ペンダント
次の日、父さんには隣村に行くと言って村を出た。
「さて…どうする?また洞窟行ってみる?何か見つけれるかもしれないし…」
隣村に行っても意味が無いことは分かっている。
「んー…そうだね。それでいい?」
今日もミイナはメロンの手をつかんでいる。
「うん」
雪道を歩きだす。
「確かこっちだったよな…」
「多分…迷ってたし…」
しばらく昨日の分かりにくい地図を眺めながらうろうろ。
「あれ、きれい…」
ミイナが指差している方向を見てみる。太陽の光にツララが当たってきれいに輝いている。
「ん?ちょっと?」
ミイナがメロンの手を引っ張ってぱたぱたと走り出す。
「こっち、こっち!」
「あ、危ないって!走ったら」
「わっ!」
どてっ。ミイナが転んで、ついでにメロンも転んだ。
「ごめん。…お姉ちゃん」
ミイナが泣きそうな顔で謝る。
「?お姉ちゃん?ま、まあいいよ。ゆっくり歩こ?」
少し照れてるらしい。
ぴきっ…
?
2人が立ち上がろうとする。そのとき、何の音か予想がついた。
「待っ」
動かないで、そーっと移動して…と言おうと思った。
バキバキバキ、ガラガラガラ!!!
「きゃわああああああ!!」
「わああああああ!」
「メロン!!ミイナ!」
崩れて開いた穴に走る。…走ったら危ないんだった。
「うわ!!わわわ…わわわ!」
僕も滑った。
ドガッ
「ふぎゃ!」
穴は思ったより浅かった。後から落ちてきて、蹴っ飛ばしてしまったメロンが猫のような声を上げる。僕はしりもちをついて着地。
「いっつ!いっつ!いってえええ!!何だこの野郎!!」
立ち上がって怒鳴ってきたメロン。怖い。ミイナがびくっとして僕のそばによってきた。
「ご、ごめん…。ミイナは大丈夫?」
「うん。平気」
怖がったミイナを気遣うメロンと、機嫌を治したミイナ。
「あ…お、思ったより浅くてよかったね…」
メロンの顔色をうかがってみる。
「ふうー…。まあ、ね。蹴りのほうが痛かったけど」
「ごめんごめん。…ここも、昨日の洞窟みたいな感じだね…」
黒い柱があちこちに立っていて、黒いタイルがところどころに見える。
「…実は意外とたくさんあったのかもね…」
キョロキョロと周りを眺めるメロン。
「探索してみよう」
3人でうろうろしてみる。
「ここも聖堂みたいなものなのかな…」
「昔の人って教会とか神殿とか、そんなのばっかり造ってたらしいからね。あっドアもあった」
メロンが柱の間を指差した。
(また像があってミイナが増えたりして…)
「…」
「…」
ドアの前で立ちすくむ。
「どうぞ?」
「今日はレオでしょ?」
深呼吸してからドアを開けた。広い部屋。壁と天井は彫刻が彫ってあってドーム状。
「昨日と同じ…でも像は無いみたいだ」
「彫刻掘ってる間に一つ聖堂造れば十分だって気づいたんじゃない?」
(ふてくされたメロンに戻ってる…)
「あれ、なんだろう…」
昨日像があった場所に今度は彫刻が掘ってある長い箱のようなものが置いてあった。
「そりゃ…見た目どおり…棺でしょ?」
「…」
「…」
立ちすくむ。
「…どうぞ?ここは男らしくさ」
やっぱりメロンは僕に任せるらしい。
「…僕はらしくなくていいからさ…ここは漢らしく…」
「あ゛?」
凄い目で睨んでくるメロン。
「わ、分かったよ。開けるよ…。ミイナを」
ミイラでも入ってたら、ミイナがかわいそうだ。
「うん」
メロンはミイナと一緒に離れた。
「よいしょ…」
ぎ…ぎ…ぎぎ…
棺を横にずらそうとしてみた。なかなか動いてくれない。
「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…。ふう…ふうふう。重いなこの蓋。釘が打ってあるのかな」
周りを確認するが、よく分からない。やっぱり力が足りないのか。
「ぬぬぬぬぬ…。ふう…。重い…。あの…」
「…分かった分かった!手伝えばいいんでしょ!?」
メロンがづかづか歩いてきた。やっぱり頼りになる。
「よいっしょ!ほいさ!」
「メロン、力が抜けるよその掛け声」
「うるさ」
ずずずず…
「あと少しだ!」
どきどきしてきた。
ずずずず…ドオン!
