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#3-B ファーストコンタクト

 あれからまた数日が過ぎた。学校はもう冬休みを迎えた。


 あたしはというと、アウトドアな趣味がなく、さらに冬の冷気はあたしを外に出すまいと猛威を振るっている。


 家にこもって、やることといったら……。


「うーん……」


 コタツに入り込んで、スマホを眺めていた。SNSは見ていれば無限に時間が溶けていく。要するに、やることがない。




「ヒナ、食って寝てると太るぞ」

「わーかってるって」


 姉貴はゴロゴロしているあたしを注意してくる。わかってるよそんなの!


「あーだる……」

「だらしなさ過ぎ。学校の成績とかどうなの」

「うるさい……」


 正直あまり良くなかった。高校の洗礼を受けてる。


「苦労するぞ」


 姉貴はそれだけ言って、自分の部屋へと向かっていった。




 姉貴の通う大学は偏差値の高い有名な学校だ。もともと姉貴は頭がいいのだ。家族としてすぐ近くにいるのだ、よく周りの人はあたしと比較してくる。


 ため息をひとつ吐いたあたしはどうにかコタツを抜け出して、自室に向かうことにした。ともかくこのコタツという魔の領域を抜けないと何も出来ない気がしたからだ。




 自室に行ったところで、散らかった部屋が待っているだけだ。机の上にあるのは、ホコリの被っていない型落ちのノートパソコンだ。机のど真ん中にあるのだ、目が行かない方が難しい。


 勉強、勉強。学生の本分だもの、それが正しいとは思っている。ただ、姉貴の正論パンチの毒に抗おうとする自分がいた。なんか嫌だ。姉貴に従順に従うということが嫌であった。これがいわゆる反抗期? ふむふむ……。




 じゃあ代わりに何をするんだよ、と思った時にはノートパソコンはすでに開かれていた。絶好の逃げ口があるじゃないか。正直不純な動機とは思うけど、興が乗った。あたしは今きっと悪い顔をしているだろう。




 と、その時スマホが不自然なバイブレーションを起こした。なんだ? あたしはSNSでバズったり、反応されるような投稿はしていないぞ? そもそも見るのが99%で投稿はろくにしない。


 いちおう、と開いてみると、そこにあった通知に私は目眩(めまい)を起こしかけた。



『あなたが手紙を出した作家です』



 そんなDMが来たという通知だった。


「はぁ?」


 思わず声が出た。いや、いやいやいや! 怖いって!! 冬の怪談とかあんまり聞いたことないし!?

 待って待って! まずは……。


「すぅ、はぁ、すぅーっ……」


 深呼吸だ、深呼吸して気持ちを落ち着かせろあたし。そもそも、ただの悪戯(いたずら)DMかもしれないじゃないか。それでもあたしの精神を(えぐ)ってくるような文面だったのは確かだけど……。


 おそるおそる、通知の詳細を確認する。あたしのアカウント「スワワン」はフォロワー数2桁の弱小アカウントだ。バズろうと思ったこともないので数を気にしたことはない。


 そんな弱小アカウントに絡むようなスパマーも少なく、DMというものが飛んできたのは企業アカウントのプレゼント企画の結果くらいしかない。




 そんな塵のようなアカウントにわざわざ『あなたが手紙を出した作家です』なんてDMを飛ばしてくるって何!? そんなこと誰にも話してないし、スパムにしてはピンポイント過ぎて……ピンポイント過ぎて……?




「え、嘘……?」


 頭の中で全てのピースが繋がった。じゃああたしの手紙のことを知ってるのは、出した相手だけじゃないか!


 まさか……このDMの相手は、まさか、本物の鳳ユキ……?


「……」


 信じることは出来ない。あたしはカマをかけることにした。


『もしかして、ミコトアオサギ先生ですか?』


 ミコトアオサギというのは実際にいる作家の名前だ。もっともあたしはファンでもないけど。


『違います。私はかつて「鳳ユキ」と呼ばれていたものです』




「……あー」


 これは、本物のような気がする。見た感じ、相手は捨て垢のような新規ユーザーだけど。なにかもう少し確かめる手段がないだろうか、と思い色々考えていると、相手の次の一手でついに王手をかけられた。


「……んー」


 相手が送信してきた1枚の画像ファイルには、確かに私の出したシンプルな封筒・便箋で構成されたファンレターが写っていた。中の文章は潰れて見えないけどほぼほぼ本物のような気がする。もう私が取れる手はない。


「どうすりゃいいんだよ、これ」


 本当に鳳ユキだとして、その意図はなんだろう。怒ってるのか? あたしのあの文章、今振り返ってもたぶん普通のファンレターより毒多めだと自覚はしている。それに怒って(とつ)をしてきたのか? ……怖い、鳳ユキってこんなストーカー気質だったの?


「……大人しく、ブロックするか……?」


 ブロックするのは簡単だし、そうすればすぐにこの相手はあたしに連絡できなくなる。




 落ち着け、落ち着け……。




 DM右上のボタンに指を伸ばす。ふと、この前自分が消そうとしたお話のことを思い出す。あのときはだいぶ焦っていた。今も焦っているけれどあの時ほどじゃない。


『小説を書いているって本当ですか?』


 DMの続きが目に入った。私の指は止まった。


「……」


 もしこの相手が鳳ユキなら、あたしの欲しい答えは出せるのでは? 相手はプロの小説家だ。


「……」


 あたしはスマホを一旦手元に置き、目を瞑り、一刻考える。……。




 何がなんだかわからない。一体どうして、こんなことになっている? どうしてあたしはあの鳳ユキ(かもしれない人物)に絡まれている? あたしが何をしたんだ? こんなこと、宝くじに当たるよりあり得ない話じゃないか?


 考えたって、ロクな答えをあたしの脳みそは導き出すことは出来ない。全てが非現実的でまともな思考が出来ない。ふと自分の手が震えていることに気づく。もちろん寒さによるものではない。


「……。どうしようマジで」


 有名人を(かた)るスパムの線はないとは言わないが、たぶん違う。あたしは……あたしは、どうすればいいんだ?


「……不審者、ネットの知らない人に、ついていってはいけない……」


 でも、会うわけじゃない。これはネット上の、それも他人には見えていない二人だけのやりとり。


「……」


 おそるおそる鳳ユキを騙るアカウントに返事をしたのは、それから20分後の事だった。

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