17. 開会
よろしくお願いします。
お祭り当日。
前日までになんやかやとあったものの準備は無事に終わり、開催日初日となった今日は、クックパ村は朝からとても賑やかで楽しい空気に溢れていた。
朝早くから村内の喧騒で目が覚めたので部屋の窓から外を見てみると、村の広場には大勢の人が行き交い、皆でアインクル湖の方へ向かって行っている。
こんなに早い時間からお祭りは始まっているのか。
これはオレ達も急いで湖に行くべきだろうか。
それとも少し様子を見て、混んでいるところを避けて行くのが良いだろうか。
そんなことを考えながらふと目を横にやると、隣の部屋の窓から同じように顔を出して外を見ていたミズキと目が合った。
「え、えへへ……」
ミズキが照れくさそうに笑って頭を引っ込めたので、オレも部屋の中に戻って身支度をする。
先に食堂に行って朝食を食べていると、後から身支度を整えたミズキもやって来た。
「おはようタマ」
「おはよう。まだ早い時間だけど、お祭りはもう始まってるみたいだな」
「うん。こっちの人達は朝早いよね。ご飯食べたら、私達も湖に行ってみよっか」
「そうしよう。今日の朝食はオムレツだぞ」
そんな話をしながら、ミズキが食堂のカウンターから朝食を受け取って席に着く。
今日はアインクル湖祭りの開催初日ということで、湖畔に設えられたステージで開会式などが行われるらしい。
朝食を食べ終えたオレとミズキは、休息もそこそこにアインクル湖へと向かった。
昨日のように道を歩いて着いた湖畔は、予想していた通り大変な賑わいだった。
天気は曇りで周囲はうっすらと霧がかっていて、昨日ほど湖の景色はよく見えないのだけれど、逆にこういうのが神秘的な雰囲気と言えるのかもしれない。
間もなく開会式が始まるようで、広場の仮設ステージの前には大勢の人が集まっている。
何やらどこかで見たような白服の集団が、神はどうとかいう演説のようなことをしているが、そんなものはどうでもいい。
既に出店の何件かが開店しているのを見つけたオレは、早速突撃しようとしたところをミズキに「開会式ぐらい見とけ」と首根っこを掴まれて、広場へ連れて行かれることになった。
ステージの前は人でごった返していたので、オレとミズキは広場の隅っこから遠目にステージを眺める。
2人で開会式の始まるのを待っていると、そこに「ミズキさん!タマさん!」と声がかかった。
見るとそこには、連れ立ってこちらに歩いてくるマルクスとエルナの姿があった。
「おはようございます、ミズキさん、タマさん」
「おはようエルナちゃん。あら、今日は2人でデート?」
「デっ……ち、違います!マルクスとは、たった今そこで会ったところで……!」
からかわれて、顔を真っ赤にして慌てるエルナと、それを見て笑うミズキ。
「2人は、今日は家の手伝いはしなくて良いのか?」
オレが尋ねると、マルクスも笑顔で答える。
「うん。僕もエルナも、今日は午前中はお祭りを見て良いって言われてるんだ。午後からは家でやることあるんだけどね」
「そうか。2人共、しっかり働いていて偉いな」
「えへへ、これぐらい普通だよ〜」
照れ笑いのマルクス。
このマルクスとエルナは家の手伝いをする良い子なのだけれど、逆に家の手伝いをしない悪い子の方が見当たらないな。
「ミックはどうした、一緒じゃないのか?」
「ふん、知りませんあんなヤツ」
何気なく尋ねたオレに、今までとはうって変わって目をつり上げるエルナ。
「昨日のミックがやったイタズラのこと、まだ許してなくて……」
そんなエルナを横目に見ながら、マルクスが困り顔を浮かべつつ教えてくれる。
「ミックは……朝からどこかに行っちゃった。『スゲーこと思いついた!』とか何とか言ってたけど、朝から家にもいないし、探しても見つからなくて……」
「おい、大丈夫なのかそれは。何かまたろくでもないことをやろうとしてたりしないだろうな」
「う〜ん……」
何も言えないでいるマルクス。
と、そこにステージの方から
「これより、アインクル湖祭りの開会式を執り行う!まずは領主様からお言葉を頂戴するので、皆静かに!」
という大きな声がかかった。
見ると、広場の仮設ステージでは昨日会った村長が隅に下がるところで、代わりに背の高い細身の中年男性が登壇してきた。
あの人がこの土地の領主のようだ。
「集まってくれた諸君、カラマリード男爵である。今年もこうしてこのアインクル湖祭りを無事に開催できたことを、心から嬉しく思う。今日から3日間の祭りを、皆心ゆくまで楽しんでくれ」
領主は、会場が静かになったところで短くあいさつの言葉を述べ、そのままステージ脇の階段へと足を向けた。
そんな領主を追うようにして、控えていた村長が声を張り上げる。
「領主様からは今年も、アインクル湖祭りの開催に多大なる援助をいただいた!さらに今日はこの通り、私達に贈り物も届けて下さった!皆で感謝の言葉をお送りしよう!」
そう言いながら、村長はステージの横に積まれた樽を指し示す。
アルコールの匂いがしてくるので、おそらくは酒か何かだろう。
大歓声と拍手に包まれたステージから足早に降りた領主は、ステージの横に待機していた馬車に乗り込むとそのまま帰って行ってしまった。
なんかそっけない気もするけど、案外こういうものなのかもしれない。
「さあ、それでは祭りの始まりだ!皆楽しんでくれ!」
村長の声と共に、周囲が一斉に喧騒に包まれる。
よし、開会式も終わったことだし、オレは早速出店だな。
さあ、食べるぞ。
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