9. 祈願
よろしくお願いします。
「ケーラにハングテイルリザードって、なんか聞き覚えがあるような?」
「アンタが昨日助けた女の人と、その時に倒した魔物でしょうが」
「おお!」
思わず声を上げたオレに、驚いた顔になるナディヤさん。
「え?じゃあ、ケーラちゃんを助けてくれたの、ミズキさんとタマさんだったの?」
「ええ、まあ……ちょうど倒れたところに行き会ったもので」
「そうだったの……本当にありがとうね」
「いいえ……本当に、タイミングが良かっただけですから」
真剣な顔でお礼を言ってくるナディヤさんに、慌てて手を振り返すミズキ。
こういうふうにお礼を言われるというのは今まであまり経験がないので、なんとなくむずがゆいような感覚がする。
なお、この村に来る途中に仕留めたトカゲの魔物のハングテイルリザードは、宿にチェックインした後でこの村にある冒険者ギルドに持って行って、そこで解体と買い取りを頼んである。
ハングテイルリザードは5級の魔物とのことで、解体手数料を除いた買い取り額は銀貨3枚だった。
「あのトカゲの魔物、冒険者ギルドでは5級と言われてそこまでお金にもならなかったんだが……行方不明の人がもう5人?あれ1匹でそこまで被害が出るものなんだろうか?」
「実際、危ない魔物ではあるんでしょうけど……助かったケーラさんていう人からは、何か話は聞けてないんですか?」
オレとミズキで尋ねてみると、ケーラさんという人は意識は戻ったもののまだ朦朧としている状態であり、まだ襲われた時の詳しい話は聞くことができていないのだという。
かろうじて聞き取ることができたのは、「草むらから突然襲いかかられた」「何か大きな咆哮のようなものが聞こえた」ということのみ。
草むらから襲ってきたというのは、これはハングテイルリザードのことで良いだろう。
だがもう1つの、咆哮というのはなんだろう?
オレの前に出てきた時はそういうのは無かったのだが、あのトカゲ吠えるんだろうか?
それとも、何かハングテイルリザード以外の魔物がいるということなんだろうか?
そういう状況であれば、お祭りを開催するのは危ないんじゃないだろうか?
オレがミズキにそう言うと、彼女は不思議そうな目を返してくる。
「なんか……意外ね。食い意地張ったアンタのことだから『出店が無くなるなんて言語道断、なんとしてもお祭りはやるべきだ!』とか言いそうなもんなのに」
「いやほら、サメとかピラニアとかの被害が出てるところにお祭りを強行したら、そこに一斉に襲いかかってきて集まった人が片っ端から食われて……」
「映画の話でしょうがそれは……」
呆れた目を向けられた。
確かにオレは食べることが好きだが、だからって人がかじられているのを横目に見ながら物を食う趣味は無い。
「まさかサメ映画みたいなことになるとは思えないし……村の人達が開催するって決めたんなら、私達がどうこう言えることじゃないもんね。お祭りの間は、ちゃんと警備はするんですよね?」
「それはもちろん。この村の冒険者ギルドに加えて、祭りの当日には近場の町からも冒険者に来てもらう予定で、その人達にはアインクル湖とそこに行くまでの道を中心に警備してもらう手筈になっています。それに、祭り見物に来た人達の雇った護衛の人達もいます。こう言ってはなんですが、祭りの当日は、普段のこの村よりもずっと安全になります」
ミズキの問いかけに、頷くクンツさん。
まあ不安なところはあるにせよ、村の方できっちり対処をするのであれば、通りがかっただけのオレ達が口を出せることでもないだろう。
それに実際取り越し苦労で何事も起こらないかもしれないのだし。
であれば、それにこしたことはない。
オレ達としては、これ以上この村に何も悪いことが起こらないよう祈っておこう。
そう考えて、天井に向かってパンパンと手を打ち合わせるオレと、そのオレの後ろ頭をどつくミズキ、そしてそんなオレ達を不思議そうに眺めるクンツさん達だった。
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