非常にうるさい地団駄
俺がアルボレオ侯爵家から勘当されたことは、瞬く間に王都中に広まっていったらしい。
「見て……あの人が……」
「ログナー様もお気の毒に……。あんな出来の悪い子息を授かってしまうとは……」
「しっ! 聞かれたらまずいわよ。いつ犯罪者になるかもわからないのに……」
街行く人々が、俺を見てはヒソヒソ話を繰り広げている。
白い目を向ける者、好機の目を向ける者、聞こえるようにわざと大声で話している者……
その大勢が、俺に明らかな嘲りの表情を向けてきたのである。
「…………」
これが――《外れスキル所持者》に対する報いか。
別に犯罪をしたわけでもないのに、この理不尽すぎるほどの迫害っぷり……。やはり違和感が拭えないよな。
「む、むむむむ……っ!」
そんな人々に対し、隣を歩くメルがなぜか怒りの表情を浮かべている。
「ゆ、許せない……! ルシオのこと、なにも知らないくせにっ……!」
「どうどう。落ち着けって」
「落ち着けるわけないじゃない! ルシオの凄さも知らないで、好き勝手に言っちゃって……!」
「ま、まあまあ……」
どうして俺よりメルのほうが怒っているのか。
そこに疑問を感じつつも、俺は隣の王女様をなんとか宥めることに徹する。ちなみに彼女はばっちりと変装をしているので、その正体を通行人たちに気づかれることはない。
「仕方ないさ。侯爵家が《外れスキル》を授かることなんてそうそうないし……これほど恰好の話題はないだろう」
「で、でも……」
しまいには涙目になってしまうメルに、俺まで戸惑ってしまう。
――本当は俺だって、わかっているんだけどな。
一応は俺も侯爵家の跡継ぎだったし、スキル授与式が行われる前は、「ルシオお坊ちゃん」などとチヤホヤされたものである。それが《外れスキル》を授かっただけで、この掌の返しよう……
あまりにも不可解と言わざるをえない。
「…………」
「メル? どうした?」
「ううん……。なんでもないの」
さっきまで深刻そうな表情でなにかを考え込んでいた王女は、俺の言葉に……ゆっくりと首を横に振る。
「やっぱり、ルシオのためにも……あの話は黙っておけないか」
「は? あの話?」
「ううん、こっちの話」
メルはそう言って数歩だけ前に進むと、ぐいぐいっと俺の裾を引っ張って言った。
「ささ、もう行こ! いつまでもこんな視線浴びてたら、おかしくなっちゃうよ」
「あ、ああ……。そうだな」
いったいどうしたというのだろう。
よくわからないが、この場所に居続けたくないのも確かだ。メルに引っ張られるままに、俺は歩を進めていく。
「おい……。っていうかルシオの隣にいる女の子、めっちゃ綺麗じゃね……? 誰だ……?」
「ああっ、あいつ胸押し付けられてるぞ……!」
「おかしくね? あんな奴でも女に恵まれるのに、俺たちときたら……!」
ダンダン! と。
さっきまでヒソヒソ話していた男たちが、悔しそうに地団駄を踏んでいるのが妙に印象的だった。