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数分間ずっと押し付けられたんだが

「な、なんだ……!? どういうことだ……!?」


 突然の出来事に、俺は動揺を隠せない。 


 ――第一王女メルティーナ・リア・スウォード。


 ひとりで宿に泊まっていたはずなのに、目を覚ました瞬間、なぜか彼女が視界に入ってきたのだ。しかも急に胸にダイブされて……これに驚かないわけがない。


「はい……。これ」


 メルはぼそりとそう呟くと、ピンク色のハンカチを俺に渡してきた。妙に肌ざわりのいい、一目で高級品とわかる代物だ。


「こ、これは……?」


「顔、拭いて? ルシオ、さっきからずっとうなされてたよ」


「うなされて……」


 ああ……そうだ。

 詳しい内容はよく覚えてないが、たしかに嫌な夢を見ていた気がする。たしか《外れスキル所持者》が迫害されていたような――そんな内容だ。


「そうだよね……。ずっと慕っていたお父さんにひどいことされたんだもん。それは参っちゃうよね……」


「あ、ああ……。そ、そうだな……?」


 だが、どういうことだろう。


 心なしか、メルのほうが俺より悲しんでいるような気がするんだが。目も赤く腫れているし、相当悲しんでいたのが伝わってくる。


「と、とりあえず状況を整理させてくれ。なんでおまえがここにいるのかを」


「う、うん……。わかった」


 メルいわく。


 俺に《専属護衛の試験》を受けてもらうべく、この宿にやってきたのがつい先ほどのこと。


 そしてその瞬間、聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきたらしく。


 宿主に許可を得て、この部屋を開けたところ――うなされている俺を発見したとのことだった。


「そ、そんなにうるさかったか?」


「うん。だからもう、すごく心配で……」

 その瞬間、顔面をメルの胸部に押し付けられた。

「大丈夫? 辛かったらいつでも言ってね?」


「ふ、ふがふがふが……」


 やばい。これはやばい。

 メルは抜群のスタイルを誇っているゆえに、胸部の大きさも相当なもの。


 そんな彼女の胸に顔を押し付けられたら……呼吸困難に陥ってしまう。


「ふがふがふが」


「うんうん、辛かったよね。大変だったよね」


「ふがふがふがふが……!」


 結局、メルに解放されるまでたっぷり数分かかってしまった。

 

   ★


 数分後。

 やっと落ち着きを取り戻した俺たちは、改めて今後について話し合うことにした。


 俺がテーブルの椅子、メルがベッドに腰かけている形だな。


「……で、おまえは本当に俺に《護衛試験》を受けさせるつもりなのか」


「当然! 昨日約束したでしょ?」


 エヘンとでかい胸を張るメル。

 昨日の意見を曲げるつもりはないようだ。


「ルシオなら絶対に合格できるし! 私もルシオと一緒にいれて嬉しいし! これで一石二鳥だよね!」


「わけわからんのだが……」


 本当に、彼女は言い出したら聞かないよな。

 合格なんかできるわけないのに、すでに俺に護衛してもらうことを確信しているようである。


「でもま、一回くらい受けてもいいか……」


 つまるところ、俺だって暇だしな。断ったところでデメリットはそんなにない。


 運よく《専属護衛》にでもなれれば――さすがにありえないと思うが――一気に生活が楽になるし、拒否する必要もないだろう。


「わかった。試験会場へと案内してくれないか? メル」


「もちろんっ!」


 嬉しそうに飛び跳ねるメルだった。



〉〉大切なお願いです!!〈〈


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