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少女騎士と救国の盗賊  作者: 川霧莉帆
四話 記憶を入れる壺
11/22

11:縁結びの村へ

 翌日、三人は朝食を共にした。丸テーブルには熱いスープの他に果物や木の実などの自然の恵みが並ぶ。


「次の依頼を決めたぞ。『追憶の壺』を取り戻して参れ」

「追憶の壺? 魔法道具か?」


 ゼファは頷いた。


「記憶を見ることができる、と言われておる壺じゃ。実際のところは分からぬ。なにせ誰も触れられぬようにガラスの箱に封じ込められておったからのう」

「なんでそこまでしてたんだ?」

「だって怖いじゃろ。記憶が見えたら」


 クルスは老人に半眼を向けた。

 イブは考えながら言う。


「記憶が見えたら、見えないほうがいいことも明らかになってしまう。もちろん悪事を暴いたり犯罪を未然に防げたりできたら便利だけど、秘密を持てないことは人の心には辛いことかもしれない」

「そういうことじゃの。だがラウニカ城が崩れた時に壺は落ち、盗まれてしもうたのじゃ」

「手に入れた人が濫用していたらと思うと、ぞっとしませんね」


 その意見にゼファは同意を示す。


「うむ。だが、取り戻してほしい一番の理由は、おぬしに使ってみてほしいからじゃよ、イブ殿」

「え?」

「我儘を言うが、せっかく出会えたおぬしの母のことをもっと知りたいのじゃ。考えてみてくれんかの?」


 意外な話だったがイブは悩まなかった。


「その壺があれば僕も母をもっと知ることができるし……。ええ、使いましょう」

「うむ! ありがとう」


 親しげに微笑み合う二人をクルスは密かに見比べていた。


「で、どの辺りにあるんだ?」

「それがな、ちょいと難しいのじゃよ」


 不思議な会話をすると、ゼファは部屋の隅から分厚いクッションと一緒に大きな深皿を持ってきた。そこへ水差しの水を注いで水面を覗き込む。


「もしかして魔法を使うのですか?」

「じいさんは千里眼の魔法で宝の大体のありかを探し出せるんだ。あの水晶がカドレにあることもそれで知れたわけだ」

「今回はそう上手くはいかんのじゃよなぁ」


 波紋がなくなり水鏡となった水面へゼファが魔法力を使うと、霧がかかったように白く濁った。イブはそれ以上は何も見えなかったが、ゼファは目を凝らしている。


「やはり霞んでおる。ロノンより東の渓谷だと思うんじゃが、ロノンの賢者様方の神聖力が眩しいことを差し引いても、何やら大きな魔力に阻まれてそれ以上は目が近づけぬ」


 魔法の水鏡を切り上げて目頭を押さえた。

 クルスが地図を取り出してテーブルに広げる。


「聖都ロノンの周辺なんて何も無いって話だぜ。もっと手がかりはないのかよ?」

「そうじゃなあ。これほど大きな魔力は誰かのものに違いない。つまりその何者かを目指せば壺も見つかるのではないかな」

「もし魔力の持ち主が友好的ではない魔物だったら、僕達の手には負えないかもしれませんが……」

「その時は潔く諦めることじゃ。怪我をしてこの老いぼれを心配させるでないぞ」


 イブとクルスは頷き、顔を見合わせた。


「行くか」

「うん」

「気を付けてな」


 ゼファの目が柔和に細められた。



 二人はラウニカを後にした。寂れた街道を歩く。


「じいさんとすっかり仲良くなったな」

「うん。秘密の話で盛り上がったからね」

「……なーんかオレに関係してる気がするんだよなぁ」


 昨夜の会話を思い出したイブは目を細めて微笑む。

 クルスは数歩後に声を上げた。


「ああ、今分かった。おまえとじいさんが似てるって思うワケ。たまに笑い方が似てるんだ」

