ep.1 嘘つきの高校生と、嘘つきの放浪者(♢)
私のクラスには嘘つきがいる。
って、いきなりそんなこと言われても困るよね?私はこの崇明学園高校1-3の学級委員長を務めている、平滝風香です。
成績は可もなく不可もなく、先にこの学校(偏差値75くらい)でってくるけど。
……と、話を戻して……うちのクラスには嘘つきがいる。それも並の嘘つきじゃない、いろいろ厄介すぎる嘘つきです。
例えばさっきの社会の授業中……
「おい、御津月。お前何堂々とVP触ってんだ」
「あ、サーセン」
スマートフォンの進化系……脳のマイクロチップと直接繋げて操作するVPと呼ばれるものを、彼は机の中にしまった。
「今隠しただろ。さっさとそれ出してみろ。俺の前でロックを開けて中を見せてみろよ。ゲームでもしていたら説教だからな」
「ハイハイ」
だが、私は知っている。あいつは机の中にしまったとき、もう一つのVPと入れ替えてから先生に渡しているのだ。
見た目はそっくり、後ろから見ていたが明らかにゲームをしていたのに、渡したほうは、あたかも授業で分からなかったところをリアルタイムで調べていたかのようにWik◯pediaが開かれている。
もちろん、学級委員として見逃せないから、先生に毅然とした態度でチクったこともあった……だけど!何故だが知らないけど隠したほうのVPはいつも忽然と消えている!挙句の果てに私も一緒に叱られる始末……理不尽だ!
正直だけでは生きてはいけない、世渡りの難しさはこの学園に来てから腐る程体感してきた。
それにこんな話も聞いたことがある。昔、彼の中学で一人の女子を、よってたかっていじめる女子グループがいたらしい。
なんでも、オタクっぽい雰囲気が気に入らなかったんだとか。
関わりは無かったらしいけど、多分横目から見ていて思うところがあったのだろう。
彼女たちの厄介なところは、先生たちの視線からみるとただの優等生にしか見えなかったという点だった。あくまで目につかないように裏でいじめていたのだ。
彼はなんとかグループの信頼を失墜させようとしたんだけど、これがまたえげつなくてね……
まずは彼がさりげなく彼女たちの靴箱にクラス1のイケメンからのラブレターという体で嘘の手紙を入れる。もちろん、3人それぞれに渡して、ほぼ同じ時刻に、同じ場所に来るように仕向けて。
それでも、彼女たちは我こそがと喧嘩をおっ始めて十分だったんだけど、そこに自分が『俺がラブレターの送り主だ!ほら、ときめいてくれよ』と、そこに行ってやることで、既に三者全員沸点を越えていた怒りの矛先を自分に向けさせた。
そして、自分がいじめられているように見せかけているところで、あらかじめタイミングよくその場に来るように仕向けた先生と、例のオタク女子を集めた訳だって。
ここまで聞けば、普通のいい人だ。
嘘つきっていうか……悪知恵が回るというか……こいつの嘘には一部事実が混じっているのが一番厄介だ。
その後日談なんだけど、その例のオタク女子もイケメンが好きだったらしい。だけど話すのが苦手で、できればばったり出くわすなんてのは避けたかったらしい。
それを聞いたとき、彼は、
『あいつは月、水、金が部活だから、その日は普通に帰っていいし、お前も部活だったり、あいつの部活がない日は裏門から帰れ』
イケメンの卓球部が、月、水、金なのは事実だったらしいし、彼女もそれを知っていた。だけど、問題だったのは、いつもイケメンは”裏門“から帰っていたということだ。
『お前、俺が好きなのか?』
『ひぁぁぁ!?何でここに……!?』
イケメンにはこっそり、彼女が君のことを好いていて、明日告白に来る、と伝えていた。
そして2人は雰囲気に押されてフォーリンラブ……
……なーんて、話があるが、これ、私は嘘だと思っている。
そもそも話の出どころがこいつ自身だ。いくら誇張していても不思議ではないし、納得しかしない。
そして、私は今、件の少年、御津月衛二の前に立っている。
「み〜つ〜つ〜き〜っっ!!お前また嘘ついたなコンチクショー!」
「なんのことだい?」
「しらばっくれるな!今日南棟側の食堂が事情があって開いていないくせに、私たちを南に誘導したんでしょ!変な噂を流して!この学園で嘘の噂の出どころはお前って決まっているのよ!」
「心外だなぁ。僕は北側が開いていると教えたはずだ。まあいつもの如く嘘をついていると思っただろう、君たちが勘ぐりすぎて勘違いしただけさ。まあ君たちのことだからわざと本当のことを言って利用させてもらったよ」
「やっぱり悪意しか無いじゃない!」
この学園の食堂は毎日混む。だから南と北の2つに分けられているのだが、それでも600人近い生徒全員を収容するなんてのは無茶な話だ。
つまり、片方が潰れれば、使える人数は単純計算で半分になる。席の奪い合いは苛烈さを増す。
いろいろと急な事情過ぎたところを、正直に利用された。先生たちの報告よりも先に動かれたのが運の尽きだった。
(良くも悪くも、こいつはこの学年を爆心地にとんでもない嘘つきとして悪名高過ぎる……事実の情報を得ていた生徒たちも、こいつが同じこと言っている時点で、自分の中での信憑性ががっくりと落ちてしまったんだ)
名前の効果が強すぎる。どんな情報でも、『御津月が同じこと言っていた』だけでこんなに信憑性が落ちるのはもはやバグだと思う。そのうえ、本人から直接なんて特に。
「ぐううううう……」
「僕だってそんなに何度も嘘をついたりはしないよ。嘘をつきすぎるとかえって嘘がバレやすくなるんだ」
「この二枚舌め……小賢しい真似を……」
こいつの発する言葉の一つ一つに、ありもしない煽りというか、甜められているような感じがする。
本当にイライラする。嘘ばっかりなら良かったのに、仮にもこの学園に入学出来るくらいだから、頭だけはよく回る。それも私以上にだ。
『オオカミ少年』……あの寓話に出てきた羊飼いの少年のようにはいかないらしい。嘘をついていると思ったら本当だったりするから嫌になる。
(はあぁ……現実世界は大変だわ……)
◇◇◇
その日の夜中、一人の少年、御津月衛二は寝る支度をしていた。
彼に親はいない。世界的な人口管理政策『ライフリミッター』による、人工人間だからだ。
と言っても、生まれてからすぐに施設で育てられたから、全く無感情というわけじゃない。同じ人工人間である平滝を見ればよくわかるだろう。
彼一人が住まう部屋の外には、発達した街並みが広がっている。3次元に広がる巨大都市を眼下に見ながら寝るのも慣れた。
この世界は100年近く昔に技術的特異点を迎えた世界、核融合発電は実用段階にまで至り、人間のように精巧に造られたアンドロイドが一般に普及し、科学はついに、人間の意識にまで迫ろうとしていた。
「さて……今日はどんなことが起こるかな」
彼は電気を消して、布団に潜り込む。
これから始まるのは、もう一人の御津月が歩む夢の中の物語。
――――――
そよ風が気持ちいい。木々の葉が揺られてなびいて、太陽の光が自身を照りつける。
「出掛けるか、次の町へ」
嘘つきの放浪者は、草の生い茂る地面を踏みしめて歩いた。
『天才少女の転生譚』のリメイクです。かなり作風を一新しましたが、スキルなどの話は受け継がれていたりいなかったり。
本命の方がモチベ下がったらこっちを書きます。なので少し更新頻度は遅いかも。