夢か現か
その夢を見たのはいつの頃だったろうか。少なくとも社会人になっていたのは間違いないと思う。
その夢の中で私は、ベッドの上で何か黒いものに覆い被さられ、両腕を横に水平に広げる形で手首を抑えられ、押さえつけられていた。
黒いものはイメージとしては西洋の死神のような感じで、鎌を持っていたり骸骨だったりはしなかったが、顔の部分は黒いモヤに覆われており全く見えなかった。
両腕を抑えられているだけなのに身体はほとんど動かず、辛うじて上体をほんの数センチメートル浮かせることが出来るくらいだった。
そこで、私はその黒いものに嫌がらせをしようと、どうにか上体を浮かせて唇を突き出し、「ふんーにょ、ふんーにょ」と顔のようなところにちゅーしてやろうとしたが、当然、そこまで身体を起こすことは出来なかったので未遂で終わった。
それからようやく目が覚めたとき、私の両腕は横に水平に広げる形で、まるで夢で黒いものに押さえつけられていたときの格好のようになっていた。
普段、私は仰向けに寝るときは気を付けの姿勢に近い形で寝ている為、このような形に腕がなることはなく、そもそも両腕を横に水平に伸ばすとベッドからはみ出てしまうのでこうなることは有り得ない。
あれは本当に夢だったのか、もしかして現実に起きていたことだったのか、今となっても分からないままである。
ただ、もし黒いものに嫌がらせが成功して、ちゅーしてしまっていたらと思うと……やはり夢であって欲しいと思う。
目が覚めた状態でそんなことをしていたとしたら、私はとんだキス魔ということになってしまうからだ。
これも実は実体験をもとに脚色したお話になります。
黒いものは何だったのか、何故私はキスしてやろうと思ったのか、謎は深まるばかりです。