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誰もいない村

 夜。自分の部屋のベットで横になって剣を眺める。

(…また、明日から元に戻っちゃうのかな…)

ドンドンドン

 1階でドアを叩く音が聞こえた。こんな時間に誰か来たらしい。

「…レオー。ちょっと降りて来い」

(…父さんの声、なんだろう?)

 階段を下りる。

「レオ、今から村長の家に行くんだ」

「え?」

「いいから、早く」

「は、はあ…。じゃ行ってきまーす…」

 父さんの雰囲気に、何も言えないまま、村長さんの家へ。

「レオも呼ばれたんだ?」

 村長さんの家にメロンもいた。

「うん…。あの、何かあったんですか?」

「お前達、隣村に行ったんだよな?」

「は、はい」

「何があったか知ってるか?」

 僕とメロンは顔を見合わせた。

「実は…隣村には行ってなくて…」

 メロンが説明してくれた。

「…お前達…何か隠してないか?」

 村長さんは嘘をついたときは鋭い。

(う…)

「信じてくれないかと思ったんで言わなかったんですが…その」

 メロンが洞窟で石像を見つけ、それが割れてミイナが出てきたことを説明した。

「…」

「…」

 黙る村長さん。

(当たり前だよな…信じれるような話じゃない。……隣村の話が聞きたいんだけど)

「隣村で何かあったんですか?」

 聞いてみた。

「あ、ああ…。それが、急に誰もいなくなったんだ。なだれに巻き込まれたとかじゃあない。建物は無傷だし荒らされたようでもない。で、人だけがいなくなった」

「…引越し?」

「…」

「…」

 メロンの一言は暗い雰囲気を和ませようとしたのか?本当にそう思ったのか。

「…そのミイナちゃんは、スーケットさんの家にいてもらえるかな」

 村長さんが口を開いた。ちなみにスーケットはメロンの苗字。

「大丈夫です」

 うれしそうに即答するメロン。

「よかった。何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ。さて…夜遅くに呼び出して悪かった…。…気をつけてお帰り…。隣村には行かないようにな…。最近2人とも活発だから…。それと、明日は来るんじゃぞ」

 頭をかいて何か悩んでいるらしい村長さん。

「…はい」

 隣村行ってみたかったのに。

「はい。おやすみなさい」

 立ち上がろうとする。

「レオは…ちょっと残ってくれ」

「は、はい」

 座りなおす。

 宿題でも忘れてたかな。

「じゃ、おやすみ、レオ」

 メロンもそう思ってるみたいで、にやにやしていた。

 村長さんと僕だけになった。

「人を信じるということはどういうことだと思う?」

 唐突な質問。

「え…」

「わしは、その人を信じると決めたら考えることを止める、それが信じるということだと思っている。疑いだせばきりが無い。ときには雑音に耳を塞ぐことだって大事だ。それで失敗しても後悔も反省もしない決意。そういう愚かさ…それが信じることだろう」

「は、はあ…」

(何言ってるんだろう。まあ、持論をぶつぶつ言うことは結構あるけど)

「…深い意味は無い。ちょっと思っただけだよ…。気をつけて帰るんだぞ…」

「はあ、おやすみなさい…」

 家に帰ってベットに横になる。

(隣村に行ってみたいな…。人が全然いない村ってどういう感じなんだろう…)


ジリリリリリばしん

(あと5分…)

 時計を手にとって見る。

(!げ…。とっくに村長さんの家に行く時間なんて過ぎてる…。おこしに来ないってことは父さんも寝坊か…?)

 階段を下りて1階に。

「父さんー。おーい。また怒られるよー」

 人のことは言えない。

(もう出たのか?最近洞窟探検してて疲れてたから、起こされたけど起きれなかったんだな)

 ハムを切って、パンを焼いて、コーヒー入れ、ゆっくりと遅めの朝食を楽しむ。

(どうせこれだけ遅刻してるんだから、もうどうでもいいや…)

「さて、行ってきまーす…」

 僕以外誰もいないけど、挨拶だけする。やっぱり不安になりながら外に出る。

(…?)

 不気味なほど静まり返っている。人がいないだけじゃない。人の気配さえしない。遅く家を出たからだろうか。自分の足が雪を踏みしめる音が聞こえる。

(足音って大きいんだな…)

 村長さんの家に着く。

「おはようございます…」

 やっぱり誰も居ない。

「レオー…遅いよー」

 メロンがいた。ほっとした。

「寝坊して、起きたら父さんがいなくてさ…。外に出ても誰も居ないし、みんなどこ行ったの?」

「ミイナがいることと、早起きしたこと以外は同じ…。どうしたんだろう…」

 メロンが視線を移す。ミイナが寝転がって村長さんの家にある本を読んでいた。

「…隣村と同じことになったのかな…」

 昨日の話を思い出した。

「かも…外に出てみようか…?」

 元気ないメロン。

「…だね」

 外に出てもさっきと同じ。雪を踏む音が3人分になっただけ。

「…」

「…」

「…」

「誰かいませんかー?」

 ミイナがいきなり叫んでちょっとびっくりした。

「1件1件回ってみよう」

「…うん」

 うなずくメロン。2手に別れて家を回ってみる。

どんどん

「ごめんくださーい」

 片っ端からドアを叩いたり、呼び鈴を鳴らす。

がちゃ

「お、おじゃましますー」

 鍵のかかってない家には勝手に入ってみる。

 

 2時間くらいたっただろうか。メロン、ミイナと合流した。

「誰かいた?」

「誰も…どこ行ったんだろう…。パパも、ママも…」

「お姉ちゃん…」

 泣きそうなメロンと気遣うミイナ。

「………メ」

「だあああああああ!!!!誰か出て来ーーーーい!!!いないのーーー!?盗むぞ!!金取るぞ!!引き出し全部開けるぞ!!日記も全部読むぞ!!出さなかった恥ずかしい手紙も読み上げるぞーーーーー!!」

