11. 湖畔
よろしくお願いします。
「残念だ」
「お祭りは明日からなんだから、出店はまだ始まってないに決まってるでしょうが……」
オレとミズキは、昨日と同じくアインクル湖の湖畔に来ていた。
アインクル湖は周囲を森に囲まれた湖で、向こう側の岸までは大体1〜2kmぐらいだろうか。
そこまで大きな湖というわけでもないようだ。
ただし観光案内で聞いたところでは非常に深い湖で、以前この辺りでも屈指の水泳自慢が命がけで潜ってみたが、底にはたどり着けなかったのだそう。
そんな湖なので、主がいるという伝説が生まれたのかもしれない。
しかしその主というのも単なる言い伝えというわけでもなく、昔から湖を泳ぐ巨大な影を見たとか、湖面から大きなヘビの頭のようなものが突き出して、そして沈んでいくのを見たとか、そうした目撃談などが絶えないのだという。
ここは魔物がいる世界なので、そうしたモンスターの類ではないかという声もあったようだが、アインクル湖の周囲ではそうした巨大な魔物による被害が発生することもなく。
たまに魔物が出ても犯人がはっきりしている上冒険者による対応で解決できたりといった具合で、それであれば水中の何者かは湖の主ということで良いのではないかと、村ではそのように捉えていたということだ。
最近までは。
少し前から始まった、村人の連続行方不明事件。
その明らかな異常事態をアインクル湖の主と関連づけ、何か湖で無礼を働いてしまい主を怒らせたのではないか、それとも主も結局のところ魔物であり元から危険な存在だったのではないか、などという議論が、ここ数日村内では続けられていたとのことだ。
しかしそれもつい先日、この村のすぐそばで魔物のハングテイルリザードが仕留められたことで、ここ一連の事件はその魔物によるものであり、討伐されたことで脅威は去ったと見る意見が強くなってきているのだそう。
そんなわけで、お祭りは当初の予定通り開催の見込み。
オレとミズキが見学に来た湖畔の広場も、明日のお祭りの出店の準備に賑わっている。
オレとしては、1日ぐらい早く営業を始めている出店もあったりしないだろうかと期待していたのだが、残念ながらそういう店は無かった。
岸辺の広場には特設のステージのようなものが建てられており、その前では身なりの良い人が数人集まって話をしていた。
彼らはお互いに握手をしたり、頭を下げたりしていたので、村長などクックパ村の偉い人や、お祭りを見に来たお金持ちや貴族などが挨拶をしているのかもしれない、とミズキが言っていた。
湖の方は青く静かな湖面を見せているものの、覗き込むと下の方は暗いのと濁っているのとで底までは見えない。
中に何がいるかというのがわからないので、もしかしたら何かいるんじゃないかという恐れのような気持ちから、主の伝説とかができたのかもしれない。
その主の伝説があるので湖は立ち入り禁止とかかと思ったがそういうわけでもないようで、岸辺にはたくさんの観光用手こぎボートが繋がれており、湖面にはそうしたボートで遊覧を楽しんでいる観光客や、中には泳いでいる人もいたりする。
「ミズキどうする。ボートに乗ってみるか?」
これも良い機会かもしれないと思って尋ねてみると、ミズキは湖の方に目をやって迷った様子。
「ボートか……どうしようかな」
「明日からはお祭りが始まって湖も混雑するだろうから、乗るなら空いている今日のうちが良いかもしれない」
「そうだね……それじゃ、せっかくだしちょっと乗ってみよっか」
そのように決まった。
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