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ボクはプールの水底でスターシップの夢を見る

作者: 各務 史
掲載日:2024/08/08

ピピピピピピピピ… カッ ピピー

「う~ん、またエラーか。機械に異常なんいんだけどな。

この生物からも、特に放射能とか出てないし

なんで、レントゲン写真が撮れないんだろう?」

レントゲン技師の田村は首をかしげる。

(うん、撮れたとしても何にも写らないけどね。ボク、生物じゃないし。)

被写体は小さな目で田村を見て、ニッと笑った。

笑った口から小さな泡が一つこぼれて水面へと上っていく。

それが笑ったことも、ひっそり一人語りしてることも

人間は誰も知らない。



ボクはウーパールーパーとよく似た外見なんだけど、それとは違う。

ウーパールーパーは頭部の横にいくつもエラが出ていて

そのエラで呼吸する。ボクにもそのエラのようなモノが出てるけど

左右に1つずつしかない。

ウーパールーパーは成体になるとエラがなくなって、肺呼吸するから

もしかして、ボクがその変化の途中の形態なのかと思われているみたいだ。

ボクがエラ呼吸なのか、エラ呼吸なら何故こんなにエラが少ないのか

肺呼吸しているのか、それとも、両方を上手く切り替えた呼吸の仕方なのか

人間たちはそういうことが調べたいらしい。

無駄なんだけどなぁ。

だって、ボク、息してないし。所謂、生き物にカテゴリーされないんだよ、ボク。

こう見えても、ボクは水神の一族の末席に連なるもの。水の精霊の端くれ。

便宜上、この姿をしてるけど、内臓も骨も何もない。

もっと言うなら、もし、普通に写真を撮ったとしても、ボクは写らない。

そもそも、実態がないから。

ボクは呼吸をする必要が無いから、ずっと水の中にいても大丈夫。

でも、人間がボクを見てるのが分かるから、気まぐれに水面に顔を出しては

人間をからかってる。

でも、そろそろ水槽にいるのも飽きたなぁ。狭いし。

その気になれば、すぐにどこにでも行けるけどね。水があるところなら。

そんなことを思っていたある日、ボクの水槽が持ち上げられた。

ん?お引っ越し?逃がす気になったとか?


どうやら、逃がす気は無かったようで、ボクは別の場所に運ばれた。

だから、どこへ運んでも無駄だってば、どんなデータもとれないよ。

呆れてボクはまた笑う。小さなあぶくがまた一つ口からこぼれた。


運ばれたのは、大きな大きなプール…の中に沈められた筒?船?の中。

プールって言うと普通、人間たちは水着で入ってくるけど

このプールに入ってくる人間たちは、何やらごつい格好をしている。

プールから筒の中に入ってきたごつい格好の人間がため息をついた。

「ふ~~~、きっつい。座学は割と得意なんだけどなぁ。

おれ体力なさ過ぎだな。これ脱いだら普通にプールで泳いで体力つけようかな。」

ブツブツ言いながら、ごつい装備を外すそいつと目が合った。

「きみ、ここに来てから何も食べてないって?大丈夫?

おれ、しっかり食べてても、結構フラフラよ?餌が気に入らないのかなぁ。

きみ、肉食だよね?基本。」

そう言いながら、水槽に手を入れてきたので、指をパクッとしてやった。

「いっ!!! ったくないな。あれ?」

指を放した口からまたいくつかあぶくが出る。

「こいつ、オレのことからかってる?」

当ったり~、ボクの口からこぼれるように泡が出た。


その日から、何故かそいつはボクの様子を見に来るようなった。

「相変わらず、何も食べないんだって?死んじゃうよ?

こんな水槽に閉じ込められてたら、でも、食欲わかないか。

でも、出してやるわけにもいかないしな。元気出して欲しいんだけど。」

ボクは水槽を覗き込む目をじっと見つめかえした。

「おれ、浮田。お前にも名前付けようか。内緒でさ。」

浮田は、ククっと笑って

「そうだなぁ。コスモでいっか。宇宙を目指す訓練所にいるんだから。

安易すぎる?」

うん、多分、安易なネーミングだと思うよ。

ウチュウヲメザスって意味はよく分からないけど。

ま、呼びたいように呼んだらいいよ。

ボクは、一つだけ泡を吐いて返事してやった。


ある日、ボクは水槽からプールへとテレポーテーションした。

水から水へ、簡単簡単。ふぁ、久々に伸び伸び泳げて気持ちいい。

「コスモ!?」

あれ、見つかっちゃった。

浮田が慌ててこっちへと泳いでくる。へへ、捕まらないよ~だ。

わざと浮田が側に来るまで待って、するりするりと手をかいくぐる。

散々、からかってから、あまりに必死な形相だから捕まってやった。

「コスモ、あの水槽からどうやって出たんだ?

蓋がちゃんと閉まってなかったとか?」

ボクを握りつぶさないように、でも逃がさないようにしながら

浮田がモックアップの水槽までボクを運んだ。

「あれ?ちゃんと蓋も閉まってるのに、本当にどうやって出たの?」

水槽に戻されながら、テレポーテーションだけど?って答えたけど

人間には聞こえないよね。


狭い水槽に戻したことに罪悪感があるのか

浮田が来る頻度が増えて、話し掛けてくる頻度も増えた。

ボクのところへやってきては、浮田はウチュウへの憧れを語る。

青い空の向こうにある空、極寒か灼熱しかない世界。

光がほとんど無いと言うか、光が遠い世界。

空気がなくて、だから、酸素もない危険な空間。

重力がなくて、だから、上とか下とか右とか左とかそう言う概念がない空間。

危険であろうことは分かっているけれど

それでも、好奇心に勝てず、どうしてもそこへ行ってみたいこと。

あまりに熱く語られるその憧れは、ボクをも巻き込んでいく。

もうすぐ、すべての訓練が終了し、打ち上げの準備が整い次第

スターシップはそこへ、未知なることで溢れる場所へと飛ぶという。

「コスモ、一緒に行こうね。コスモは、不本意かもしれないけどさ。」

ことあるごとに、浮田はボクにそう言う。

浮田の熱っぽさで、ボクもウチュウへ憧れるようになっていく。



浮田が夢見た日がやってきた。

宇宙船発射のカウントダウンが始まった。

ゼロのカウントで轟音とともに、船が揺れる。

水の中とは言え、まったく加速を感じないわけじゃない。

このまま、一気に成層圏へ、そして中間圏へ。

カーマン・ラインを越えて熱圏へ駆けていくスターシップ。

良かったね、浮田。夢が叶うね。

でも、ボクは…。ボクの身体は成層圏を越えたあたりから泡になり始めていた。

そうか、ボクは地球に属するモノだから、ウチュウへは届かないんだな。

浮田の憧れが現実になったころ、ボクの全てはうたかたとなって消失した。

でも、寂しがらなくていいよ。ボクは最初からいなかったんだから。



うん、それでも、スターシップの夢は楽しかった。

間違いなく、ボクも一緒にスターシップの夢を見てた…。






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