死ねばよかったのに
このお話はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
良くある怖い話をベースに、私なりのアレンジをしてみました。
ある日、五メートル先も見えないような霧が深く立ち込めた山中を一台の赤い車が走っていた。
その車には二人の男が乗っており、小太りの男が運転に集中しながらゆっくりと徐行運転で進んでいた。
「なぁ、江木。そう言えばこんな話、知ってる?」
「え、何? 小川ちゃん」
ふと、思いついたと言うように助手席に座る痩せた男が話しかける。
「こういう霧が立ち込めてて、山の中での定番の怖い話」
「ああ、霧の中から化け物が現れてきて、後味の悪い結末になる某洋画のこと?」
「なんでやねん! 怖い話って言っただろ、違うって」
江木のボケに思わずツッコミを入れてしまう小川。流石に裏手で叩く、というようなことをすると危ないので言葉だけでのツッコミであったが。
「ほら、霧の中を車で走ってたら車の前を白い影が通ってさ。誰かを轢いたんじゃないかって慌てて車から降りたら誰もいなくて」
「轢かれた人がそのまま異世界転移しちゃってたと」
「そうそう、チートを貰って異世界で大活躍……って、なんでやねん!」
再び江木のボケにツッコミを入れてしまう小川。やはり手で叩くのは危ないので言葉だけのツッコミだった。
「そうじゃなくて、降りて確認したら目の前が崖になってて、ガードレールが破れて隙間が出来てて、そのまま進んだら崖から落ちてたかもってなってさ。冷や汗をかきながら車に戻ったら、後部座席に白い服を着た女性が座ってて……死ねば良かったのに、って言う怪談だよ」
「ああ、うん。知ってる。でもさ、その白い服の女の人もおかしいよね。車の前を通らなかったらブレーキを踏まないでそのまま転落してたんだから、死ねば良いのにって言うぐらいなら出て来なかったらいいのに」
良く聞く怖い話の、突っ込んではいけない部分にツッコミをいれる江木。小川も確かに、というようにうんうんと頷いている。
「つまり、あれだよね。その幽霊は本当は助けようと思って出てきたけど、素直になれないからつい死ねば良かったのにって言っちゃったってことだよね?」
「あはは、なんだよそのツンデレ。想像したら幽霊が可愛くなっちゃうじゃん」
そう言って二人で笑っていて、ふと小川がルームミラーを見ると、いつの間にか一人の少女が座っていることに気付いて驚きの余り固まってしまう。
その少女は白いワンピースを着ており、長い髪に青白い肌をしていたが美少女であった。しかし、その顔は恥ずかしそうに真っ赤に染まっており、瞳を潤ませてルームミラー越しに二人のことを睨みつけていた。
そして江木もまた、小川の不審な様子にルームミラーを見てしまい、一瞬、注意がそちらへと向いてしまう。
「べっ、別に命を助けようと思ってその車の前を通った訳じゃないんだからねっ! あ、あんた達なんて死んじゃえば良いのよ! バカぁっ!」
少女がそう叫んで姿を消した次の瞬間。
破れたガードレールの隙間から、車がすとんと崖の下へと転落していった。
脇見運転、駄目、絶対。