8. 不穏
よろしくお願いします。
オレとミズキが、クックパ村に到着した翌日。
オレ達は日中軽く村内を見て回ったり、アインクル湖を見に行ったりして過ごし、夜になったので宿で夕食を食べているところだ。
村内はお祭りの前々日ということで商人や観光客が大勢入ってきていて、昨日よりもずっと賑わいが増している。
オレ達が泊まっているこの宿も、部屋はすでに満室状態だ。
あと1日この村に着くのが遅れていたら、その時は泊まる宿が見つからずに困るところだった。
本当に、良いタイミングだった。
今日の夕食のメニューは湖で捕れた魚を油で焼いてスパイスの効いたタレをかけたもので、この宿の一人息子であるマルクスや友達のエルナの言っていた通り、ここの食事はとても美味しい。
宿のご主人で調理担当であるクンツさんには、オレの分の食事は3人前にしてもらうようにお願いしていたのだが、4人前にしてもらえば良かったかと後悔しているところだ。
ただ、お祭りまで後2日で、村内もいよいよ開催が楽しみで夜しか眠れないといったところのはずなのだけれど、マルクスのお母さんでこの宿を切り盛りしているナディヤさんや、お父さんでオレ達に夕食を出してくれているクンツさんの表情は固い。
昼間見て回った村内も、なんだかあまり活気があるようには見えない。
アインクル湖の畔に行けば出店やら当日のイベントやらの準備で賑わってはいるのだけれど、村に戻ってくると妙に難しい表情を浮かべた人が目に付く。
お祭りといえば当然楽しいことであるはずなのだが、それを明後日に控えてうきうきしているという感じがあまりしないのだ。
今泊まっている宿では食事は指定された時刻に食堂で食べることになっていたのだが、混雑を避けて少し遅めの時間に夕食を取ったオレ達。
食後の休憩をしていたところ何かあったのだろうかと気になって、ちょっと尋ねてみようかと思ったところで先にミズキが問いかけた。
「あの……すみません。何かあったんですか?お祭りの前日のわりには、なんだか村の空気が沈んでいる気がするんですけど……」
ミズキの言葉に、ナディヤさんとクンツさんは困り顔を見合わせる。
「う〜ん……あんまりこういうことお客さんに言うのは良くないんだけどね……」
「アインクル湖祭りなんだが……今、中止か延期した方が良いっていう意見が、村の中で出てきているんです」
「中止?」
「延期?」
「そんな!父ちゃん母ちゃん、どうして?」
ミズキとオレに合わせて、一緒に夕食を食べていたマルクスからも驚きの声が上がる。
お祭りが中止になるということは、出店の食べ物が食べられなくなるということか。
確かにそれは困るな。
クンツさんとナディヤさんは再度顔を見合わせ、そして言い難そうに口を開いた。
「実は少し前から、アインクル湖のそばで人が行方知れずになったり、大怪我したりという事件が続いているんです」
クンツさんの話では、湖の周辺で失踪した人の数はもう5人に上る。
いなくなった辺りで何者かが暴れたような形跡があるため、襲撃を受けたのは間違いないと思われるのだが、その後の調査にもかかわらず強力な魔物やら盗賊やらが現れたような気配は無い。
そうしたこともあって、村内の寄り合いでは「この異常事態を放置して、万一観光客に被害が出れば一大事。安全が確認されるまで祭りを中止もしくは延期すべき」「アインクル湖祭は年に一度の祈念祭であり、中止となれば村民の大きな落胆は免れない。また観光地で開催される祭りはこの村の大きな収入源のため、それが無くなれば来年の祭りまでの大きな経済ダメージとなる。中止はすべきでない」と、2つに分かれての議論が続いていたのだそうだ。
それが、
「今日の寄り合いで、祭の開催が正式に決まりましたよ」
「え……でも、大丈夫なんですか?人が行方不明になってるのに……」
ミズキが言うと、ナディヤさんは浮かない顔を返してくる。
「昨日なんだけど、この村のケーラちゃんていう人が、大怪我して見つかったの。そしてその時にハングテイルリザードっていう魔物が退治されたんだけど、寄り合いでこれまでの行方知れずの原因はハングテイルリザードで、その魔物が倒されたからもう大丈夫だって意見が強くなって、それで開催が決まったのよ」
開催が決まったとは言うが、夫妻の顔に喜色は無い。
どうやら2人も、このままお祭りを開催して良いものかどうか、迷っているみたいだ。
それにしても……
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