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逃走

 次の日の朝。

「メロンー」

「……まだ暗いって」

「みんな出発しそうだよ」

「…まったく…みんな寝なさ過ぎだって、まったく…足は速いしご飯はほとんど食べないし、まったく…街には入んないしどうしてベットで寝たいって思わないんだろ…」

 ぶつぶつ文句を言うメロン。僕も文句を誰に言ったらいいか分からないから言わないけど、どこかに八つ当たりしたいくらい。

「行くぞ、2人とも…」

 パープルさんも眠そうだ。

「はい」

「うぇーい…」

 ぞろぞろと歩き出した集団について行く。

「雪がなくて、歩きやすくていいね」

「暖かいね。この辺に村を建てればよかったのに…。掟がどうとか…全く」

 まだまだ文句を言うメロン。

「本によると、そろそろ悪魔に人が喰われる場所らしい…」

「パープルさん…」

(さらっと怖いこと言わないで)

「大丈夫だって」

 きりっとした顔をするパープルさん。


キュルルルル…

「何の音?」

「レオ、聞いたことない?この音」

「ある…かも」

「私もある」

 3人で変な笑顔になる。

キュルルルル…キュルルルルル…キュルルルル

「いっぱいいる…?」

「いるのかも…」

 息がうまくできなくなってきた。

「2人とも、上を見ろ…。落ち着いて…」

「なんとなくさ…想像は出来てるんだけどね?」

 自分でも変な声だと思う。

「私も…」

 なぜかメロンと視線を合わせてから、ゆっくりと上を見上げる。赤い目の化け物の数を、

「1、2、3…うえ!!ええええええ!!!」

 数えていたメロンが痙攣するようにガタガタ震えて叫んだ。

「ひえ、えええええ…」

 叫ぼうと思ったのに喉が詰まったように、声が出なかった。

「…みんな!!逃げろおおおおお!!」

 パープルさんが村のみんなに向かって叫んだが、やっぱり反応が無く、みんなふらふら歩いていくだけ。

キュルルルル!!

 空を舞っていた赤い目の化け物が降下してきて、一人をつかんで飛び上がった。それを見て次々と化け物が降りてきてつかんではどこかに飛んでいった。それでも、みんなふらふら前に進んでいくだけ。

「逃げてえええ!!逃げろ…って!!」

 パープルさんも意味は無いと分かっているんだろう。徐々に声を詰まらせていく。

「…」

 叫ぶのを止めた。

「あ゛ああああああ!!!」

 そして、短刀を2本構えて化け物に向かって行き、次々降下してくる化け物に斬りかかる。ほとんど剣は空を斬っているばかりだった。

「…あうあう…あう」

 一方の僕とメロンは震えながら地べたに座り込んでいるだけだった。そして、

「メロン僕…ごめん。パープルさん!!ごめんなさい!!村のみんなも、ごめんなさいいい!!」

 僕は全力で走り出してしまった。

「れ、れお?」

 後ろからメロンの声、パープルさんの叫ぶ声、化け物の鳴き声が聞こえてきた。走って走って、走って、息を吐いて吸うことを忘れて咳き込んでまた苦しくなって、地面をとらえられなくて靴が滑って、情けなくて涙が出てきて。

「うっあ!!!」

 足がからまって転んで、地面がくぼんだ場所に向かって転がって、止まった。

「う、う!!!」

 周りに化け物がいないかどうかを見渡して、また倒れこんで、

「う、わあああああああ!!」

 泣いた。

(逃げた。僕は逃げた…。メロンも、父さんも、パープルさんも村のみんなもみんな置いて。嫌だ…)

 起き上がった。

(嫌だ…行きたくない!!戻りたくない!!戻ったって何もできないんだから!!僕が戻ってパープルさんの足手まといになって、それに、それに…)

 座り込んで、縮こまって、泣いているだけ。

「レオー!!」

「ひい!!メ、メロン!?」

 メロンが坂を下ってきた。

「……あの、逃げて、ごめん…」

 メロンの顔を見れなかった。走りすぎたのか吐き気がしてきた。

「…私も、逃げてきた…。私だけ…」

 メロンも泣いていた。

「…」

「…」


 2人とも何も話さずに黙って座って、ただ小さな物音にビクビクしているだけだった。

 日が暮れ始め、夕日がさしてきた。

「ここにいたのか…」

「きゃああ!!」

「うわあああ!!」

 坂の上にはパープルさんがいた。

「そんな、化け物を見る目をするな…」

「…」

「…」

 僕もメロンも顔を上げなかった。

「…無事でよかった…」

 パープルさんは坂を下りてきて、僕とメロンをそっと抱きしめた。あちこち傷だらけだった。

「ごめん…なさい、逃げて」

「私も…」

「化け物…悪魔は去って行ったよ…。…2人が無事でいてくれて、よかったよ…十分だ、それで…。…村の人たちは…何人かは連れ去られてしまった…。でも、まだほとんどは無事だ…塔に向かって行ってしまったが…」

 パープルさんは笑顔を作ってくれた。

「あの…」

 メロンが泣きそうになりながら言いかけたとき、

「すまない…誰が連れ去られたかまでは…でも、見た中にはいなかった、きっと大丈夫だ…!レオの父さんも…」

 遮った。

「…」

「…」

 とりあえず僕もメロンも黙った。

「…動けるか?見失う前に追おう…」

「はい」

「大丈夫」

 メロンも涙を拭いて、パープルさんが先頭で歩き出す。

「?向こうじゃないですか?」

 来た道と違うような気がした。

「…見ないほうがいい…」

 大きく遠回りして村の人たちを追った。

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