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#7-B(2/3) 姉貴との一日

 あたしが地図アプリで案内しながら行った先。そこは……。


「へぇ……アニメショップか!」

「うん。あたしも、全然来たことないけど」

「車で20分はちょっと遠いな」


 そこそこ離れた場所にあるアニメショップだ。アニメショップと言っても、最近は人気ゲームのグッズも取り扱っている。ちなみに電車を使って行こうとすると、どうも遠回りになるらしく40分くらいかかってしまう。アニメショップにあたしは興味はあるけど、その周囲の店舗に用はないので、面倒臭さが勝り自然と来る回数も減る。


「私こういう所来たことないけど、私みたいなニワカが入ってもいいのか?」

「いいと思う」


 姉貴が果たして『ニワカ』なのかはちょっと疑わしいけど。




 土日のアニメショップはやっぱり『濃い』客層に溢れている。姉貴の危惧(きぐ)していたことの意味も分かる。まああたしたちみたいに見た感じ普通っぽい人も半分くらいいるからまだ大丈夫。


「えーと、コスプレ衣装のコーナーは……」


 やばい、ちょっとコーナーの配置が変わってる。人も多いし目当てのコーナーになかなか行きつかない。


「うわー……」

 こういう時ばかり、余計なところを通ってしまう。忙しいのか店員さんも近くにいない。

「ヒナ、こっちっぽいぞ」

 姉貴が天井からぶら下がってるボードを示す。そこには店内の地図が書いてある。ご丁寧に「コスプレコーナー」という名前が見えた。どうやら今の場所からちょっと奥まった所にあるみたいだ。



 人混みをかき分けると、少し空いたエリアに出た。コスプレ衣装っていうのは流石にコアなアイテムなのだろう、客も目に見えて少ない。


「おおー……こんなところが」


 感銘を受けたかのように、姉貴は目を輝かせている。


「うーむ、こんな奴かな……」

「姉貴、こっちこっち」


 あたしが見つけたのは「ミーシャ向け」という文言のポップがついたウィッグだ。あたし的には十分ミーシャの髪色に見えるけれど、姉貴からしたらどうだろう。


「これか? うーん……?」


 姉貴は眉間にしわを寄せて、唸りだした。


「あれ? あんまりお気に召さない?」

「なんか……明るすぎない?」


 姉貴が指摘したのは、二次元キャラ特有の鮮やか過ぎる髪色の事だろう。ミーシャの髪色は金髪。確かに金髪なんだけど……。どっちかって言うと「黄色」みたいな色のウイッグだった。そこをそのまま採用する人もいるとは思うけれど、姉貴はどうもそうじゃないみたいだ。


「もうちょっと自然な色合いにしたいな」

「ってなると……」


 辺りを探す。どうにもそれっぽいのは見当たらない。派手な二次元チックな色のウィッグばかりだった。


「うーん、残念ながら不採用」

「あらー……」


 残念だ。車で20分かけて来たというのに……。




 その後、アニメショップの中を見て回って、姉貴の推しキャラのグッズ(缶バッジ)、そしてあたしの購入し忘れていた漫画の最新巻を買って店を出た。


「なんかゴメン、こんな遠くまで案内したのに」

「ヒナのせいじゃねえって、むしろ感謝してるよ」


 まあそう言ってくれるのなら、嬉しいけど。


「髪は……そうだな」


 姉貴が自分の真っ黒なロングヘアーを手に取る。


「染めてもいいか」

「え!?」


 待て待て! ミーシャはショートヘアーだったけど!?


「姉貴……髪、切っちゃうの?」

「うーん、別に拘りがあって伸ばしてた訳じゃないし」


 そうだったの……!? 綺麗な髪だったっからじっくりお手入れしてるものだとばかり思ってたけど……。


「問題は親だな。私がそんなことしたらだいぶ動揺すんじゃねえかな」

「うん、間違いなく……」


 突然娘が髪でオシャレしてきたら、何かあったのかと疑うと思う。失恋とか。


「そういうこって、あんたは唯一、こういう相談できる相手ってことで。私が不良みたいな髪になっても、温かく見守ってくれよな」

「はいはい」


 姉貴のことだ。ヤンキーみたいな汚い見た目にはしないだろう。全力で金髪を整えた姉貴、ちょっと楽しみだな。


「どっか飯食って帰ろう。私がおごってやるから」

「本当? じゃあ……」


 目に入るラーメンののぼり。もうお昼、急に空腹感が来たところにそののぼりはクリティカルヒットだ。


「がっつり食べたいな」

「いいよ」


 姉貴もラーメンの匂いに空腹を誘われたか、反対しなかった。



 少し狭いお店のなかの座敷に座る。店内は何て言うか……。


「味があるな。こういう店が旨いってよく言うよな」

「そうね~」


 さすが姉貴、あたしとシンクロしてる。




 初めての店なので特に冒険するでもなく、美味しそうなとんこつラーメンあたしは頼む。姉貴は醤油だ。そこにチャーハンを頼んで二人で食べることにした。


「いただきます」


 太麺をすすると、まろやかなとんこつ味が口のなかに広がる。


「おいしい!」

「うん、なかなかいい!」


 姉貴も気に入ったみたいだ。互いの麺も一口ずつ交換して食べる。あたしはとんこつが好きだな。




 瞬く間に二人完食してしまう。なんかごちそうを食べた気分だ。


「ごちそうさま」

「あー旨かった。父さんたち、こういうところに連れてってくれないからな」


 うん。うちの両親はあんまりこういう(おもむき)ある店を外食に選ばない。チェーン店とか、ファミレスが多い。不満があったわけじゃないけれど、こういう個人のお店っていうのも、ちょっといいな。


 会計を姉貴が済ませて、車に乗る。昼を過ぎて、そろそろ帰ろうっていうムードだと思ってたところ、


「ちょっとドライブして帰ろうか、ヒナ」

「え? ああ、いいけど……」


 まだ姉貴はドライブし足りないみたい。姉貴そんな車好きだったっけ? どんどんあたしの中の姉貴像にデータが加わっていく。

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