「ひえっ」

 声をかけようとしたら、メロンが大声で叫びだし、ミイナがびっくりしてた。

「ふう」

 叫んで元気を出したみたいだ。

「…なんか…臭い?」

 くんくん臭いをかぐミイナ。

「ほんとだ…何か焦げてるような」

 確かに臭い。

「あれ…」

 メロンが見ている方向を見てみる。まだ細く薄いが煙が窓から立ち上っていた。

「火事だ!」

「うん、火事だ」

「燃えてるー」

 動転してぼんやりしているメロンとどこか楽しそうなミイナ。

「…」

「…」

「…」

「急ごう!!消さないと!」

 たっぷり一呼吸おいてから走り出す。2人も我に返ったのかついてきた。煙の出ている家に、ドアを蹴破ってはいる。

「こっちか!」

 台所。火にかけられた鍋とその周りが燃えていた。適当にソファーにかけてあった服を取ってばさばさと火にかぶせたりしてみる。

「ふう…あっさり消えた」

 冷や汗をぬぐう。

「…火を消す暇もなかったってこと?」

 真っ黒い鍋を見つめているメロンが呟いた。

「…そういうことだよね…。とりあえず…他の家も見てみよう」

 また手分けして他の家にも入ってみる。火事にはなってなかったが、何件か火をつけっぱななしだった。小さな村でも全部入るとなると結構時間がかかった。家を回った後は、一旦メロンの家に全員集合した。

「ふうー…」

「とりあえず…何か食べようか?」

 メロンが立ち上がる。

「できるの?」

「まあ、まかせといて…」

 ぬいぐるみで遊んでいるミイナを見ながら待った。

「…おまたせ」

 自信なさげの顔が気になる。

「……うん…」

「……」

 黙って食べる僕とミイナ。

「悪かったな」

 何の反応もなくて腹が立ったらしい。心の中でメロンに謝っておこう。

「さて…これからどうしようか?」

 話題を食事からそらそう。

「隣村に行ってみない?私達がここにいるみたいに、誰か残ってるかも」

 もそもそと進まない食事を続けているメロン。

「そうだね…行ってみようか。ちょっと待ってて」

「どした?」

「昨日の剣持ってくる。何があるか分からないし」

 少し僕はうきうきしている。

「…私も斧持ってくるかな」

 メロンはちょっと真剣だ。


 自分の家から戻ってくると家のドアの前で2人が待っていた。

「さあ、行こう」

 道に沿って進むだけで何も起こらず、到着。また、2手に別れて1件1件家を回る。

どんどん

「おじゃましますよ」

がきっ

「ドアも壊しますよー」

すぱっ

 剣でドアを斬って入る。誰もいないのを確認すると次の家で同じことの繰り返し。だんだん面倒になって最初から無言で剣で斬って入る。

すぱっ

 誰もいないのを確認。戻るか。

「誰だ!!」

 声のする方を向く。

「うわあ!!」

 足を蹴飛ばされて転ぶ。

(剣を)

がんっ

 剣を蹴っ飛ばされた。

「ぐっ」

 上に乗っかられて、目の前に短刀がきた。

「村の人達はどこにいる?」

「し、知りません…。ぼ、ぼぼ、僕も、隣から来て、隣の村から来て、僕の村が誰もいなくなって、あの、僕はいるんです、それで隣の村のこの村、誰もいなくて…」

「……」

 すっと立ち上がった。

「あ、あの…」

 疑いは晴れたんだろうか。

「誰もいなくなっていて…取り乱していた。悪かったな」

 今まで慌てていて分からなかったけど、きれいな女の人だった。

(薄紫…変な色の髪だ。でも、きれい。長いツインテールが似合ってる)

「…?どうした?」

「い、いえ…」

 焦った。

「誰かいるよ?」

 ミイナの声がして、2人が部屋に入ってきた。

「仲間か?」

「仲間だ!」

 僕が聞かれて、答えたのはメロン。

「…ずいぶん物騒なものを…持って歩けるのか?」

 じっとメロンの斧を見る女の人。

(身長くらいの斧だもんな)

「こう見えて、怪力で有名で」

 意味の無い嘘をつこうとするメロンから、女の人が斧を取り上げた。

「!」

 軽くてびっくりしたみたいだ。

「なんだおもちゃか」

「違うよ」

 斧を返されたメロンがそれで花瓶を斬った。

すぱっ、ごと、ざばー

 花瓶が割れずにきれいに斬れて水が流れ出した。

「…何でできてるんだ?」

 女の人は花瓶を見つめたままつぶやいた。

「さあ…洞窟にあったから、分からない」

 ちょっと得意顔のメロン。

「古代技術の武器か。単純な刃物は珍しいな。…その洞窟は近いのか?」

 女の人は興味を持ったらしい。

「ここから歩いて…1時間くらい?」

 メロンが答えた。

「…昔はここに住んでいたのに…知らなかった」

 女の人がつぶやいた。声もきれいだ。

 全員一旦静かになる。

「私はヴィヴァ・フリデリーバ、あなたたちの名前は?」

「私はメロン、こっちがレオ、この子はミイナ。よろしく、パープルさん」

「パープルさん?」

「言いにくいから、いいでしょ?」

「ま、まあ、いいか」

 メロンに押し切られたみたい。

「…それはいいとして…。村に誰もいなくなって…連絡船が来るのを待つしかないか」

 話題を切り替えるヴぃ…パープルさん。

「来月まで待てば来るしね。パープルさんもそれまで私達と一緒にいる?」

 メロンの中ではすっかりパープルさんになった。

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