10. 要請
よろしくお願いします。
受付を見送ると、ギルドマスターは居住まいを正してオレ達に向き直った。
「ゾーラから聞いたのだけれど、あなた達、冒険者になるつもりは無いんですって?」
ゾーラというのは、オレ達に対応したあの受付の女の人のことか。
「無い。オレ達は旅の途中で、この町も何日か休んだらそのまま出発するつもりだった」
「そう……あなた程の実力ならすぐにランクも上がるし、冒険者証は身分証だから持っていれば何かと役に立つわよ?今冒険者登録すれば、あのアルジララクネを討伐した功績も加えてあげられるし」
確かに、オレ達はこれまで立ち寄った町では、入る際に門の通行税ということでお金を払うことを求められてきた。
聞いた話では、冒険者であることを示す身分証を提示すれば、町に入る際に通行税を免除されることがあるそうだ。
この町ではアルジララクネを倒した功績ということで免除してもらえたが、やはりこういうのは払わなくて済むのであれば払いたくはないものだ。
とはいえ……
「いや、やっぱり今回は止めておく。旅を優先したい」
「そう……残念ね」
オレの返答に、ギルドマスターは苦笑して頷く。
しかしすぐに「それはそれとして」と真面目な表情に戻した。
「あなたに1つお願いがあるの。もう1週間程で良いから、この町に滞在してもらえないかしら?」
「1週間?」
頷くギルドマスター。
「ランク1級の魔物が、こんな町の近くに現れるというのは大変なことなの。なので冒険者ギルドでは急ぎ冒険者を集めて、この町周辺の調査を行うことにしたわ。本当ならあなたにもその調査に参加してほしいところなのだけれど、あなた達冒険者になるつもりは無いんでしょう?」
頷くオレ。
オレとミズキは冒険者ではないから冒険者ギルドはオレ達に冒険者としての依頼を出すことは出来ないし、オレ達も依頼を受けることは出来ない。
「ならせめてあなたには調査の間、この町に滞在していてほしいのよ」
「調査の間?」
なんでまた?
首をかしげるオレに対して、隣のミズキは何かを察した様子。
「冒険者じゃないからタマは依頼を受けられないから……もしかして、アルジララクネがまたこの町を襲って来たら、タマに戦ってもらおうっていうこと、ですか?」
ミズキの言葉に、真剣な顔でギルドマスターは頷く。
「今回の調査は大規模依頼として4級以上の冒険者を集めるし、軍や警備隊からも人員を出すわ。つまりは調査の間、それだけこの町の守りが手薄になってしまうということなの。万が一の場合に備えてなのだけれど、調査が一段落する1週間だけ、この町にいてもらえない?」
なんでも数ヶ月ほど前からこのヒルデルの町の周辺で、近場で依頼をしていた冒険者や、この町に来る予定だった行商や輸送隊が不意に行方不明になるという事件が、何度か起きているらしい。
冒険者ギルドにも調査の依頼が寄せられており、既に数組の冒険者の集まり(「パーティ」と呼ぶのだそう)が探索に当たっていたのだけれど、そのパーティまでもが消息を絶つという事態にもなっていたとのこと。
そこに現れたのがアルジララクネ。
連日の行方不明事件は、このモンスターによるものである可能性が出てきた。
行方不明者の中には、当然女の人も含まれる。
今回判明したアルジララクネの生態からして、繁殖している可能性が大いにある。
あの強力なモンスターが複数いるということになれば、生半可な戦力では苦戦は間違い無い。
というわけで冒険者ギルドは軍隊や警備隊とも連携し、この町にあるありったけの戦力を投入することに決定したのだそうだ。
なるほど、それで兵隊や冒険者がいない間、オレを何かあった時の町の守りに当てようというわけだ。
オレとしては別にかまわないのだけれど、それにしても1週間か。
まあ元々この町には、ミズキの休養で少し長めに滞在するつもりでいたので、もうしばらく逗まることについては特に問題は無いのだが。
少し考えたオレを見て、ギルドマスターが言葉を続ける。
「万が一この町に魔物が来てあなたが討伐してくれた場合、冒険者の依頼としてではなく、町防衛の報奨という名目で、あなたに報酬を払うことが出来るわ。加えて、了承してくれたらこの町に滞在している間の宿泊費と食費を私の方で持ちましょう。どうかしら?」
「!」
宿代と……食費を出してくれる!?
つまりは……滞在中はギルドの金で食べ放題!?
オレは、隣に座るミズキの耳にそっと顔を寄せて囁く。
「ミズキ」
「……何よ」
「オレ、ちょっと頑張ってみても良いだろうか?」
「頑張るって……常識の範囲内にしなさい」
オレが連日の大食い大会を始めるつもりだと察したミズキが、半眼で睨みながら釘を刺してきた。
まあとにかく、1週間の滞在については断ることもないので、オレはギルドマスターに了承する旨を伝えた。
ギルドマスターの説明によれば、滞在先は指定の宿に移動すること、食費は可能であれば店から代金の証明書をもらってギルドに申請するように、そして万が一魔物がこの町に接近することがあれば前面に立って防衛に当たってほしい、とのことだった。
そこに「お待たせしました!」と声を上げて、受付が駆け込んで来た。
「あら、早かったわね」とのギルドマスターの言葉を受けて、急いで来たらしい顔を上気させた受付は、「少し、良い物が手に入りました」と、テーブルの上に1つの鞄を出してきた。
鞄は布製のようで、見た感じ財布とスマホと文庫本を2冊も入れればいっぱいになってしまいそうなぐらいの小さな物。
長い紐が付いているので、おそらくは肩がけなのだろう。
これが……
「これが、さっき言っていたマジックバッグ?」
オレの問いに、受付は息を整えて頷く。
「はい。ご提示額の大金貨1枚であれば、本来なら一番低いランクのマジックバッグになるのですが、お店に行ったらたまたま1つ安く売りに出されているのがあったので購入してきました。最下位ランクのものよりも少し多く、50kg程の物が入るとのことです」
「こんなに小さいのに、50kgも物が入るんですか?」
驚いた顔でミズキが言う。
鞄を覗いてみると、口の中は真っ暗な空間になっていて、内部を見ることは出来ない。
今は着替えなどの大きな荷物は宿に預けていて手元には無いので、帰ったら試してみることにするオレとミズキだった。
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
年内の投稿につきましては、本話で終了となります。
拙い話ですが、お付き合いいただきまして誠にありがとうございます。
来年もまた、タマとミズキをよろしくお願いします。
それでは、良いお年を!