「そう?」

「悪い気はしない、よな?」

「そうだね。むしろ、僕も何かが腑に落ちたような気がする。他人の気がしなかったから」


 意外な指摘がイブはどこか嬉しかった。


「やっぱり僕もラウニカ人だったってことかなぁ。ゼファさんもきっとラウニカの人だよね」

「絶対そうだろ」

「しかも物知りでお金持ちで魔法使いか」


 本人のいない所でイブは素性を探る。


「ありゃお偉いさんだぜ、きっと」

「もしくは本当に変わり者……」


 その頃、ゼファはくしゃみをしていた。

 そうとも知らぬ二人は道端で地図を取り出して今後の作戦を練る。


「さて、渓谷って話だが」


 クルスの指が目的地を示す。

 川を抱く森林豊かな渓谷には、地図上で見ても集落の類は書かれていない。そもそも、一見して道も無いようだ。


「ロノンには行ったこともないし、この辺りのことはよく知らねえんだよな。一旦、ここから近い町で情報を集めてみるか」

「うん」


 二人は歩みを再開した。



   *



 モザイクガラスのランプが彩る、星空のようなテントの中。

 複雑な模様の布をかけたテーブルで二人の女性が相対していた。

 一人は固唾をのんで目の前の人物を見守り、もうひとりは黒いレースの袖を揺らしながら水晶玉に手をかざしている。


「――見えてきたわ。まずあなたが見える。雑貨屋の店番をしてるわね……会計に人が並んでいる」


 赤い紅を引いた唇が続ける。


「あぁ、おかみさんがあなたの手際の悪さにひとこと言いたそうだわ。察したあなたは頑張るけれど、何度もおつりを間違えてしまう」

「うぅ……」


 当時を思い出したのか、相手の女性は肩を落とす。

 すると水晶玉にかざされていた手が、突然がっしりと水晶玉を掴んだ。


「赤い糸見つけたり!」


 そのまま頭上高くへ芝居がかった様子で掲げる。


「えにしを司りし運命の女神からの予言を、ここに下さん! あなたから多めにおつりを渡された人の一人に黒髪メガネの地味な青年がいるわね。彼は近い内に多いおつりを返しに店を訪れるわ。その時が絶好の機会よ」

「絶好の機会……!」


 女性は目を輝かせて拳を握った。


「……って、何をすればよいのですか、先生……!?」

「アドバイスも聞きたいのね? いいわよ」


 先生と呼ばれた黒いローブの女性は水晶をテーブルの隅へやると、次はカードの束を手に取った。

 手早く束を切り、数枚のカードを何かの規則に従って並べて絵柄を読む。


「うん。あぁハイハイ。そうね、それがいいわ」

「…………」

「今、運命の女神の使いから言葉が聞けたわ。『おつりをちょろまかさずに返しに来てくれた良心を褒めちぎれ』とのことよ」

「そうしたら、何かが起きるのですか……!?」

「それはもうあんなことやこんなことが」

「はわわ」


 女性は赤い顔を両手で挟む。

 ローブの女性は背筋を伸ばした。


「以上が予言よ。では料金だけど、今回は基本料金にアドバイス料を加えて、しめてこちらになります」


 と、針金とガラス玉でできている算盤を提示する。

 客の女性は巾着袋から小金貨を一枚出して恭しく差し出した。黒く塗られた長い爪の指先がそれを包み隠して受け取る。


「たしかに頂戴したわ。ではこれを持っていって。結んだ縁を強固にするおまじないを込めたお守りよ」


 もう片方の手を差し出して開き、小さな繻子の小袋を渡す。


「予言の通りに相手と出会えて、もし二人が将来を誓い合う段階になったら、その時は是非またここへ来てごらんなさい。次は二人の愛が永遠に続くおまじないのお守りを差し上げるから」

