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ミミルとトリング1

ドンドンドン!!

 ドアを激しく叩く音で眼が覚めた。

「誰だ?」

「ミミル!!すぐ来てくれ!!」

 ギーデットの声だった。あわてて着替えて外に出る。

「なんだよ?」

「誰もいないんだ…。目が覚めて、父さんも母さんも妹もいなかった、外に出たら誰もいなかったんだ…」

「聖女が…ここにも来たのか?」

 外に出て、周囲を見渡し、耳を澄ます。

「…ハハ!誰もいない!!ハハハハハ!!本当だ!本当だった!!」

 誰もいない、誰の声も聞こえない!

「ミミル!何を喜んでいるんだよ!?こんな、こんなんになってる…んだぞ!?」

「俺たちだけだ。俺たちだけが真実を知ってる!俺たちが中心なんだ!」

「…」

 ギーデットは呆れるというのを通り越して何か悲しいものを見ているような目だ。

(…落ち着こう。まずは…)

「行こう。この事態を打開するのが真実を知っている俺たちの役目なんだ」

 落ち着いて話した。

「…ああ」

 ギーデットも目が元に戻り、

「で、どうするんだ?」

 と不安そうに聞いてきた。

「…聖女を探すか、塔に向かうか…。連れ去られた人を助けないとな。まだこの街にペンダントを持った人がいるかもしれない、探してみよう」

 街を歩き回ることにする。

「…どうして俺とミミルだけ残ったんだ?」

「さあ…」

 自分の足音が大きく聞こえて、鳥のさえずりでも驚く。チャイムにびくびくしていた小さいころの留守番みたいだ。


「ミミル…なんか音がしたぞ?」

 さっきからびくびくしているギーデットがこそこそと耳打ちしてきた。

「建物がきしんだりする音だろ…」

こつこつこつ…

「聞こえるな…」

 発言を訂正し、ギーデットと同じようにびくびくとゆっくりと音のする方向に向かう。

こつこつ……

 人が歩いていた。

「誰だ?人がいるのか?」

 歩いている人は突然こちらを向き、俺もギーデットも驚いて体を震わせた。

「…あ、ああ…。まだ人が残っていたんだな…。俺はミミル。こっちはギーデット」

 声も若干震えていることが自分でも分かった。

「…トリングだ。…お前たち…なぜここに残っている?」

 髪に白髪の混じった、初老の男性だった。

「…分かりません…あなたは、どうして?」

「光を浴びたせいだ…。小さいころ親に連れて行かれた変な占い師に呪いをかけられた。だから聖女様に見放されたんだ!」

 トリングは地面を足で強く叩いた。

(仲間になりそうにないな…)

「これからどうするんだ?」

 トリングの問いに正直に答えてよいのかどうか、ギーデットと顔を見合わせた。

「…好きなように暮らして、どうしようもなくなったらそのまま終わりますか…」

 明るく、あっさりと、諦めたように。

「確かに、それが似合っているのかもな…。今から街の人たちを追って、それに混じろうと思っていたが…確かに、見捨てられた我々を受け入れてくれるとは思えないものな…」

(本のことを知っている俺たちから見れば、何を言っているんだと言いたいところなんだがなあ…)

「じゃあ、僕達と一緒に行きませんか?聖女…様を探しているんです」

(あ?何を言ってるんだギーデット…できれば、さっさと別れたいんだが)

「いや、遠慮しよう…」

(ほっ)

「あの人が浴びた光って俺たちが薬の工場で見た光じゃないか?」

 トリングが去ってからギーデットが聞いてきた。

「だろうな…さて、早いところ聖女サマを探すか」

「ああ…」

 人気の無い街をうろうろする。

「ん?」

 ギーデットが立ち止まる。

「どうした?」

「あ、いや、自分の足音だったみたいだ」

「…はっ」

 こういう感じで、音に注意して辺りを探した。

「?誰かいるぞ…」

 2人で建物の影に隠れて、音のするほうを見る。かごに入ったりんごをたくさん抱えてトテトテと小さな女の子が歩いている。その子が向かった先には紫の髪のツインテールの若い女性と、12から15歳くらいの金髪のショートヘアの女の子と同じくらいの歳で濃い茶髪の男の子がいた。

