悪魔
街に戻った。寒いけど、天気はいい。
「ふう…」
往復して疲れた。もう昼過ぎだ。
「さて、とりあえず何か食べよう」
パープルさんも疲れたみたいだ。
「うん。お腹すいたー」
ミイナはやっぱり一番疲れてるみたい。雪の上に座り込んでしまった。
「あそこのお店に入らない?」
メロンが指差した先に小さな喫茶店があった。
「そうだね」
足が痛いし、座りたい。
「行こう」
パープルさんも同意。
「さ、行くよ」
座り込んだミイナに手を出すメロン。
「うん」
手をつないで歩き出す2人。
(仲いい。メロンも1人っ子だしなー)
喫茶店はパン屋さんもくっついていて、いろんな種類のパンが並んでいる場所があった。
「わー…!」
うれしそうなミイナ。メロンの手を離してトテトテと歩いて行って、皿を取ってパンを載せ始めた。
「元気になったなー」
うれしそうなパープルさん。
「さ、食べよ食べよ」
僕らもパンを取りに行く。それぞれパンを取って、喫茶店のほうのテーブルに着く。喫茶店の厨房から紅茶も持ってきた。
「あれ!」
いつになく高い声をだしたメロン。
「どうしたー?」
僕は目の前のパンのほうが大事。
「人がいる?ような」
その一言で、全員メロンが向いている窓を見た。
「…」
「…」
「…」
「どこ?」
念のため聞いてみる。
「……猫だったかも」
照れ笑いするメロン。がっかりするパープルさん。にっこりしながらメロンの目を見るミイナ。からかってるみたいだ。
コツコツコツ
全員一瞬黙って互いを見る。それぞれがふるふると首を振る。自分たちの音ではない。
チリンチリン…
ドアについている鈴が鳴った。分厚いメガネをかけて、年齢はややおじいさんの人が入ってきて、音の正体が分かった。
「人はまだまだ残っていたのか…」
目を丸くしている。
「君たちも取り残され…」
そこまで言って、『ややおじいさん』は固まった。僕達も何があったのか分からず止まる。
「そのペンダント!!聖女様!!」
『ややおじいさん』はいきなり跪いた。目には涙まで浮かべている。僕もメロンもパープルさんも、首をかしげながらミイナを見る。
「……ふぇ?」
当然どうしてよいか分からないという反応をするミイナ。
「私にも!聖女様を、警護させてください!!」
パープルさんに向かってたのみこむ『ややおじいさん』。
「は、はあ…」
パープルさんも反応の仕方が分からないらしい。
「では!!私は周囲を見張ります!!」
走ってった。
「……何だったんだ?」
ぼけっとしながら聞いてくるパープルさん。
「…さあ」
首をかしげる僕達。
食事を終えて外に出る。
「さっきの人は…いなくなったみたいだ」
周囲を見渡しても誰もいないし、人の気配もしない。
「無視していいんじゃない?」
メロンの言葉に全員賛成した。というか真剣に考えている人はいなかった。
とりあえずホテルの部屋に戻って、しばし休憩。
コンコンコン
「レオーまだ寝てるのー?」
ミイナの声で目が覚めた。
(いつの間にか寝てたんだ…)
廊下に出た。
「夕食の時間になってしまいました」
メロンに言われて、納得いった。
(どうりで…暗くなってきてるわけだよな)
「さて…これから街を出るのは無理だし。また適当に何か食べて今日はのんびりするか」
パープルさんが言った。
そしてまた夜。宿でまた1人ベットで寝ている。男は僕一人なので、一人部屋は仕方ない。でも、さすがに昼間寝てたのでなかなか眠れない。天井の模様が気になる。
(こういうのってどうして顔に見えたりするんだろう…)
カンカンカンカン…
「ひ!」
窓を叩く音がした。
(気のせいだ!!)
寝返りを打って窓と逆のほうを向いてみる。
カンカンカンカン…
(……ああ…怖い…。何もないって確認できれば大丈夫なんだ。出るはずないって!)
起き上がって、剣を取ってから窓に向かう。
ガシャン!!
「ひいいやあああ!!」
ばらばらと破片が散らばった。そして、毛がたくさんある何かと、赤い丸が2つ見えた。それ以上は確認できず、ドアに向かい蹴破って廊下に出た。
どんどんどんどん!!
「パープルさん!!助けてくれええええええ!!」
「…どうした?そんなに慌てて」
「パープルさん!!あ、あ、あ、あああ赤い目が窓割ってがしゃーん…あの窓が毛がたくさんあって」
「落ち着きなよレオー」
パープルさんの横からメロンが出てきた。
「怖い夢見たんだねー。お姉ちゃんが一緒に寝てあげようかー?」
「からかってる場合じゃないって!!ほんとにうわっ!!」
パープルさんが僕の腕を引っ張った。倒れて床に倒れこむ。
キュルルルルル…
振り向くと赤い目をした何かがあった。
「レオーこれ夢ー?」
のんびりした声のメロン。
「夢じゃないって!!」
「下がってろ!」
パープルさんが短刀を持って僕達の前に立つ。
「っ!!」
パープルさんが動いた。両手に持った短刀を振る姿が、踊るようで、舞うようで、ゆっくりのようで素早いようできれいだった。暗さで何があったのかはよく分からなかったけど、気がついたら赤い目は消えて床に塊が倒れていた。
「…動かなくなったかな…」
メロンが小声を出した。パープルさんがゆっくり倒れているものに触れた。
「どうやら…倒したようだな…」
息をほとんどしてなかった僕とメロンは、緊張を解いて息を切らして空気を吸った。
「こいつ…なんなんだろう?」
メロンがランプを持ってきたので、明かりを照らしながら恐る恐る近づいてみる。
「うっ…これも目?」
さっきまで赤く光っていた目玉の上にいくつか球体が埋め込まれていた。
「…知ってる?こんな生き物…」
「知らない…」
震えながら答えるメロン。パープルさんも目が泳いではっきり見る先が決まってないようだった。
「知っている…悪魔と呼ばれていて…南に…こういうやつがいて…人が住めなくなったと…何かの本で読んだ…」
パープルさんは肩で息をしているようだ。
朝になった。悪魔の亡骸のある階で眠るのは怖いので、別な階に移動して、4人部屋で夜を明かした。でも、誰も結局眠らないまま朝になった。
「…あの1匹だけだったようだけれど…。さて、食べ物を取ってくる。ここで待ってて」
パープルさんが短刀を持って出て行った。
「…ミイナ。よっと…結構重いもんだね」
イスに座ったままうとうとしているミイナをベットに寝かせるメロン。
「…遅いなあ」
ここから、商店街までそんなに遠くないはずだ。
「……ちょっと見てくる」
外に出る。パープルさんがこっちに向かって歩いてきていた。
「パープルさん?」
ちょっと表情が暗い。
「昨日の人が…悪魔と…戦ったのかもな…」
パープルさんは僕と反対側を振り向いて一言つぶやいた。
「どうしたんですか?」
「とりあえず、あそこの建物の影に運んだ。あとでちゃんと埋葬してあげよう…。ミイナがうっかりそこに行かないようにしてほしい」
「…は…い」
何があったのか分かった。でも、悲しいのか良く分からない。平気ではない。昨日の人がいなくなったことよりも、昨日の夜生きるか死ぬかの場面だったこと、そういうことに首を突っ込んでいること。静かな街が巨大な魔物で、僕達はその体内にいてこれから溶かされていくような、そんな気がした。