「ありがとうございます!!」


 女性客は何度も頭を下げながらテントを辞した。

 入れ替わりに生花をあしらった帽子を被った喜色満面な中年男性が帳をくぐる。


「今のお客様で最後です。お疲れ様でしたっ! いやぁ、今日も大盛況でしたなぁ」

「そのご様子だと、村の方も大賑わいかしら?」

「嬉しい悲鳴があちこちで上がっておりますよ。いや、本当に最近は村の狭さを実感する日々です。こんな幸せな悩みも、ひとえにカルメン先生がもたらしてくれた贅沢ですな!」


 男性のごますりが止まらない。

 ローブの女性は、しかしまんざらでもない様子で妖しく笑む。


「いいのよ。誰かの幸せがあたくしの生きがいですから」


 テーブルの上、緑色の壺の横で長い指を組んだ。



   *



 森の急勾配を突っ切る細い道にイブとクルスの姿はあった。


「――この先に縁結びの村とかいうのがあるらしいが……」


 日はまだ高いが、二人はこの日、朝から延々と似たような景色の中を歩いていた。


「あ、また看板だ」


 イブが少し先を指差す。

 自然の中では少し目立つ、桃色に塗りたくられた矢印型の看板にくっきりとした字が書かれてある。


『縁結びの村テアギル この先あと半日!』


「オレたち何かに化かされたりしてないよな?」

「魔物とかに?」

「冗談じゃないぜ。こんな辺境で縁結びだって?」

「あはは。人と全然すれ違わないからこわいよね」


 看板に手を置いて実在を確かめるクルスを、イブはまだ残っている元気に任せて笑う。


「でもラウニカの近くでロノンを目指す巡礼者に会えたのは幸運だったね。話の通り、この道は平らで安全そう。もう一つの、近道だけど険しいって道を選んでたら今頃苦戦してたかも」

「ま、そうだな。他に手がかりもねえし、とりあえずこのテアギルってところを目指すとするか――」


 その時、雨が木々の葉を打ち付ける音が鳴り始めた。

 枝葉はあまり傘になってくれず、二人へも雨粒が不規則に降り注ぐ。


「……天気は選べねえんだよな」


 クルスはぼやいた。

 二人は雨具を着てしばらく歩いたが、周囲が水分で煙って視界が良くない。足元がぬかるむし、このままだと暗くなるのが早い。よって、地面から突き出ている大きな岩を見つけた時にクルスが指をさした。


