#5 禁忌の代償と神代の真実-中編
れっさーの目の前に、巨大なホログラムが投影された。そこに映し出されたのは、かつて繁栄を極めた神代の都市の姿だった。空中に浮かぶ巨大な都市、無数の飛行船やエネルギーを放つ塔、そして空を駆ける光の粒子…。彼女の目には、どれも驚くべき光景だった。
しかし、その都市の住民たちは不安げな顔をしていた。街のあちこちで騒ぎが起こっており、混乱と恐怖の声が響いている。
都市の中心にある大きな建物の内部が映し出された。そこには、高度な技術を操る数人の研究者たちが、巨大な装置を囲んで何かを議論している様子が見える。装置は、れっさーが見た隠し部屋の装置に似ており、その中心には、脈打つ光る球体が浮かんでいる。
研究者たちの声が聞こえてくる。
「エネルギーのバランスが崩れている!これ以上は危険だ!」
「でも…!『神の力』を封じるためには、この装置を起動させるしかないのだ!」
「装置が起動すれば、我々の文明は崩壊する。しかし、放置すれば全てが終わる…」
れっさーはその会話を聞きながら、この装置が彼らの文明にとって何か重要な役割を持っていたことを理解し始めた。
さらに映像が進むと、都市全体の光が一斉に明滅し始めた。巨大なエネルギーの波が都市全体を包み込み、空中都市が揺れ動いている。恐怖と混乱が広がる中、先ほどの研究者たちはついに決断を下す。
「これ以上はもたない。『禁忌の力』を解放するしかない…」
「その代償は大きいぞ。我々は、すべてを失うかもしれない…」
「それでも、世界を守るためにはやらねばならない!」
一人の研究者が、震える手で装置のレバーに手をかけた。装置が起動し、強烈な光が放たれ、都市全体に響き渡る音が轟いた。周囲の建物が崩れ始め、空中都市は不安定になり、ついには崩壊の兆しを見せ始めた。
「私たちは、これで終わりかもしれない…しかし、この世界を守るためなら…」
その時、装置の中心にある光る球体が猛烈な輝きを放ち始めた。その光はまるで空間そのものを切り裂くかのように広がり、都市全体を包み込んでいく。都市のエネルギーが吸い取られるように減少し始め、空に浮かんでいたはずの都市がゆっくりと地に堕ちていく。
「成功だ…だが、代償は大きい…」
都市の崩壊が進む中、研究者たちは絶望の表情を浮かべつつも、その中にどこか安堵の色を見せていた。彼らは、自分たちが今行ったことがこの世界を守るための唯一の手段であることを理解していたからだ。
神代の文明の終焉
映像は都市全体の崩壊を映し続けた。人々が叫び、逃げ惑いながらも、何か大きな力に引き寄せられるように次々と姿を消していく。空に浮かんでいた都市は、ついには大地に堕ち、巨大な爆発が起こった。その光景はまさに終末のようだった。
しかし、その時、空間の歪みの中から、新たな映像が映し出された。かつての都市から生き残ったわずかな人々が、新しい惑星「ノヴァ・ガイア」へと旅立つ準備をしている様子だった。彼らは神代の技術を持ち出し、再び新たな文明を築くための希望を胸に秘めていた。
「新しい地で、もう一度やり直すんだ…神代の技術が再び使える日が来るまで…」
映像は、神代の人々が新たな星「ノヴァ・ガイア」へと移住する場面へと移った。滅びの前夜に神代の都市で何が起こったのかを知った彼女は、次に彼らがどのようにして生き延び、再び文明を築こうとしたのか、その真実に迫ろうとしていた。
映像の中、数多くの避難船が大気圏を突き抜け、新たな星に向かって飛び立つ様子が映し出される。船の中には疲れ切った顔の神代の人々が、それぞれ不安そうな表情を浮かべていた。しかし、その瞳にはまだ希望の光が残されている。
やがて、彼らの乗る避難船が、新たな星「ノヴァ・ガイア」の荒れ果てた地表に着陸するシーンが映し出された。周囲には、高い山々が連なり、暴風が砂塵を巻き上げている。大気は濁っており、地面は乾ききっていて、草木もまばらだ。過酷な環境が、彼らを迎え入れた。
「ここが…我々の新しい故郷、ノヴァ・ガイアか」
その言葉に続いて、映像の中の人々は黙って周囲を見回していた。彼らの目には、不安と共に新たな決意が浮かんでいるようだった。
映像は、彼らが新天地で直面する困難を次々と映し出していく。彼らが持ち込んだ神代の高度な技術は、厳しい環境の中で次々と故障し、機能を失っていった。避難船のエンジンは動かなくなり、エネルギー供給装置も次々に停止した。空気を浄化するフィルターや、食物を生成する機械もすぐに壊れてしまう。
