口寄せ
このお話はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
昔、とある心霊特集番組で死者の口寄せが行われたことがある。
口寄せ、というのは、死者や生者の魂、神霊を呼んでその身に下ろし、言葉を伝えるという行為であり、行う人物によって呼び出す対象に得手不得手があるという特殊な能力だ。
だが、その番組は撮影中に起こったあるアクシデントのせいで放送されることはなく、お蔵入りとなり録画テープはテレビ局の倉庫に封印されてしまったという。
撮影中に起こったアクシデント、それは口寄せの対象として、あるタレントの父親を呼んで貰ったときに起こった。
そのタレントは実業家である父親と生前、自分が芸能人を目指すと言って家を出たときから折り合いが悪く、早く芸能人なんて辞めて家に帰ってこいと言われ続けていたらしい。
もし父親に会えるなら勝手なことをしてごめんなさい、そう謝りたいと言って涙ながらに父親の口寄せを頼み、番組側もそういうことならと彼の父親を口寄せで呼んで貰うことになった。
この時、彼の話だけではなく事実確認をしていれば、この後に起きた悲劇を防げたかも知れない。
いざ収録を始め、口寄せを行い色々と話をした後に彼が実は自分の父親は生きてまーす! と宣言したのだ。
スタジオはやっぱりやらせだったか、口寄せなんて嘘だったんだなという空気になり、白けてしまって口寄せを行った人物に冷たい視線を向けていた。
だが、その時、一本の電話がタレントへと掛かってきた。
その電話は、つい先ほど実業家である彼の父親が仕事中に倒れて、そのまま帰らぬ人になったという訃報を知らせるものだった。
途端にスタジオは騒然とし、撮影中にタレントの父親が亡くなると言うアクシデントが起こったことによって、その番組は放送出来なくなったのだ。
その時、口寄せを行った人物はこう言っていたという。
「わしは死んだ者の魂しか呼べん、それは事前にそちらにお伝えしておいたはずじゃ。生きている者を呼ぶようなことをすれば、その者の魂を肉体から引きずりだして死者にしてしまうとな。じゃから、生きている者の口寄せは絶対にさせんでくれと言ったのじゃが、約束を守って貰えんかったか。可哀想にの」
それ以降、テレビ番組に口寄せを行える者は誰一人として出演しなくなってしまったという。
「生きてる人を呼んだら死ぬって言ってたけど、まさか本当に死ぬなんてびっくりしたなぁ。でも、これでようやく父さんの邪魔なく芸能活動が出来るようになったし、本当に助かったよ。口寄せしてくれた人、ありがとう、父さんを死なせてくれて。すっごく感謝してます」
このお話は完全に創作です。