「あそこで朝まで凌ごう」


 二人はまだ濡れていない岩陰に身を押し込めた。


「明日も降ってたらどうする?」

「進むしかないだろうな。あと半日分」

「魔物に遭わないといいね」

「ロノンの神聖力ってやつのおこぼれでもあればいいんだが」


 膝を抱えている二人の肩に岩を伝った水が滴る。


「そっち狭いか?」

「平気だよ。詰める?」

「いや。大丈夫」


 幾重もの布越しに互いの肘の位置が分かってしまう。

 クルスは濡れたフードの下からイブを盗み見た。ぼんやりと森を見上げる横顔は先ほどまで急ぎ足で歩いていたせいか、雨の森の冷たさに反して少し上気している。

 その頬のきめ細かな肌に目を奪われる。


「これじゃ焚き火はできないよね」


 柔らかそうな唇が突然しゃべった。


「あ? あぁ……試してみるか? 拾っておいた枝と焚き付けは濡れてねえから、あとは雨を避けられる乾いた地面があればいい」

「でもこの岩の陰じゃ狭いでしょ?」

「そうだな。じゃ、どうせ夜を越すんだ、ここに屋根作るか。イブ、適当な布出しておいてくれ」

「布? 分かった」


 イブが言われたような物を荷物から探し出している間にクルスは四本の長い枝を拾ってきた。

 その四本を支柱として、普段は寝袋の下敷きに使っている布を張って地面に突き立てる。簡易の天幕だ。

 クルスはさらに裏が平らな岩を拾ってきた。裏返して地面に埋めれば乾いた場所ができる。これで焚き火を熾せる環境ができた。

 岩の上にクルスが道中で時々拾い集めていた小枝を組み、火打ち石で火を熾す。

 ちょうど森に差し込む最後の日光が消える前に二人は火にあたることができた。


「やっぱり火があると安心するね。そうだ、新しい料理道具を試さない?」

「何か食材あったか?」


 イブは荷物の中から別立ての袋を取り出す。


「ベーコン、トマト、チーズ、あと芽が出かけてるじゃがいも。炒め物が作れそう。クルスさんは火を準備してくれたし休んでて」

「ん……任せた」


 まずは小さなまな板とナイフで食材を切り分ける。じゃがいもは既に土を落としたものなので芽を取ったら十字の切れ込みを入れ、下ごしらえを終える。

 手のひらサイズのスキレットに最初に厚いベーコンを載せる。脂が溶けてきたらミニトマトを投入しようとした。


「トマトって焼いて食うのか?」

「焼いたら甘くなるよ。嫌?」

「いや、別に。どっちでも」


 含みのある言い方が気になったが、イブはやはり丸いままのトマトをスキレットに転がした。

 香草も振りかけて熱が通った頃に火から下ろす。食材を壁際に避けて真ん中にチーズの塊を置き、蓋をして後は予熱に任せた。

 じゃがいもは小瓶から少し油を垂らして塩を振り、火のそばに置いて熱が通るのを待つ。


「もういいかな」


 適度に待ったスキレットの中はとろけたチーズの海になっていた。

 小皿とフォークをクルスへ渡して最初のひとくちを譲る。


「はい、どうぞ」

「ありがとな。にしても手際いいんだな、イブ。騎士は料理もできるもんなのか?」

「見習いの時になんでもしてたお陰だよ。料理っていうか、食べられるようにできるって感じかな」

「謙遜するねえ。……うん、うまいぜ。おまえも食えよ」


 まだチーズを絡めたベーコンしか食べていないクルスは早速イブへ促す。だがイブはすぐには手を付けなかった。


「トマト食べないの?」

「そっちも味見しろってのか? でもな、多分まだ熱いだろ」

「小皿に取って冷ましたらいいよ」


 にこりと微笑んでアドバイスする。

 クルスは不穏なものを感じたようだが何も言わず、強く勧められたトマトをフォークで刺す。

 だが、イブが一切れ目のベーコンを食べ終えてもそのトマトは減っていなかった。


「おい……こういう追い詰め方するんだな」

「ん?」


 イブは平然とした顔を作るのに失敗して口の端を上げた。それを見逃さないクルスではない。


「しらばっくれるな。分かっててやってるだろ?」

「何を? クルスさん、はっきり言ってよ」

「言ったら楽しみが終わるぞ、いいのか?」

「ああ、それはちょっと惜しいかもねぇ」

「おい」

「でもクルスさんの口から真実を聞きたいな」


 小首を傾げるイブにクルスは目つきを鋭くしきれず、葛藤の末にため息をついた。


「トマトは嫌いだ」

「へぇー好き嫌いがあるなんて意外だな。二十一歳のいい大人なのに」

「じいさんから情報を仕入れたな? あのな、嫌いな理由はあっても、嫌いになることに理屈はないんだよ。言ってやるなら薄い皮も、噛み潰して汁が飛ぶのも、ぬるっとした種も嫌いだね」


