第一話 少年、神話に出会う
初の小説です!
緊張してます!
頑張ります!
───天空は漆黒の闇に覆われ、地は砕け、山は憤怒を溶岩に変えて辺りを焼き尽くす。無数の影とその主たる黒神ノクタールによる支配によって地上は「暗黒期」を迎えていた。そこに一筋の光が空の闇を突き破り地上を照らした。光は徐々に増える。光神シャクシン率いる天神界の軍である。黒神軍と光神軍の闘いは一〇〇〇年に渡り、遂に光神軍が黒神軍を魔界に封じ込め、世界を命溢れる光で満たした───
「よぉ、トーヤ!…って、お前、またんなもん読んでんのかよ…何が面白いんだか。」
威勢のよすぎる声に、トーヤと呼ばれた少年は肉付きの良好でない身体を声の主に向け、けだるそうに応える。
「何がって…いいじゃないか。僕はこれが好
きなんだから…」
「んなことだから、いつまで経っても女に間違われるんだよ!」
少年、トーヤは声の主に向かって弱々しくも反論する。
「アカンだって、そんなだから男と間違われるんだよ…」
殺気の交じった鋭い目でトーヤを睨みつける少女。髪はショートで背丈はトーヤと同じくらいだが、肉付きはトーヤと違い、健康的なものだ。遠目で見れば、男に見えるが、顔立は端整で、美人な部類である。
「うるさい!あたしはどーだっていいんだ!」
「それなら僕だって…」
アカンの拳に力が入るのを目にして、トーヤは口をつぐむ。
「とにかく!もうすぐあたし達も17なんだ!少しは強くなってもらわないと困るからね!」
なんでアカンが困るんだよ…と思いつつもトーヤは知らん顔で窓から雲の行く末を見送るだけだった。
「まったく…少しはお母様の力になってやんなさいよ…これだから……」
ブツブツと出口に着くまで小言を言いながら、アカンはトーヤの部屋を後にした。
一人になったトーヤは、しばらく空を見上げていた。机には、いかにも年期の入った『神戦記』と題された本が置かれてあるだけだった。
ヌプルタウン。人口一〇〇〇〇ほどの村で、学校や病院といった施設はあるが、特に観光地というわけではなく、平野部は、延々と放牧地帯が広がっているだけだった南に行くと小さな港があり、そこそこの漁獲量もあった。村人は皆、裕福ではないが、互いに持ちつ持たれつの関係で何不自由なく暮らしてきた。それ故に、村人達の結束は強く、他民族からの侵略を駒如く跳ね返してきた。トーヤはこの村の外れにある家で母と二人暮らしだった。この村が好きだというわけではないが、ゆったりとした時間の流れは嫌いでなかった。
一方アカンは、村の領主の娘で、村の中央にあるちょっとした屋敷に住んでいた。細かいことを気にしない家系で、領主であり父親でもあるジョウザンは娘を特別扱いなどせず育てアカンも家柄など気にせず、ごく普通に育ってきた。
むしろ、身分のことで優遇されるのを嫌ってさえいた。
トーヤはいつも一冊の本を読んでいた。
『神戦記』と題されたそれは、この地に古くから伝わる伝説で、世界を創造した神々の伝説をまとめ上げたものだった。
アカンにはこれを好きだと言ったが、実際のところ、特に面白いと思ったこともなく、深い興味を持っているわけではなかった。──ただ、何かに引き込まれるような…読まなければならない気がしてならなかった。
トーヤは一面の緑の中に点々とする牛達を眺めながら考え始めた───
「アカンちゃん待ってよー!」
「トーヤったら!もー!!」
今年の春に五才になった二人。
HP・MPともに無限大といった様子のアカンを回復ポーションでも使わなければ瀕死になりそうなトーヤが息を切らしながら追いかける。二人はアカンの屋敷を主な遊び場としていた。小さなとは言うものの、流石に領主の屋敷というだけはあり、二人にとっては、魔界のダンジョンと変わらなかった。
「アカンちゃ~ん…」
トーヤが情けない声をあげる。
「ぐずぐずしないでよー!」
自分の方が早く産まれたので、自然と姉のような態度になるアカン。といっても、たったの三日違いなのだが。
二時間ばかりダンジョンを満喫した小さな冒険者達は、一枚の扉の前にたどり着いた。
「アカンちゃん?」
アカンが無邪気な表情を一転し、唇をへの字にして緊張感を醸し出している。
「ここは入っちゃダメってお父様に言われてるの。」
首を傾げるトーヤ。
小さな沈黙が二人を包む。
「あたしと一緒に入ってくれない?」
「え?えーー!!!ダメだよ!怒られちゃ…う……?」
アカンの瞳にうっすらと何かが溜まるのを見てしまう。
「…分かったよ。入るよ」
「本当!ありがとう!」
瞬く間に変わるアカンの表情に、トーヤは早まったかもと思ったがもう遅かった。
アカンが勢いよく扉を開け放つ。
そこには───