Ep.0「事故」
初めまして、周防RAです。
まずは、数ある素晴らしい作品の中、私の作品ページを開いてくれたことに感謝します。
ありがとうございます。
読み方は【そら】となります。
拙い文章ではございますが、読んでいただければ嬉しい限りです。
時間は午後五時。
冬だからか、外は既に暗い。
いつもこの時間は、学校でピアノを弾いている。
弾いているのは「ポロネーズ第六番」。
英雄ポロネーズといった方が通りがいいだろう。
英雄という部分は、作曲者であるショパンがつけたものではなく、「勇猛さや男らしさ」をこの曲で感じた者がつけたという話がある。
弾く演奏家によって、この曲の英雄は様々な性格に変わるといわれる。
勇ましい英雄もあれば、奥ゆかしい英雄、陽気な英雄。
自分はどうだろうか。
勇猛さなどは微塵も感じない。
奥ゆかしさなんて持ち合わせてないし、陽気とは真逆だ。
何もない。
それだけである。
無気力に登校し、授業を受け、このようにピアノを弾いて、コンビニでバイトして、帰って寝る。
高校生になって既に二年経とうとしているが、この生活が変わったことはない。
それでもピアノは弾いてるだけで落ち着く。
「あ、春咲くん……」
音楽室のドアが開いていた。
ドアの前で気まずな表情を浮かべ、長い茶色い髪をいじって立っていたのは、高峰華美。
小さい頃によく遊んでいた幼馴染だ。
俺が中学に上がる時に、親の仕事の関係で引っ越してからは疎遠になってしまったが。
「……どうしたんだ華美」
「いや……ピアノの音が茶道部の部室まで聞こえてきてたから、もしかしたらと思って……」
そういえば茶道部の部室は音楽室から近かったっけか。
「ちょっと噂になってるんだよ? 放課後にクラシックばっか弾いてる謎の生徒がいるって」
「そうだったのか。そんな話は聞いたことないけどな」
「噂話っていうのは、噂されてる本人には届きづらいものなんだよ」
「……そうか。それで、今日は急にどうしたんだよ」
「良ければ、一緒に帰ろうかなって。私コンビニに少し用事あるし」
さっきまでの気まずそうな表情が消え、笑顔になった。
空気が重くならないようにしてくれたのだろう。
小さい時から、こういった気遣いができる子だった。
「そうだな、そろそろ帰るか。もう外暗いし」
鍵盤に蓋をして、ピアノにカバーをかけて音楽室を後にした。
「……」
「……」
――非常に気まずい。
久しぶりに話す幼馴染と暗い道を一緒に歩くだなんてハードル高すぎる。
いくら幼馴染といっても、三年間も連絡を取り合ってなかったし、高校は地元で選んだけど、喋ったことなんて今に至るまでに数回しかない。
「……小さいときは、こうして二人並んで歩くこと多かったよね」
「……そうだったな」
「昔みたいに、これから先もずっとこうして二人で並んで歩きたいな」
「……え?」
つい華美の方を見てしまった。
俺はよくいる難聴系主人公でもなければ、鈍感系主人公でもない。
今の言葉ははっきりと聞こえたし、意味もわかる。
つまり、そういうこと?
いや待て、考えすぎだ。
めっちゃ久しぶりに話したんだぞ。
華美だってそりゃ年頃の女の子だもん、恋ぐらいするさ。
でも俺にするか?
だって――
「私、春咲くんのことが好き。ずっと好きだった」
彼女の目元を見ると、少し涙ぐんでいる。
でもどこか力強さを感じる。
きっと本気なのだろう。
でも俺は何を思ったのか、冗談だと思ってしまった。
何故だろう。そんな冗談言うやつじゃないって知ってるはずなのに。
「……冗談だろ?」
「ううん、冗談じゃない。小さい頃からずっと好き。急に春咲くんがいなくなってすごく寂しかった。あの時、私には春咲くんしか友達がいなかったから……。中学に上がる時に、気持ち伝えようとしたんだけどな。急にいなくなっちゃったから、今の今まで言えなかった。ごめんね」
「いや……それはこっちこそ悪かった。何も言わずにいなくなってごめん」
「私も勇気が出せなくて、ごめん」
「……ていうか華美、彼氏いるんじゃなかったのか?」
そう、いたはずだ。
いつも華美の隣にいる男子。
茶髪で前髪ばっかいじってて、サッカー部のいかにも陽キャって感じの男子が。
確か名前は川下昂野といったか。
「ああ、昂野くんね。付き合ってないよ。何回か告白はされてるけど、断ってる。私が付き合いたいのは春咲くんだし」
「お、おう。そうだったのか」
どう返せばいいんだこれ。
急過ぎて頭回んねぇ。
「……それで、返事は……?」
「いや、ちょっと待ってくれ。俺自身、びっくりし過ぎて頭が回んないというか、なんというか……」
正直、めっちゃ嬉しい。
でも、今まで色恋沙汰には無縁の高校生活を送ってきたもんだから、なんて返せばいいのかよくわからない。
この場の勢いで返事するのも不誠実な気もするし。
いったん、この話は持ち帰ろう。
持ち帰って、しっかり考えて。返事しよう。
「明日でもいいか? いますぐ返事をしてしまったら、その場の勢いみたいな感じでお互い不本意だと思うし」
「うん、わかった。明日、聞かせてね」
「ああ、必ず」
とりあえず、何とかなった。
――と思ったのもつかの間、何かに激しく衝突したような轟音が聞こえたと思ったら、なぜか俺は華美よりもだいぶ前にいた。
そして走り去っていく車の音。
一瞬で理解した。
俺轢かれてる。
そう理解した瞬間、全身に激しい痛みを感じた。
華美が手を伸ばし、何かを叫んでいるが、何も聞こえない。
まもなくして、意識が消えた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
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