ep.2 GAMEの始まり
これはとある日の話だった。
僕はいつも通り宿題を終わらせて就寝しようと思い、メガネを外して布団に入った。あいつがいつも絡んでくるから、結構疲れていたのだ。
寝て起きたら、何事もなく朝が来て、また学校に行き、また学級委員長からガミガミ言われることになるはずだったんだけどな。
――――――
「……明晰夢か……身体の感覚がはっきりしてるな」
寝たと思ったら、僕は神殿のような場所で目を覚ました。
ほぼノータイムでここに来ているので、多分夢と見て間違いないだろう。
明晰夢というものは、聞いたことはあっても、実際に体感することは少ない。そもそも夢というのが、朝に起きたら、大体忘れてしまうくらい主張の薄いものなのだ。
夢に関しては昔から様々な研究が為されているが、それでも何が原因なのかはっきりわからない。
有名なものだと、脳が記憶の整理を行った影響で見ているという説が有力だ。
この“夢”は、人間の意識、心に科学的に迫ろうとしている現代の、一大研究テーマであると言える。
「だが、その学説は、今ここで否定されることになりそうだ。僕はこんなロマンチックな神殿を知らないからね」
パルテノン神殿あたりが近しいだろうが、僕はそんなの興味ない。授業で習っても、『あーはいはい』と、脳みその記憶中枢に言葉だけをぶち込んでいるだけだ。余程のことがない限り開かないような場所に。
『どうも、こんにちは』
「おっと、誰だか知らないが今は夜だ。こんばんは、だろう」
『失礼、こんばんは、御津月衛二さん。今回、あなたには1つ、ゲームをしてもらおうと思います』
いきなりだな。だが今ここに、この夢がただの夢ではないという証拠が1つ増えた。この声は聞いたことがないからだ。
「……聞かせてもらおうか」
『はい。では、まず自己紹介をさせていただきます。
私は、今回のゲームのゲームマスターをさせていただきます。決められた名前は持っておりません。衛二さんとのコミュニケーションで使われる、名前を決めていただけますか?』
「名前は無いのか……とりあえず保留だな……そのゲームの内容を教えてくれ」
『はい。まずは世界観ですが、一般的な剣と魔法の、ファンタジー世界がモチーフとなっています。
ですが、この世界は歩けば歩くほど様々な景色を見ることができます。必ずしも、最初に見る景色が、そのようなものでは無いということです』
つまり、この声はいわゆる中世ヨーロッパにすごい脚色を加えたあのファンタジーだけではなく、和風な感じだったりする場所もあれば、中華っぽい場所に、アラビアンな場所もあるということを言っているのだと思う。スチームパンクじみた場所もあるだろう。
簡単な話、超大規模なオープンワールドというわけだ。
『はい。その通りです』
「えっ……心読めるのかよ」
『はい。神ですから』
「初耳なのだが」
サラッと衝撃の事実が明かされたわけだが、それはとりあえず置いておいて、本格的にゲームの内容を聞いていくことにする。
『このゲームは、まず始めに職業……いわゆる戦闘スタイルを選んでもらいます。『魔導士』ならば魔法を扱い戦うタイプ、『射撃手』なら弓や銃などを扱うタイプ、といった具合です』
「自分に合うタイプを見つけろということだな」
『はい。扱いやすいが強さはそこまでのものも、扱いに難ありだが、極めればかなり強いものまで、かなりの幅があります。身体機能については、現実世界のものに多少の補助が加わったくらいですから、得意分野を選ぶのをおすすめします』
「なるほど……それでモンスターを倒してレベルを上げていけ、ということか?」
『いいえ。モンスターは存在しません。強いて言うのならば、『厄災』と呼ばれる者達がいるので、それがモンスターでしょうか』
『厄災』というのも気になるが、今の話で大体見当がついた。おそらく、今回僕のような状況になっている人間は僕一人ではない。他のプレイヤーと戦うのがこのゲームの本質だろう。
『その通りです。ですが、今から話すのが一番大事な話です。
このゲームでは、プレイヤーの現実での名前をゲームマスターに申告することにより、プレイヤーを即時ゲームオーバーにする事が出来ます』
「……そう言えば、聞いていなかったな。ゲームオーバーになったらどうなるんだ?」
嫌な予感がした。まさかとは思うがこれって……
『現実での肉体は生命活動を停止します。代わりに意識のみがこのゲーム内に残されます。
要するに、プレイヤー権限が剥奪されるということです』
知 っ て た 。
こんなことだろうとは思っていた……完っ全にデスゲームのノリではないか。意識が死なない分、普通に死ぬよりはまだマシだと割り切りたいが、成功している人間ならば道半ばで命を落とすことになり、無念でしか無いだろう。
「つまり……殺し合いだろう?人間は自分に利益が無いとまともに動かなくてゲームが成り立たないだろう」
『他プレイヤーをゲームオーバーにさせた場合、そのプレイヤーが使っていたスキルを扱うことができるようになります。職業に依存するユニークスキルだけでなく、習得型のスキルもです』
なるほど、人を殺せば殺すだけ能力を得ることができるわけだ。能力の数がそのまま戦って明確に勝った回数となる。それがただの実力ならいいが、もし申告によるものであれば、人間の特定が得意な人物と考えられるために、他のプレイヤーは迂闊に関わることができなくなる。
プレイヤーを倒すなり、申告するなりで、実力や名声を高め、或いは完全にゲームとの関わりをたち、安全域をどのようにして確保できるか、それがこのゲームを楽しむコツらしい。
(思っている以上に立ち回りが重要だな。どこに僕の素性を特定する奴がいるかわからない。ただでさえ学校でもキャラが立っているっていうのに……)
『他にも様々な説明したいことがありますが、それは気になったとき私に聞いていただければ良いでしょう。
それでは、これからゲーム内で使うキャラクターの容姿と種族、プレイヤー名、職業を決めていただきます』
抑揚があるが、どこか無機質なその声がそう言った。