その後
「結局おんなじことしてるね」
後ろから、笑いながら話しかけてくるメロン。僕はやっぱり雪の上に立って氷が浮かんでいる海を眺めている。
「…そうだね…。何にも変わらなかった…」
変わらなくて良かったこともたくさんある。村の人たちは、僕やメロンの家族を含めてほとんど無事に帰ってきたし、何があったか覚えている人は村長さんくらい。で、村長さんと僕たちで何が起こったのか、本当のことは黙ってることに決めた。
「村に帰ってきたときはほっとしたんだけど…またどっかに行きたいなあ」
「私も…」
「え?」
メロンが同意すると思わなかった。また、呆れられると思ってた。
「…最後の方は早く帰りたかったけどさ…。正直最初はどきどきしなかった?石像から女の子が出てきて、誰もいない村、すごい武器見つけて…素敵なおとぎ話の中心にいるような感じがしてさ…」
目を輝かせている。めずらしい。
「僕も…今度は普通の旅をしてみたいなあ」
「だね…」
「…」
「…」
黙る2人。
(親の許可もいるし、お金の問題もあるし、まだまだこの村にいなきゃいけないし…)
「…ミイナは?また洞窟にいるの?」
話題を変えよう。こっちはもっと暗い話題だけど。
「うん…やっぱり悩んでて、村にいちゃいけないって思ってるみたい…」
「…」
「…」
村に帰ってきてから、ミイナは毎日のようにあの洞窟に来ている。僕たちが話しかけても、無理に笑顔を作って明るく振舞おうとする。僕たちも何を話せばいいのか分からず、距離を置いてしまうようになってきている。
部屋に戻って1人でベットに横になって天井を見ている。
ミミルさんから貰った本をパープルさんが一生懸命読んで聞かせてくれた話によると、どうやらあの本はペンダントを作った人が書いた本らしい。
本によると、大昔の人は不老の薬を南にある工場で作っていて、その廃棄物に動物が触れて変化を起こして化け物になり、いつの間にか悪魔と呼ばれるようになった。悪魔から逃げている間に昔の人たちは冷静さが無くなっていったらしく、そのうち救済の塔や聖女を信じ込もうとした。僕やメロンを含めて村の人たちや残っている街にいる人たちは悪魔から、北に逃れた人たちの子孫。悪魔は寒さに弱かったせいで北には来なかった。僕たちこの村の人々の先祖はもともと神官だったらしい。
(神官と言っても…本当は嘘なんだけど。パープルさんの先祖は神官じゃなくて、悪魔と戦う戦士だったらしい。だから強かったのかなあ)
この村は、救済が始まるまでミイナを守るための村だった。村長さんは不老の薬を使って生き続け、ミイナの封印を解く日を待っていた。
(そういえば、村長さんに遺跡を調べてみるように言われて…そこから始まったんだよな…。そういえば、何で僕たちをそんな大事な場所に行かせたんだろう?ミイナを悪魔から守って塔まで連れて行く大事な任務だったはずなのに…。最近聞いたら占いって言ってたけど。…僕たちに何か、聖典と違うことをしてほしかったのかもしれない)
体を起こす。
(村長さんって分かんないや…自分で封印を解いて、ミイナを説得することもできたんじゃないかな…)
また横になる。
(ミミルさんも…塔を止めたいと思っていた…。なら、最初から僕たちに言ってくれれば良かったのに…)
しばらくそんな考えごとをしながらぼーっとしていた。
ガバッと体を起こす。
(やっぱり、旅に出よう!)
なんの前触れも無くそう思った。自分でもおかしいと思う。
数日後の朝。
「行こう!」
「おう!」
おっさんみたいな声で気合を入れるメロン。ミイナがいる洞窟に向かう。
やっぱりいた。石像とペンダントを交互に眺めているミイナ。
(もう一度石になりたいと思っているんだろか…)
「…あ」
僕たちに気づくミイナ。
「…」
「…」
2人で一呼吸する。
「旅に出よう。ミイナ!」
予想以上に大きな声が出て自分でもびっくりした。
「…どこに?」
ちょっと笑ったように見えたけど、目は冷めたままのミイナ。
「どこか。特にあてはないんだけど、パープルさんも誘ってさ」
メロンが話し合い開始。
「どこかに行ってどうするの?」
呆れたようなミイナ。
「分からないの!どこかに向かって行って!いい街があったらのんびりして!戻りたくなったら戻る!」
ちょっと空元気も入ってるけど元気なメロン。
「…お金は?」
冷静に返してくるミイナは僕たちよりもずっと大人みたいだ。
「これを売る!」
背負っているバックからいろいろ宝石や首飾りやブレスレットや…ピカピカしたのを出すメロン。
(まったく…。あのときペンダントに似たやつ以外にも盗んでた…)
呆れる。でもありがたい。
「………え。盗んでたの?」
ようやく目も笑ってくれたミイナ。苦笑いだけど。
「行こう!」
ミイナの手をつかむ。小さくて、ふにゅふにゅしてる。
「…でも」
下を向くミイナ。
「行くの!」
ミイナのもう片方の手をつかむメロン。
「……うん。行く…!」
ミイナが笑顔になった。
長い話を書いてみようと思って始めたのですが、話のつじつまが合わなくなって分解してしまうのを必死に防ぐ…という感じでした。じゃ、また。