「聖『女』っていうくらいだから女性だよな…。紫の人か?」

 ギーデットは緊張しているらしく、声が上ずっていた。

「分からないな…。話し合って塔まで来てくれればいいんだが…もしだめだったらペンダントだけでも盗んでそれから街の人たちを止める。…ん」

 りんごを抱えていた女の子がかごをツインテールに渡す。女の子が首から提げていたペンダントが見えた。

「ミミル…あれってさ」

 本を取り出して確認する。ペンダントのよく分からない理論が書かれているページを見る。そこにはペンダントのスケッチが描いてある。

「間違いない、あれだ…」

 4人は宿屋の建物に入って行った。

「行くか」

「ミミル?どうするんだよ?」

 ギーデットはあわて始めた。

「正直に話してみる」

 建物の影から出て行こうとする

コツコツコツ…

「ミミル…あれ、トリングさんじゃないか?」

 後ろを振り向くと、トリングが近づいてきていた。

「…こっちに気づいて近づいてるな」

コツコツコツ…

「…何をしているんだ?」

 トリングはこちらを不振に思っているようだった。

「いえ…人の気配がしたので、話しかけても大丈夫かどうか考えていたんです」

(自分で言っておいてなんだけど、苦しい言い訳だな)

「俺たち…」

 ギーデットが口を開きかける。嫌な予感がした。

「ペンダントを作った人が書いた本を読んだんで」

「ギーデット!!」

 止めるのが遅すぎた。そして、止めても全く効果が無かった。

「ペンダントを持った人について行っても、塔は周囲のものを焼き払うだけのもの。救済なんて嘘なんですよ!ついて行ったら焼け死んでしまいますよ!」

 ギーデットは熱弁する。

(嫌な予感が当たった…このトリングが冗談だと思ってくれればいいが…)

「…何を言ってるんだ?」

 トリングは目を細めて俺とギーデットを交互に見る。

「こいついきなりこんな状況になって混乱してるんですよ」

(俺はもっといい言い訳できないのか…)

 それでも、なるべく明るく。

「俺たちと一緒に行きましょう。聖女を見つけて、塔を壊して、街の人を助けましょう!」

 ギーデットは一生懸命だ。

(伝わる人間じゃないって分からないのか。いや、伝わらないくらいならまだいい…)

「そうか…お前たちは」

 トリングの目が変わった。

(こいつはキチョウな信者だったか)

「お前たちは、救済を邪魔するのか!!」

 トリングの搾り出すような声。

「え、で、ですから救済ではなく」

 まだギーデットはのんきに説明を続けようとしている。

「だまれ!!」

「…」

 トリングに怒鳴られてようやくギーデットも黙った。

「そうか、これが俺が残された意味だ。お前たちから聖女様を守ることが俺の役目だった!」

 トリングは自分に酔っている。

(やっかいなやつだ。話を聞いてくれそうもないし)

「僕達はみんなを助けようと…」

 ギーデットは説明しようとする。それに対してトリングは、

「今なら許そう!街の者達と共に塔に行くことを誓うなら!」

 と、さらに調子に乗った。

(この英雄気取りの酔っ払いが…。でも、ギーデットは助けようとするし…。なんとか時間をとらないと)

「俺たちも信じることがあってここに来た。だから…気持ちの整理がつくまで待ってくれないか。一晩だけでいい…。夜が明けたら、塔に向かう」

「……いいだろう。だが、次に聖女様に近づいたなら、容赦はしない!」

 こちらをにらみつけるトリングから離れる。


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