表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第三話 少年、覚醒る

運動は嫌いだ。疲れる。

トーヤ達の通うヌプル学校は主に、農学、商学、語学、経済学、そして武術をおしえている。武術の授業中では、剣術、槍術、対人柔術など様々な戦闘訓練を受けなければならない。こんなに平和なのに武術なんて何の意味があるんだ?疲れるだけじゃないか。心の叫びが口をこじ開け噴き出ようとするが、教官に見つかれば、鞭打ちは免れないので喉元に即席のダムを建設して、なんとか耐えた。


目前では何組かが、一対一の模擬決闘をしている。各々が自らに合った得物を手にしている。もちろん、木製のものだ。


トーヤの視線は中央のペアに向いていた。

木槍を巧みに操り、鋭い突きを繰り出す相手に対し、俊敏かつ無駄の無い動きでそれを回避し、右手に握られた木刀を光の如き速さで振り下ろす。一撃で木槍の生徒は天を仰いだ。防護用軽兜を装着していなければ、木刀といえど、確実に黄泉の国へ送られていただろう。

軽兜を外し、流れる汗を拭う木刀の使い手。短い髪に端正な顔立ち───アカンだ。

幼い頃より、あらゆる武術、学問、果てには魔法学まで、いわゆる英才教育と呼ばれるものを受けてきた。

領主たるもの民の手本とならなければならんぞ。というのがジョウザンの考えだった。

しかし、むやみに威張り散らしたりするわけではないので、領主としても父親としても尊敬することができた。


その介あって、アカンは大人顔負けの力量を有していた。迷いのない剣捌きは、まさに閃光のように煌めき、美しさすら垣間見えた。


「…ヤ、トーヤ!」

一瞬ビクッとし、我に帰るトーヤ。

いつの間に来たのか、目の前にはアカンがいる。

「何ボサーッとしてんだよ。まったくてめぇはよー。」

この口調と性格がもう少し、おしとやかならなぁ、と思っているトーヤに突如としてアカンが死の宣告をする。

「そうだ!トーヤも一戦してこいよ!どうせまだやってないんだろ?」

おいおいおい。ちょっと待て。そんな話聞いてないぞ!このまま大人しくしていれば、何事もなく、この拷問時間が終わるっていうのに…!

「あ…アカン!僕はちょっと…」

こちらの話には耳も傾けず、ガシッとトーヤの手首を掴み強引に処刑台へと引きずっていくアカン。トーヤと大して変わらない腕の太さなのに、振り切ることができない。

この馬鹿力!男女!むしろ男!!!

罵声を思い切り叫ぶ。…心の中で。


「教官!トーヤが対戦相手を探しています。」

そんなこと死んでも思うまい。

「誰かいい相手はいませんか?出来れば強いやつがいいんですが。」

こちらを振り返り、意味深なウィンクを飛ばしてくるアカン。口の端は見事に吊り上がっている。

間違いない。自分はアカンの「オモチャ」にされているのだ。


教官のソラチは長身かつ細身で、一見弱そうに見えるが、王都で軍の一師団長を任せられていた程の実力者である。訳あって、今はここの教官をしている。

得物は三メートル近くある長槍で、中に鎖が入っており、三つに分かれて鎖鎌のように使うことも出来る優れものだった。

「そうですね~…。」

ソラチが顎をさすりながら唸る。

「アサヒなんかどうですか?なかなか強いですよ。」

その名前に満足気に頷くアカン。

トーヤは初めて聞く名だった。

「では、早速呼びましょう。」

ソラチが指をパチンと弾くと、目の前に紫に光る円陣が現れた。円陣は円柱状になり一瞬まばゆい閃光を放つと消えた。

そこには二メートルはあるであろう大男が立っていた。

「アサヒ、ご指名ですよ。」

ソラチがやや見上げて話しかける。

「おらの出番さ来たっすか。相手はアカンさだな。」

「残念ながら違うんだなぁ。お前の脳天をかち割るのは、また今度にしてやるよ。お前の相手はこいつさ。」

アカンが立てた親指がトーヤに向く。

「なんだぁとぉ?おらをおちょくっちょるんか!こんなもやし、すぐペラッペラになっちまうぞ!」


トーヤの背中は既にびしょ濡れになっている。

「ア、アカン?や、やや…やっぱりム…ゴフッ!」

「武者震いがするってー?そうか!そうか!トーヤも立派になったなー!」

目にも止まらぬ速さでアカンの拳がトーヤのみぞおちに炸裂する。

ダメだ…。もう逃げられない。


「どないなっても、おら知らんぞぉ?」

アサヒも、とりあえず戦闘スイッチは入ったようだ。


「ではでは、早速やっちゃいましょうか。」

ソラチがどうでも良さそうに話を終わらせた。




「ようし!おらの力さ見せちゃるぞぉ!」

殺される…。トーヤは率直に感じた。体格だけでなく、その経験値もかなりのものなのだろう。全身から闘気が目に見えるまで溢れ出ている。手にした棍棒が唸りをあげながらグルングルンと回される。

対して、トーヤの得物は…何もない…!

