11. 日常
あけましておめでとうございます。
今年もタマをよろしくお願いします。
オレ達が、ヒルデルの町に入ってから5日が経った。
この5日間、オレとミズキはヒルデルの市内を見て回りながら、この世界の情報集めや今後の予定の打ち合わせなどを行なっていた。
ヒルデルの町は国境近くの町で旅人も多く、運輸ギルドの待合室などに行ってみればけっこういろんな話が聞ける。
「情報集めといえば酒場」という意見もあるかもしれないが、試しに酒場に行ってみても出会えたのは酔っ払いだけであった。
冒険者や警備隊、そしてこの町に駐留する軍隊で組織された調査隊が連日町の周辺を調べているが、今のところ特にこれはという発見は無いようだ。
町中を巡回している警備隊員の中にも「あの魔物はもう他にはいないのではないか」などと話をしているのがちらほらと聞こえてきたりしている。
ミズキの方は、見たところ多少はこの世界にも慣れてきたようである。
とはいえ、やっぱり辛そうにしているところを見かけるのも少なくないので、オレとしても気をつけなければならないと思っているところだ。
ミズキはこの世界で使えるようになった魔法の練習もやりたいようだが、宿の部屋の中で炎を出すというわけにもいかず、今のところ多少の水を出したり小さな風を吹かせるというのがせいぜいで、あまり進んでいるとは言えない。
魔法についての教科書みたいな本でもあればと思ったのだが、軽く調べたところこの世界、本や紙の値段が地球よりもずっと高い。
まあ、地球みたいに工場で、印刷機械で大量生産なんてことはやっていないのだろうから、手作りとなると高価になってしまうのも仕方ないのかもしれない。
そして何より、そうした魔法についての本が手に入ったところで、オレとミズキにはまだこの世界の文字がほとんど読めない。
泊まった宿の人から軽く教えてもらったり、市場の古紙を売っている店から字の書かれた元帳面のような紙束を買ってきて2人で覗き込んだりしているが、それでも今は1〜10までの数字をなんとか見当付けられたのが良いところだ。
どこかに、読み書きや魔法についてじっくり教えてくれる先生のような人でもいれば良いのだが。
ちなみに、先日冒険者ギルドで買ってもらったマジックバッグは、2人で色々と実験をしてみた末にミズキが持ち歩くことで話が決まった。
物の取り扱いについてはミズキの方が間違いなく丁寧だし、中身が怪獣とはいえ男のオレには見られたくない物も、彼女の私物の中にはある。
それにもし魔物や悪い奴などに襲われたりした場合オレは前に出て戦うことになるので、マジックバッグを失くしたり壊したりしてしまってはいけない。
オレには元々手持ちの荷物は少ないので、ミズキにはそうした物や貴重品関連を全部まとめて管理してもらうことにしたのだ。
そんなふうにして、冒険者ギルドから用意された宿でだらだらと過ごしていたオレ達。
ミズキも多少この世界に慣れてきているとはいえ、それでもまだ怖い気持ちがあるらしく、オレが一緒でないと外には出たがらない。
まあこの世界、たとえ町中であっても日本に比べるとやっぱり治安は良くないみたいなので、1人で出歩かないというのはオレとしても安心なところではある。
そんなヒルデル市なのだけれど、よく数十人ぐらいの集団が、何やら列を作って町中を練り歩いているのをたまに見かける。
日本のニュースで見ることがあったデモ隊のようなものかとも思ったが、何かを強く主張している様子でもない。
聞けばそれはカナラン教という、いわゆる新興宗教らしい。
どういう宗教なのかはよく知らない。
宿や冒険者ギルドなどで聞いてみたところによれば、このバルツルグ王国の隣は、この世界を支配する一大宗教であるノルト教を掲げる宗教国家、ラネット神聖皇国。
当然この国もラネット神聖皇国やノルト教の影響は強く、そんな中で隠れるようにして活動をしながら、少しずつ勢力を広げているのだそう。
それにしてもオレ達が召喚された国、思ったよりもけっこう凄い国だったようだ。
オレは別に宗教には興味が無いし、ミズキも今は元の世界に帰ることが最優先なのて、お祈りだのお布施だのをしている暇は無い。
そんな信徒達を見かけても、遠巻きにするだけに留めている。
そんなこんなで、冒険者ギルドのギルドマスターから要請された滞在期間もあと少し。
そろそろ出立の準備をしようかと、ミズキと話していた時期に、事件は起きた。
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