 少々早口になる様子が珍しい。イブはさすがに面白がるのをやめる。


「蛇蝎のごとくだね……。じゃあ今回は僕が退治するよ」

「イブは嫌いなものないのかよ?」

「対等になるように教えておくと、グリンピースかな」

「ふーん。覚えとけよ」

「いつでもいいよ」


 まだ余裕そうなイブの目の前でクルスはベーコンを口に放り込んでいく。飲み込むような速さだ。


「また早食いだ。健康に良くないって聞くよ?」

「喉を通り過ぎれば何でも同じさ」

「豪快だなぁ。その勢いなら石も食べられそう」

「あるぜ、食ったこと」

「え?」

「昔、ひもじすぎた時に腹を膨らませようと思って……。嘘だよ」


 クルスはイブの真顔を笑った。

 その日の雨は弱まりながら夜明け前まで続いた。



 狭い寝床を分け合って身を休ませて朝を迎える。

 二人は雨上がりの濡れた道を再びひたすら歩き、とうとう看板にあったテアギルに辿り着いた。

 その村は、規模の小ささに見合わず人でごった返していた。


「ホントに観光地だったのか」

「花がいっぱい……すごく綺麗な村だね」


 街路樹だけでなく村中のあちこちに花壇や植え込みがあり、あらゆる花が盛りを迎えている。中にはこの地の植生に釣り合っていない花もあるようだ。

 そこへ、呆然としている二人を見つけた村の中年女性がやってきた。花をふんだんに使った飾りを襟元につけている。


「あなたたち、ラウニカ側の道から来たの? 頑張ったわねぇ。でもよかったわね、お陰で明日から始まるお祭りに間に合ったわよ」

「祭り?」

「縁結びの女神へ大事な人と出会えた縁に感謝したり、出会いを祈願したりする祭りよ」


 イブとクルスは顔を見合わせた。


「その縁結びって何ですか?」

「あら知らないの!? じゃあ何しにこの村へ来たの……?」


 女性は驚愕といった反応だ。

 それへクルスが答える。


「オレたちはこの辺りに有名な壺があるって聞いて見に来たんだ」

「壺? 有名かは分からないけど、きれいな壺なら占い屋にあるわね。それならなおのことカルメン先生に会いに行ったらいいわよ。この村の名物を知れるし、ついでに探し物のことも聞いていらっしゃい」

「そうかい、分かった。どうもありがとう」


 女性が立ち去ると二人は話し合った。


「つまり、カルメンっていう人が縁結び占いをやっていて、その占い屋に壺が一つあるってことみたいだね」

「とりあえず例の壺のありかを確認したい。他に手がかりがないなら行ってみるか」


 クルスは髪をかきあげる。気乗りしない様子だ。


「そうだね。そういえば『追憶の壺』ってどんな見た目なんだっけ?」

「じいさんが言うには『森のような緑色で、星空のようにきらびやか』らしい」

「見たら分かりそうだね。じゃあ占い屋を探しに行こう」


 イブとクルスは村の中心の方へ向かった。

 井戸のある広場は祭日の露店の準備作業をしていたが、その周囲の土産物屋や飲食店は大盛況だ。


「あそこだ……」


 中でも、女神の石像が軒先に置いてある二階建ての建物に人が群がっている。

 その建物の看板にこそ『カルメンの縁結び占い』と書かれてあった。


「すごい人の数だけど……とりあえずその占い師さんに会えるか聞いてみるよ。クルスさんはここで待ってて」

「分かった」


 イブは荷物をクルスに預けて人混みへ挑んだ。

 どうやら人々は建物の一階にある受付カウンターのようなところで次々に何かを受け取っているようだ。

 しばらく列が前へ進むのを待ち、やっとイブの順番になる。


「いらっしゃいませ。番号札をお持ちになってお待ちくださいませ」

「あのう、占いは結構です。カルメンさんの壺を見たいだけなのですが」

「占いなし、ご相談のみですね? 番号札をお持ちになってご自身の順番をお待ちくださいませ」

「はぁ。分かりました」


 事務的な態度に押し切られたイブは、数字が書かれてある板を持たされると弾き出されるように人混みを抜け出た。

 クルスは同じ場所で待っていた。周囲の主に女性たちが彼の容姿を見てはしゃいでいるが気づいていないらしい。


「どうだった?」

「これを持って待ってください、だって」


 と、五十五番と書かれてある板切れを見せる。


「六番のお客様~!」


 占い屋の方から呼び声が聞こえた。クルスの眉が上がる。


「こりゃあ早く今夜の宿を押さえた方がいいな」

「お風呂があるといいなぁ」


 二人は宿屋の看板が並んでいる通りへ向かっていった。

 そんな二人を、周囲の一人客の女性も男性も、どこかがっかりした様子で見送るのだった。

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