7. 伝説
よろしくお願いします。
マルクスの実家の宿屋は、大通りから少し入ったところにあるこじんまりした建物だった。
家の手伝いがあるからと去って行くエルナに手を振り、家族に知らせてくると言って駆け込んで行くマルクスの後に付いてオレ達も中に入って行くと、入り口のカウンターでマルクスと話していた中年の女の人がこちらに笑顔を向けてきた。
「いらっしゃいませ、あなた達がマルクスの言ってたお客様?お2人で旅をしてるんですってね。ようこそクックパへ!」
「ありがとうございます。あの、2人なんですけど泊まれますか?」
「はい大丈夫ですよ〜。ギリギリだったわね、明日だったらもうどこの宿も満室だったわよ。お2人はご夫婦さん?お部屋は2人部屋で良いかしら?」
「いいえ!そういうのじゃないですから!1人部屋2つでお願いします!」
「あらあらそうなの?お兄さんも頑張らないとねえ」
慌てるミズキに、ころころと笑う女の人。
この人は、マルクスの母親だろうか。
ミズキがチェックインの手続きをしていると、奥から男の人が出て来た。
背が高くてがっしりとした体型の、大柄な男の人だ。
「やあ、いらっしゃい。マルクス、お前がお客さんを案内してくれたのか」
「うん!タマさんとミズキさん。2人で旅してるんだって」
「そうか。私はこの宿の厨房担当でクンツといいます。店主はそこにいる妻のナディヤです。よろしく」
「こちらこそよろしく。マルクスからあなたの料理はとても美味しいと聞いているので、楽しみにしている」
「ハハハ、ご期待にそえるように頑張りますよ」
「そこで相談なんだが……オレの分の食事は3人前にしてもらうことはできるだろうか?」
「3人前?ええ、それは出来ますが……大丈夫ですか?」
「大丈夫。それでよろしく頼む」
オレとクンツさんが話している横では、ミズキが宿泊の手続きを済ませたところ。
「それで、何泊するかしら?」
「あ……それじゃあ、4泊でお願いします」
「ミズキ、4泊するのか?」
「うん。お祭りがあるみたいだし、せっかくだから見てから出発しようかなって……良いかな?」
「かまわない。お祭りということは、何か美味しい物が食べられるかもしれないんだろう?」
それならむしろ大賛成だ。
それにお祭りを見たいというのは、ミズキにもそれだけ余裕が出てきたということになるかもしれない。
それであれば良いことだ。
クックパ村で開催されるお祭りは、『アインクル湖祭り』といって、明後日から3日間開催される。
村から北に30分ほど歩いた所には森に囲まれた大きな湖があり、その名前がアインクル湖。
そしてそのアインクル湖には大昔から巨大な主が住んでいるという言い伝えがあり、このお祭りはその主を祀るものということだ。
聞いた話では、主の姿をはっきりと見た人というのはおらず、ただ湖面を泳ぐ影を見たとか、湖から長い首のようなものが出ているのを見た、なんていう目撃証言は多く寄せられているのだそう。
巨大な主というのは、魔物か何かなのだろうか。
まさか地球の湖の未確認生物みたいに、プレシオサウルスなんてことはあるまいが。
そんなアインクル湖なのだけれど、別段立ち入り禁止などということもなく、むしろ観光名所となっている。
開催されるお祭りもその湖を中心に行われ、当日の湖畔にはたくさんの出店が軒を並べるとのこと。
これは正直、かなり楽しみだ。
まだチラと見ただけなのだけれど、アインクル湖に続くという道には大勢の人が行き来し、たくさんの荷物を積んだ車が湖へ向かって行っているようだ。
今日はまだ準備の段階で出店などは出ていないのだろうけど、宿で少し休憩したら湖を見に行ってみるのも良いかもしれない。
こうしてオレ達は少しの間クックパ村に滞在し、お祭りを見物してから出発することにしたのだった。
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