半分まで押した蓋が傾いて地面に倒れこんだ。
「うわああああ!」
「きゃあああああ!何何々!?何が入ってたの!?」
取り乱すメロン。叫んだのは僕が先だけど。
「いや…その…見てない。なんとなく叫んじゃった…」
「レオ…私の寿命を縮める気?」
2人で恐る恐る近づいて、そーっと覗き込む。
「武器…。宝箱だったんだ…」
錆びてないぴかぴかの、大剣、斧、槍、弓、杖などなどたくさん入っていた。
「ほふうーーーー。全く、ほんと何びびってんだか。ドア一つ開けるのにもおどおどして、蓋を開ける力も無いなんてほんと貧弱だし、何も見ないでうわーとか叫んでほんとびびりだし、ほんとに一緒にいるとほんと疲れる」
緊張感から解放されて饒舌なメロンを横目に、大剣を両手でつかんでゆっくり持ち上げてみる。
「よっと…。おう?っとっとととと」
つかんだ瞬間に大剣を振り上げてしまい、勢いで後ろに下がる。
「思ってたより、軽かったんだ?」
にやにやしながら見てくるメロン。
「うん…軽い。本物じゃないかもね、これ」
「よっこら、おっと。ほんとだ軽い。何でできてるんだろ?」
メロンは自分の身長くらいある斧を取り出した。
「ツララで試してみよう。やあっ!!」
大剣でつららを斬ってみた。
すぱっ、ことん
切り口の面はきれいに平らになった。
「私も…せい!せい!ほいさ!」
メロンは斧を横に右に左に振った。
ことことことん
斬ったツララは割れることなくばらばらに。やっぱり切り口は平ら。
「凄いこれ…」
うっとりしながら、斧を眺めているメロン。ちょっと怖い。
「…もう、そっちいっていい?」
ミイナだった。すっかり忘れていた。
「あ、大丈夫だよ。腐った死体じゃなかったから」
「え…」
大丈夫という言葉を聞いてから、腐った死体とか言われて、こっちに来ようとしたミイナが立ち止まる。
「メロン…」
肘でメロンを突っついて警告する。
「しまった…。大丈夫、おいで」
メロンはミイナのほうに向かって歩いて、ミイナもやってきた。
「…」
ミイナがじーっとメロンの斧を見ている。
「ミイナもほしい」
「はい?これ?」
「うん」
困るメロン。こんな切れ味の武器は危ない。あ。
「杖なら大丈夫じゃない?」
「あ、そうか」
がさごそと杖を探すメロン。
「…どう?」
ミイナに杖を持たせてみた。杖が長すぎる。それに、ひどく不満そうだ。
「刃物はやめときなって」
メロンが諭す。
「…ん」
不満そうなミイナ。
「メロン。これは?」
宝箱の中にはペンダントも入っていた。
「ど?」
メロンがミイナの首にかけてみる。ペンダントもけっこう大きいけど似合ってるかも。
「うん!これがいい」
とてもうれしそう。
「さて…他に見るものもないみたいだし…帰ろっか?」
「そうだね」
メロンに同意して帰ることにする。来た道を戻って最初に滑り落ちた場所へ。
「浅いし…登れるね」
僕が最初に登って、ミイナをメロンが押し上げて、最後にメロンが登って終わり。
「…」
帰り道、ミイナはペンダントを光に当てて反射を楽しんだり、顔に近づけてじっとみたり、遠ざけて眺めたり、ペンダントから手を離してポーズをとってみたり。お気に入りらしい。
僕も自分の剣を眺めてみる。僕の顔が薄く写っていて、薄く向こう側の景色も見える。透きとおっていてきれいだ。
「あ、隣村見えるね…一応寄ってく?」
「無駄でしょ。やめとこ」
メロンに却下されたので、そのまま進む。
「やれやれ…2日続けて大冒険だった。戦利品もあるけど」
メロンはそう言いながら斧を眺めて満足げ。
「いくらで売れるかな、これ」
そして、こっちを見てくる。
「…売るの?」
「持っててもしょうがないでしょ?本の中の怪物と戦えるわけじゃないし」
「まあ、それはそうだけど…」
僕は取っておこう。
「ふう…ようやくついた」
ほっとする。村に着いた。
「よう…。な、何持ってんだよ…」
また父さんだ。物騒な物を持ってる僕達に驚いている。
「村に行く途中の洞窟で見つけました」
『どうだ』といわんばかりのメロン。
「洞窟?そんなものがあったのか?」
驚く父さん。
「はい…足をすべらせて…云々」
メロンがいろいろ説明。
「はあ…。で?肝心のミイナちゃんの親御さんには会えた?」
「いいえ…。まあ、当分私の家に居させてもらえそうだし」
村に行ってない。行ってもいないことは分かっている。
「そうか…。ま、そのうち話してくれるだろうしな。あ、明日は村長のところ行くんだぞ?」
「はいはい」
父さんは魚を持って去っていった。
「まーた明日から勉強か、面倒だ」
さっそく愚痴を言うメロン。
「日も暮れてきたし、帰ろうか」
僕も日常に戻るのが寂しい。
「そうだね、結構楽しかったよレオ。じゃ。行こ、ミイナ」
「うん」
「さよなら、メロン、ミイナ」
解散した。