「この惑星は…我々の技術を拒んでいるのか?」
神代の人々は、絶望に近い表情を浮かべながらも、何とか生き延びるための方法を模索していた。彼らは持ち込んだ知識を駆使し、簡素な避難所を作り、わずかに手に入る食糧や水を分け合いながら、日々を過ごした。
しかし、文明の最先端を歩んでいた彼らにとって、再び原始的な生活に逆戻りすることは想像を絶する苦痛だった。寒さ、飢え、そして病気が彼らを襲い、多くの命が失われていった。それでも、生き残った者たちは決して絶望せず、困難に立ち向かい続けた。
ある日、ひとりの若い女性がノヴァ・ガイアの荒野で不思議な出来事に遭遇する。彼女が水の乏しい川辺で祈りを捧げていると、突然、彼女の手のひらから淡い光が放たれ、川の水が一瞬にして清らかな水に変わったのだ。その光景を見た他の者たちは驚き、戸惑いながらも、希望を見出した。
「これは…新たな力だ!」
その後、同じようにして他の者たちも、自分たちの中にある未知の力に気づき始めた。それは、「魔法」と呼ばれる新たな力だった。神代の技術が無力化された代わりに、この星の自然と深く結びついた力が彼らに宿り始めていたのだ。
映像には、次々と魔法の力を発見し、使い始める人々の姿が映し出される。炎を手のひらで操る者、植物を一瞬で育てる者、風を呼び起こし、荒れ地に雨を降らせる者…。彼らは次第に、この新たな力を使い、生活の中でそれを活かしていくようになった。
神代の人々は、魔法を使うことで次第にノヴァ・ガイアでの生活を安定させ、再び都市を築き始めた。木と石を使って家を建て、魔法の力で水を引き、植物を育て、獣を捕まえて糧とした。
映像は、彼らが新たな都市を築き上げ、魔法を使いながら生活を営んでいく様子を映し出している。若者たちは魔法の訓練を受け、年長者たちは新しい社会の秩序を作るための知恵を出し合った。彼らは再び文明を築き上げる決意を新たにし、都市は少しずつ賑わいを取り戻していった。
しかし、彼らは忘れなかった。神代の技術がもたらした滅びの教訓と、その代償の大きさを。彼らは慎重に、しかし希望を持ちながら、新たな世界の中で生き延びるための知識を共有し、文明を築き直していった。
映像の最後には、ノヴァ・ガイアの空に輝く星々が映し出される。そこには、新たな星で新たな道を歩み始めた人々の未来への期待と決意が込められていた。
「我々は再び立ち上がる。魔法という新たな力を手に入れた我々は、この地で再び文明を築く。過去の過ちを繰り返さぬよう、新たな知恵と力で未来を切り開こう。」
その声が響くと、映像は静かに消えていったと思われた。だが、最後に、研究員が残したと思われるメッセージが流れた。
「今、誰かこの映像を見ているということは、この文明を受け継いだ者がこのメッセージを聞いていることだろう。この言語も解読されず、暦や我々が持っていた技術が消えているかもしれない。だが、このメッセージには、君たち開拓者の記憶に直接語り掛けることができるだろう………………。
我々はガイア暦17年の人間だ。何百年、何千年、何万年か後の開拓者の子孫たちよ。我々は失われた技術のうち、いくつかを復活させることができた。この部屋にたどり着き、もしくはこのメッセージを聞いているのならば、この技術を受け継ぐことができるであろう。このメッセージが終わると、何らかのコードが表示されるであろう。これは暗号だ。これを解き、その答えとなる場所へ向かえ。同じような設備が並んでいるだろう。そこに第二のメッセージを残しておく。さらなる魔法技術の発展と、一族のさらなる繁栄を願って。開拓者の子孫たちへのメッセージを終わる。」
メッセージが終わると、デスクトップ画面のようなものが現れる。そこには暗号とガイア暦による現在の年月日が表示されていた。
-26 Ser., 196373 Gaia-
Inception, Inc. - 1月
Radiance, Rad. - 2月
Awakening, Awk. - 3月
Vibrance, Vib. - 4月
Serenity, Ser. - 5月
Eclipse, Ecl. - 6月
Zenith, Zen. - 7月
Breeze, Brz. - 8月
Equinox, Equ. - 9月
Twilight, Twl - 10月
Ember, Emb. - 11月
Solstice, Sol. - 12月