連絡船
それから連絡船が来るまでの約1ヶ月半。パープルさんの家のドアは僕が壊してしまったのでメロンの家で4人で過ごすことになった。
数日後。
スパッ、ばらばら
「剣のほうも凄い切れ味だな。蹴飛ばしたとき、足を斬らなくてよかった」
パープルさんが剣を持つと様になるなあ。
「剣習ったりしてたんですか?」
聞いてみる。
「いや、独学」
剣を眺めながらあっさり答えた。
「剣、教えてくれませんか?」
「ま、まあほぼ素人の私でよければ」
「メロンも習えば?」
「私斧だし」
そっけないメロン。
「大事かもしれないよ?何があるか分かんないしさ」
何だかやる気なさそうに見えるメロンをもう一度誘う。
「…」
しぶしぶ加わった。3人で長めの木の枝を使って練習した。
「えい!やあ!ほい!!」
メロンが枝を振り回す。
こつ、どてっ
足をパープルさんに蹴飛ばされて転んだ。
「そんなに振り回さないで、相手の動きをよく見なよ」
「はいよ」
一瞬むすっとしてパープルさんを見たけど、頷いた。
この間に来た洞窟に来ている。
「こんなところに、洞窟…というか神殿みたいなものがあったんだな」
武器のあった洞窟の中で、彫刻や柱を見ながらパープルさんは驚いていた。
「あの宝箱です」
いろいろ手にとってみて、
「これにするか」
短刀を2本手にした。
「ん…全部持っていけばいいか?」
パープルさんは宝箱の中の武器を眺めた。
「…止めときましょう神殿だし…」
祟りがあったら怖いから止めておく。
「まあそれもそうか…ここにあった方が取られなくて安全かもな」
そのかわり僕やメロンの武器の予備として短刀2本とあとナイフを何本か持って行くことにした。
「ただいまー」
「ただいま」
メロンの家にいたメロンとミイナにあいさつ。
「いい武器ありました?」
メロンがパープルさんに聞いた。
「これ、短刀だな。あとはナイフを何本か」
「あと、僕とメロンの予備に短刀持ってきた」
短刀をメロンに渡す。
「ほう…こっちのほうが使いやすいかな」
短刀を眺めるメロン。さて…とパープルさんが立ち上がる。
「どこ行くんですか?」
「ちょっと試し斬りに」
「僕も…」
ぎゅ
ミイナに手をつかまれた。目をつぶってふるふる首を振っている。
「ん?どうしたの?」
聞いてみても黙ったまま。
「ははっ。試し斬りは一人でいい」
パープルさんは笑いながら出て行った。
?
ミイナはさっと手を離してもとの位置に戻ってさっきまで持っていた本を読み始めた。そういえば少し疲れた。テーブルについて一息つく。
「…連絡船が来てさ…村のこと話して…あとどうなるんだろう?」
メロンに話しかけてみる。
「国の人達か誰かが村の人探してくれるんじゃない?街でのんびりするか、村で待つか…。大勢なんだし…誰か1人見つかれば全員見つかるんじゃない?」
そっけないような感じのメロン。
「うん…。どうしていなくなっちゃったんだろう…」
(逆にどうして僕達だけ残ってるんだろう)
「さあ…急に寂しくなった?」
「うん…」
父さんにも、村のみんなにも会いたくなってきた。
(最初は、何だか楽しいことが始まったように思ってたんだけど…)
「私も…寂しいよ…」
急に暗い顔になったメロン。
「…」
「…」
「ああ、やめようやめよう。うまくいくと思おうよ?」
メロンが首を軽く振った。
「うん。そうだよね」
「これ、何て読むの?」
ミイナが本を持ってやってきた。
「ん?それは………」
「読めないんだね?」
にやにやしながらこっちを見てくるメロン。僕に代わってミイナに教える。くやしい。
がちゃ
ドアが開いて、パープルさんが帰って来た。
「沖に船が見えるぞ!?」
「え…」
(まだ来るはずない。村の状態が分かったのか?)
