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完璧超人のお義兄ちゃんと、ごく普通の女子高生な私

作者: 久遠れん

 私は義兄のことがあんまり好きじゃない。


 五歳の時に母親が再婚した。

 再婚相手の父親が連れてきたのが義兄で、私より三歳年上の義兄は、なんでもできるスーパー超人だった。


 比べられるのは必然で、いつも私は義兄と比べられている。

 勉強も、部活も、お手伝いさえ。最悪なのは外見まで言及されたこと!


『お義兄ちゃんはあんなに優秀なのに』


 そういってため息を吐く母親が大嫌いだ。

 血なんて欠片も繋がっていないんだから、似てないのは当然で、比べられる理由もないのに。

 顔が似てるはずもないし、イケメンの義兄の義妹が普通で何が悪いのだ。


 家族や友人に散々比較されてきたから、私が義兄を苦手に感じるのは当然だと思う。

 義兄のほうは、なぜか私のことが大好きらしいけど!


「一華~! お義兄ちゃんとご飯を食べよう!」

「やだ」

「どうして?!」


 今日は両親が結婚記念日で二人っきりでご飯を食べに行っている。

 高校生の私と、大学生の兄なら、自分で食事くらいなんとかできるだろうといわれたのだ。


 でも、私は料理が得意じゃない。適当にカップ麺で済ませるつもりだった。

 リビングでスマホを弄りながらごろごろしていたところに、ルンルンで声をかけてきた義兄の誘いを断る。


 一人で食べてほしい。

 両親がいるときはさすがに避けないけど、二人きりでご飯は嫌だ。


「一華~! 一華の食べたいもの作るから!」

「……フランス料理フルコース」


 両親が食べに行ったフレンチにはちょっとだけ興味がある。

 それに、無茶ぶりをしてしまえば、義兄だって大人しく引っ込むだろうと思った。


 でも、私の義兄はこの程度でめげる人ではないことを忘れていた。


「よーし! お義兄ちゃん頑張るぞ!」

「……マジでいってる……?」


 料理が得意なのは知っているけれど、本気でフランス料理フルコースを作るつもりなのだろうか。

 さすがにスマホから視線を上げた私の前で、キッチンの冷蔵庫を開けた義兄が唸っている。


「材料が足りないな……買ってくるな!」

「ええー……」


 本気で作るつもりらしい。

 どうしよう、なんでもそつなくこなす義兄ならさらりとフランス料理フルコースも作ってしまいそうで怖い。


 数時間後、疑念は当たってしまった。


「さあ! 召し上がれ!!」

「まさかすぎる」


 小さくはないリビングのテーブルにずらりと並ぶ、豪華なご飯。

 フランス料理に詳しくない私にだってわかる、フレンチの数々。


 多分、前菜から始まって、スープに魚料理、肉料理、サラダやチーズ、なぜかお菓子やアイスも並んでいる。


「食べる順番は気にしなくていいから、好きに食べてくれ!」

「どうしてアイスがあるの?」

「シャーベットは口直し用だな」


 なるほど、そういうものなのか。一つ賢くなった気持ちで私はリビングの席に着いた。


「フルコースの料理、作れたんだね」

「作れてしまうな!」


 ドン、と胸を張った義兄に、ちょっとだけ笑ってしまう。なんだかんだ、憎めない人なので。






「一華は大学はどこに行くんだ?」


 食後にまったりとくつろいでいると、唐突に義兄に進路を聞かれた。

 大学受験に向けた勉強を頑張らねばならい時期だけど、リビングでのんびりしていたからかもしれない。


「どこでもいいじゃん。お義兄ちゃんも近所だし」

「家から通える場所にしたからな」


 なんでもないことのように言うけれど、ずば抜けて頭がよかった義兄が近所の大学に行ったことに父は不満そうだった。

 そのせいか、私には偏差値の高い大学に行くように勧めてくる。


 義兄と違って普通の頭脳しか持たない私には、中々ハードルの高い大学ばかり勧められて、正直辟易としている。


「勉強教えてやろうか?」

「東大のA判定とってから言って」


 勉強を教えてもらうはちょっと癪なので、無理難題を突き付ける。

 いくら頭のいい兄でも、東大のA判定なんはさすがに無理だろう。


 私の言葉に、義兄は静かにリビングを出て行った。ちょっと言い過ぎたかな? と思っていると、しばらくしてリビングに戻ってきた義兄は、一枚の紙を私に渡した。


「なにこれ」

「東大のA判定のときのやつ」

「えっ」


 思わず声が出る。慌てて模試の結果に目を通すと、頭がくらくらした。


「どうして東大行かなかったの?!」

「家にいたかったから」

「……A判定とれたのに?」

「とれてしまったな!」


 またもやどやる義兄に、この義兄、実はちょっと馬鹿なんじゃないかと思った。






 これまた別の日。


 学校が祝日で休みで、私はリビングの定位置でゲームをしていた。

 母親はママ友とランチで、父親は普通に仕事。


 料理がとてつもなく上手いことが判明した義兄が作ってくれたお昼を食べて、のんびりと過ごしていた。


「なぁなぁ、一華。お義兄ちゃんと遊ぼう!」

「えー、だる」


 高校生と大学生の義兄妹で何をして遊ぶというのだ。

 眉を潜めた私の前で、義兄はなぜか目をキラキラとさせている。


 あ、これ引かないやつだ。短くない義兄妹生活で知っている。


「んー……じゃあ、女装して」

「女装?」

「うん。できたら教えて~」


 適当なことをいって放置。それが最適解だ。


 私の言葉に難しい顔で考え込んでいる義兄から視線を知らし、手元のゲーム機でレベル上げに勤しむ。

 ぴろぴろーん、と間の抜けた音がしてレベルアップを知らせてくる。現実でもこんな風にレベル上げができればいいのになぁ。


「……?」


 しばらく集中していて、ふと顔を上げると義兄の姿がなかった。

 無茶ぶりだったから、部屋に引っ込んだのだろう。

 そう判断して、再びレベル上げ作業に戻ろうとした私に、ソファの後ろから声がかけられる。


「一華! お義姉ちゃんよ!」

「なにをいって……?!」


 明らかな裏声で話しかけられ、胡乱な眼差しで振り返ると、そこには長い黒髪の爆美女がいた。

 胸元は寂しいけれど、すらりとしたスタイルと、今どきのメイクが映える綺麗な女の人。


「お、おにい、ちゃん……?」

「ええ! 碧子よ!」


 義兄の名前が碧人なので、そこからとったらしい。

 別人に見間違えるほどの変貌ぶり。というか、プライドとかないのだろうか。


「……女装までできるの?」

「似合ってしまうな!」


 これまたドン! と胸をはった義兄に、私は頭を抱えるのだった。

 お願いだから、私のせいで女装趣味に目覚める、なんてことにはならないでほしい。






「ねえ、お義兄ちゃん、できないことないの?」

「あるぞ」

「なに?」


 好奇心が顔をのぞかせる。

 女装したまま私とパーティーゲームに興じていた義兄が、ぱっと笑顔を作った。う、イケメンの笑顔、心臓に悪い……!


「一華の心を射止めることだ!」

「は、はぁ?」


 はぐらかされた。

 そう判断して、ぷうと頬を膨らませた私に、なぜか義兄は楽しそうに笑っていた。





読んでいただき、ありがとうございます!


『完璧超人のお義兄ちゃんと、ごく普通の女子高生な私』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?


面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも


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