程、タチの悪い連中なんだ。」


 「そいつらが、なんで僕を狙うの?」


 「やつらにとっちゃ、闇こそがエネルギーの源。その闇が世界を覆うのを邪魔しようってやつがいたら、まあ殺しにかかるだろうな。」

他人事のように、さらりと話すアカン。


 「もしかしたら、村の人達も…!」

顔を強ばらせるトーヤ。つられてアカンも固まる。

 「だとすると…やつら、あの儀式を!!この辺であれが出来るのは…。急ぐぞ、トーヤ!まだ間に合うかもしれない!」

言い終わるなり猛スピードで駆け出すアカン。

 「ちょっと待ってよー!…って、うわッ!」

アカンを追いかけようと思った瞬間に、勢いよく駆け出すトーヤの馬。危うく振り落とされるところだった。




 「…準備は整っているか?…」

 「…はっ!間もなく抽出作業を開始できます。これだけいれば、相当量の材料が手に入るかと。イーレン様…ご指示を。」

イーレンと呼ばれた黒鎧の前に、白地に奇怪な模様の面を着けた男達が恭しくひざまずいて、イーレンの指示を待っている。

 男達は皆細く、ひょろりと長い体型で、立ち上がれば二メートルは余裕でありそうだ。常にくねくねと奇妙な動きをしているが、表情は面に隠れて分からない。

 「…では、早速始めろ…。」

イーレン達の後ろには、両手両足を縛られ、目には布が巻かれ、口には猿ぐつわをはめられている村人達の姿があった。

 「御意!」

面の男達が村人達のさらに後ろへと移動する。そこには、大の字に身体を開いた状態で浮いている屈強そうな一人の青年がいた。青年は顔を真っ赤にしながら力を込めて、脱出しようとしているが、身体はピクリとも動かない。足下には魔法陣が描かれており、その前に壺のようなものが置いてある。


 面の男達が魔法陣に沿って立ち止まる。

「…魔に導かれ、魔に下り、魔の意思に従いて、汝の闇を解き放て!…魔門開!」


 魔法陣が黒紫の光を放つ。その直後、青年が突如として痙攣し始める。頬が膨らんできて、何かを吐き出そうとしている。

「おうえぇぇぇ!!」

青年の口から黒い炎の塊のようなものが飛び出る。よく見ると、その中心は白く輝いていた。

 それはしばらくの間、宙を漂った後、置いてある壺へと吸い込まれていった。

 黒い塊が完全に壺に飲み込まれたと同時に、青年の痙攣が大きくなる。手足の先が水分を失ったように、しわしわになる。髪が黒から白へと変わっていく。やがて、青年の身体は、ミイラのように変わり果ててしまった。その時、一陣の風が吹き抜ける。その風を受け、青年の身体はパラパラと、粉状になり、飛んでいった。

 「抽出完了。魔法陣も正常に作動。イーレン様、大量展開しても問題ないようです。」

「…そのようだな。では、作ぎょ…」

「緊急事態でございます!」

イーレンの声を遮り、奇怪な面の男の一人が駆け寄りながら叫ぶ。

 「…何事だ。騒々しい。」

声に怒りを篭めるイーレン。

 「申し訳ございません。ですが、例の餓鬼共が、こちらに向かっている模様です!間もなく到着すると思われま…ごフッ!!」

面の下から、赤黒い液体がこぼれ落ちて、そのまま前のめりに倒れる面の男。背中には、小さなナイフが突き刺さっていた。

 「…誰だ!」

殺気を篭めてナイフが飛んで来た方向を睨みつけるイーレン。そこには、馬にまたがった少年と少女の姿があった。

 

 「てめぇ…いつ魔界から出やがったんだ…イーレン!!」

黒鎧を睨みつけながら怒声を飛ばすアカン。目は血走り、殺意が身体から滲み出していた。

 「貴様は…そうか、裏切り者の小娘ではないか…。ちょうどいい。貴様も、儀式の材料に加えてやろう。」

不敵な笑みを浮かべるイーレン。

 「えっ、イーレンって、黒神と魔界に封印された、あのイーレン?なんでここに!?」

神戦記に載っていた名前だ。肌がピリピリするような感覚になる。目の前にいる男の威圧のせいだろう。間違いない、こいつはヤバい…!トーヤの闘争ならぬ逃走本能に火が着く。

 「封印をくぐり抜けて来やがったんだ!気をつけろよトーヤ。分かっているとは思うが、こいつは『神』だ!いくら屑野郎でも、神は神。死なない上に、かなり強いぞ。…何が裏切り者だ。あたしは常に冥王の味方だ!」

 「貴様、何を抜かしているのだ。…待てよ、冥王だと…?そうか、あやつの仕業か…。」

 「ごちゃごちゃとうるさい!トーヤ!ぶっ殺すぞ!」

「えっ…!む、無理だよ~!」

「ったく!『神門開』って叫べ!この間みたいにやるんだよ!」

「あ、う、あ…し、神門開!!!」

トーヤの身体を光が包み込む。そのまま宙へ浮かび上がり、全身に光を纏って、地上に降り立った。

 「ほぅ、シャクシンの息子というのは本当らしいな。貴様が運命の子というわけか。…いいだろう、今回はこのまま引き下がろう。いずれまた、顔を合わせることになるだろうしな。せいぜい生き延びるんだな。ふははっ!」

嘲るように笑い、面の男達もろとも、闇へと姿を変えるイーレン。

「待てっ!」

アカンが叫ぶが、もうその姿はなくなっていた。

「くっ…!逃げられたか。…どうやら、一人やられちまったようだが、あらかた無事みたいだな。トーヤ、村人達を解放しよう。」

 光がトーヤの身体から消えていく。

「う、うん。」

…やつらは、いったい何が目的だったのだろうか。それにアカンのことを裏切り者って…やっぱり、アカンは…。

「ほら、ぼさっとしてないで、手伝ってくれ!」

「あ!うん、今行くよ!」

何かを振り払うように首を左右に振り、アカンのもとへと駆けていく。──────






─────冥界、堕天領。そこかしこに死体や、腐りかけの何かが転がっている。

「はい…ええ、儀式の準備は着々と進んでおります。しばしお待ち下され、ノクタール様。…はい、では。」

連絡水晶へと話しかけるイーレン。

「兄上~、変な餓鬼んちょが出てきたみたいじゃ~ん。俺っちが、ぷちっと潰してこよ~か~?アッヒャッヒャ!」

「兄上、あたしがヤってくるわよぅ。ま・か・せ・てちょうだぁい。」


 「アーレン、サンレン、貴様等には貴様等の仕事があるだろう。私に任せておけ。」


 「ちぇ~、つまんね~の~。」

悪態をつくアーレン。

 「んもぉ、しょうがないわねぇ。」

サンレンも髭面で、精一杯の乙女感を振りまくが、どう見ても気色悪いおっさんにしか見えない。

 こいつら、これで大丈夫なのだろうか…。と、イーレンが不安に思うが、いくら心配しても、直ることがないのは分かっていた。


「次は少し、手を打つことにする。まあ、心配するな。我等がノクタール様の復活は近いぞ。」


「ノクタール様に世界を!世界に闇を!」


 三人の声が、冥界の闇の中に響き渡った─────





 

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