全員外に出て、沖を見る。ぽつんと船が見えた。
「船だー」
指をさすミイナ。うれしそう。
「連絡船だ…」
足りない食料を運んできたりする船。何回も見たので見間違いではないはず。
「うん。連絡船だ…」
メロンは少し不安そうだった。
「…」
「…」
連絡船を沖で見つけてから3時間後、日も暮れ始めている。僕、メロン、パープルさんはずっと見ている。ミイナは飽きて歩き回ったり、ペンダントを眺めたりしている。
「一向に近づいてこないね…」
たぶん全員思っていることをメロンが言った。
「まあ、こんなことをいうのは…なんだけど。あれ…人が乗ってるのか?」
たぶん全員思っていて口にしなかったことをパープルさんが言った。
「ボートで行ってみよう…」
「父さんのボートがあるよ…」
パープルさんの言葉を受けて、ボートを取りに行く。
ボートの準備ができて、全員乗り込んだ。
ばりばり
誰も何もしゃべらず、船のスクリューが水をかく音だけが聞こえ、日が暮れ始めていて寒い。ようやく船に近づくと船体が壁のようにそびえていた。船にくっついてるうきわにつかまって、階段を使って上に移動した。
「…やっぱり人の気配がしない…」
がっかりした。
「探してみよ?みんな寝てるのかもしれないしさ…」
メロンが僕の肩を叩いてくれた。
全員諦めているが、手当たり次第にドアを開けて調べてみた。結果、誰もいなかった。
「まあ…悪い予感はしていたが…」
パープルさんは肩を落とした。
「ど……ど、どうする?」
みんなに聞いてみる。
「もうだめだああああああ!!!もう世界中誰もいないんだーーー!!!」
こうやって発散するのがメロンだ。
「ママあ…パパあ…」
ぼろぼろと涙をこぼし始めた。発散するためではなくて本当に限界だったらしい。
「父さん…」
僕も悲しくなってきた。
「う、う、う、ぶわあーーーん!!」
突然ミイナが大声で泣き出した。
(そうだった。ミイナは村の人達が居なくなる前から一人ぼっちだか...)
メロンもミイナを見て何とか泣き止んだ。同じことを考えたんだろう。パープルさんは暗い顔だけど口だけ笑顔を作りながらミイナの頭をなでている。
「この船…動かせない?」
メロンがぼそっと呟いた。
「…操縦できる?」
聞いてみる。
「できるわけないでしょ?」
けろっと言うメロン。
「でも、あっちに操舵室?みたいなものがあった…」
そう続けた。全員で、甲板の上にある部屋に行ってみる。
「…さっぱり分からないね…」
レバーだらけでどれをどう動かせばいいか分からない。
「全部オンでいいんじゃない?」
がしゃがしゃレバーを動かすメロン。
(大丈夫かな…)
がががががががが…
船体が揺れだした。
「だ、大丈夫なの?これ!?」
「知るかあ!!」
メロンに怒鳴り返された。
「ハンドルを…!!」
パープルさんがハンドルをつかんで、
「ど、ど、どっちに切ればいいんだ?」
慌ててる。
「地図!!」
テーブルに地図が広げてあったけど、がたがた揺れてて読みにくい。地図を読む道具らしきものが箱の中にたくさん入っていたが、何をどう使えばよいか分からない。
「……どっちだ!?」
パープルさんも焦って聞いてくる。
「…分からないよー!!」
この紙が地図ということ以外、今居る場所も何も分からない。
「メ、メロン!とりあえず、速度を落としてくれ!!」
「どれが速度か分かんないってばー!!」
パープルさんに叫ばれ、大量のレバーやら目盛りやらを前にして、半泣き状態のメロン。
「うわっ!!前に氷だ!!曲がるぞ!!!」
パープルさんが叫んで、ハンドルを目いっぱい回転させる。
ががががっがが
思いっきり船が曲がり、机の上にある地図やら何やらが床にどかどか落ち、体がどこかから引っ張られる感覚。
「ふう!!」
パープルさんが一気に大きく息を吐いた。
がちゃん!!ガクン!
「ひっ!!!」
急に速度が落ちた。
「速度変えれた…」
メロンがその場にふらふら座り込んだ。
「…もう大丈夫だよ…」
大き目の柱にずっとしがみついているミイナに声をかけた。