トーヤは木刀を使おうとしていたのだが、アカンが、おもむろに寄って来て、

「こんなもん要らないだろ?素手で闘えよ。」とだけ言い、トーヤから木刀を取り上げたのだった。


「アカン…恨むからね…。」

小さく呟くと

「始めっ!!」

力強いソラチの声が響き渡る。

「おぉぉぉぉらぁぁぁぁあああ!!!」

地響きをさせながらアサヒが突っ込んで来る。

「やばいよ、ヤバいよ!ヤバイヨー!!!」

アサヒが衝突する直前に身を翻し、ギリギリで攻撃を回避する。

そのまま突進し、トーヤの後ろにあった岩を粉砕するアサヒ。

「動いたら、だんめだよぉ!おらがすぐ楽にしちゃるから。」

その顔は紅潮し、不敵な笑みを浮かべている。

こいつは闘い以外頭にない戦闘馬鹿だ。しかも、実力がある分、タチが悪い。

「行っっくぞぉ!」

再び突進してくる。

トーヤも再びそれを避けようと身を翻す。

「ん?」

トーヤの視界からアサヒが消えた…。

「あいつはどこに行っ…グワッ!!!」

突然背中に衝撃が走り、前のめりに倒れ、そのまま吹っ飛ぶトーヤ。

アサヒはトーヤが身を翻した一瞬に飛び上がり、落下する瞬間にトーヤの背後を棍棒で殴り飛ばしたのだ。

「ゲホッ!ゴ、ゴボッ!」

トーヤの口から赤くドロッとしたものが吐き出される。

「なんだぁ?もう伸びちまったんかぁ?」

まだ準備運動にもなっていないと言わんばかりに棍棒を振り回すアサヒ。


体に力が入らない。全身が熱い。心臓が必死に鼓動する音が聞こえる。

だんだん意識が遠ざかる…。


「………。」


何か聞こえる気がする。


「………。」


ついに幻聴まで聞こえるようになったのだと思う。


「………しいか?」


いや、やっぱり聞こえる!…どこかで聞いたような気が…。


「力が欲しいか?」


男の太い声が確かに聞こえた。


「お前はまだ闘える。さぁ、力を欲しろ。」


「……しい…。」

絞り出すように声を出す。

「力…がほし…い…!!」


「では、お前の力を目覚めさせようぞ。」


トーヤの体を神々しい光が包み込む。

「こ…これは!?」

傷が癒されてゆくようだった。

温かく、どこか懐かしく、心が安らいだ。


「おめぇ…な、何さ、しとるだ!?」

目を見開くアサヒ。突然の出来事に、すっかり混乱している。


光が消え入るように薄れてゆく。

そこには全身が光で包まれた、むしろ体そのものが光のように見えるトーヤの姿があった。


「な、なんか知んねえけど、ぶ、ぶっ潰しちゃる!!!うぉおぉおぉおぉ!!」

勢い良く突っ込んでくるアサヒ。


トーヤがスッと右の掌をアサヒに向ける。

「光神の名の元に集え。我が精を糧として、我が矛となれ!」

トーヤの右手に光が集まり、真っ直ぐにアサヒに向かって飛んで行く。

「あ、あぁ、あぁぁぁぁ!!!」

二メートルクラスの大男が宙に投げ出される。

アサヒはそのまま気絶した。

「そこまで!勝者トーヤ!」

ソラチの声が響き終わると同時にバタッと倒れ、そのままトーヤは意識を失った。


「第一段階終了か。にしても、予想以上だな。」

場外の木に寄りかかり、ボソッとアカンが呟いた。

「いよいよだな…。」

浮かない表情でその場から立ち去っていった。






「ここは、どこだろ?」

周りはシャボン球のように、虹色の歪んだ模様が大きくなったり、小さくなったりを繰り返していた。


「やーっと来たのね!随分と待ったわよー!」

驚いて振り向くと、そこには女が一人いた。白い布で身体を覆い、頭には月桂樹の冠を付けている。

「いつ来るのか、ずーっと楽しみにしてたのよ!」

満面の笑顔で話し掛けてくる。

…とてつもなく美人だ。


「あ、あの…ここは?」

身構えつつ聞くトーヤ。

「ここは『異門空間』。神の世界と地上とを結ぶ、言わば中間地点みたいなものね!」


異門?神?何のことやらさっぱりだった。


「あの!それって…」

身体が軽くなってゆく。

「あら?もう時間切れ?まだ力のコントロールが覚束ないようね。」

「あ、ちょっ!待って!ここって…」

「またすぐに来られるわ!いつでもいらっしゃい!」────



────「…あれ?」

気が付くと、そこは学校の医務室だった。

今のは…夢?にしては、やけにリアルだったような…

考えているうちに、ひどい眠気がトーヤを襲う。数秒で再び眠りについた…。




遅くなりましたm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