目を開けていたら
これは、私が長期入院をしていたときの話である。
その夜、環境が変わると寝付きが悪くなる私はなかなか寝付くことが出来ずに何度も病室のベッドの上で寝返りを打っていた。
ごろりごろりと寝返りを打っては眠れない、眠れないと思っているとドアの向こうからガラガラというキャスターの音と、ペタンペタンというスリッパの音が聞こえてきた。
どうやら夜の見回りに看護士さんが来たらしい、と私は寝返りを打つのを辞めて寝たふりをすることにした。
以前に一度、寝付けなくてベッドの上に座っていたら、ドアを開けた看護士さんをびっくりさせてしまったことがあったので、それ以降は看護士さんが見回りにきたときは寝ているふりをするようにしたのである。
隣の病室のドアが開く音がして、ああ、次は自分の病室の番だなと思っていると案の定、私の部屋のドアが開いた。
しかし、そこで普段とは違うことが起こった。
いつもなら入口から中の様子を伺って、異常がなければそのままドアを閉めて立ち去っていくのだが、その時に限っては病室の中に入ってきたのだ。
はて、なにごとだろうかと思いつつも寝たふりをして目を閉じていたのだが、なんとなくこちらの顔を覗き込んでいるような気配を感じる。
どれくらいそうしていたかは分からないものの、暫くしてその看護士さんは病室を出て見回りへと戻っていった。
何事だったのだろうか、と思いつつ目を開けて起き上がるものの、特に何かあった様子でもないので私は首を傾げていた。
それ以降は見回りに来た看護士さんがベッドの側まで来る、ということはなかったのでますます不思議ではあったが、異常がないかしっかり確認をしてくれたのだろうと、特に気にすることではないと思うことにした。
その後、私は無事に退院したのだが時折、ふと思うことがある。
もし、あの時に目を開けて相手を見ていたら、目を合わせていたら、どうなっていたのだろうかと。
看護士と思っていた存在が、もし看護士ではなくこの世のものですらなかったとしたら……今頃自分はどうなっていたのだろうか、と。




