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どうして彼女とひとつ屋根の下に

 メルの言っていた通り、くだんの旅館は深夜でも客を迎え入れてくれた。


 しかもそれなりに質の良い宿らしく、かなり居心地の良い部屋だったのである。


 ふかふかのベッドに、やや豪華そうなシャンデリア、隅々まで清掃の行き届いた調度品の数々……


 それらに迎え入れられたとき、俺はほっと胸を撫でおろすのだった。


「さすがにアルボレオ家の屋敷には見劣りするけど……感謝しなくちゃな」


 父――ログナー・アルボレオに絶縁を宣言された以上、もう二度と、実家に戻ることはできない。そもそも見張りの兵士に止められてしまうのがオチだろう。


 まあ……だからといって、実家に戻りたいとは思わないけどな。



 ――金が欲しかったら! せいぜいこれを全部拾ってみるんだなぁぁぁぁぁぁぁ! 準銅貨じゃ、いくらかきあつめたって宿代で精一杯だろうがなぁぁぁぁぁぁぁああ!!!――


 あんなふうに変わり果てた父を……俺は初めて見た。


 だがおそらくは――あれこそが父ログナーの本性。


 いままで俺に優しく接してくれていたのは、俺ならば「良い跡継ぎ」になると思われていたからだろう。


 自慢ではないが、これまでの日々で、剣の鍛錬を欠かしたことは一度もないからな。


《剣聖》スキルを授かればその経験が活きるだろうし、反対に《賢者》スキルだったとしても、剣と魔法の両刀使いとして活躍することができる。


 なぜ魔法ではなく剣の修行をしていたかといえば……単に凄腕の剣士に憧れていたから。


 だからできれば《剣聖》になりたいと思っていたが、それがまさか《全力疾走》なんかを授かってしまうとは。


 本当にやりきれないよな、まったく。


「よっこらせ、っと……」


 小さなかけ声とともに、俺はベッドに思い切りダイブする。


 こちらも思いがけず上質なベッドで、ふんわりと柔らかな感触が、俺を優しく受け止めてくれた。


「疲れたな……」


 さすがにもう、今日はこれ以上動きたくない。 

 もうすべてを忘れて、眠ってしまいたい……


「明日から……どうしようかな……」


 そんな思索を巡らしている間にも、一気に睡魔が襲ってきて――


 俺はほぼ数分のうちに、深い眠りに陥るのだった。



★ ☆ ★ ☆


 ――これは、夢だろうか。


 夢か現かもわからない謎の空間で、俺はいくつもの《人生》を覗いていた。


「え……嘘? 嘘でしょ⁉ 本当に私を追い出すの……?」


「なに言ってんだい! 当たり前だろう! おまえみたいなポンコツ、うちの家にはいらないよ!」


「え、え……? お母さん、どうしちゃったの……?」


「はぁ……聞きたいのはこっちのほうだよミルキア。あんたさえ良いスキルを授かってくれれば……ヴェスレグト子爵家との結婚が叶ったのに……」




「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ! やめて、やめてよぉ……!」


「うるせぇっ! 貧乏暮らしで精一杯おめえを育ててやったのによ! とんだ外れスキルを授かりやがって‼」


「痛い! 痛い! やめてよぉおおお……!」


「ミーア。てめえみたいなクソガキは、一生俺の玩具になるしか道はねえんだよ! 自分に人権があると思うな!」



 ――や、やめろ。

 彼女たち、苦しがってるじゃないか。


 どうして、どうして《外れスキル》ってだけでここまで迫害されなきゃいけないんだ。


 俺たちだって、自分の人生を一興懸命に生きてきたのに。


 なのにスキルだけで人生が決められてしまうなんて……あまりにもひどすぎる。


「やめろ……やめろ――っ!」


 俺は無意識のうちに、そんな叫び声をあげていた。


★ ☆ ★ ☆




「――シオ! ルシオっ!」


 ふと呼びかけられたその声に、俺ははっと目を覚ました。


「は……? メ、メル……?」


 うっすら目を開けると、そこには心配そうに覗き込んできているメルの姿があった。


「あ、あれ……?」


 おかしい。おかしいぞ。


 俺は昨晩、ひとりで王都の宿に泊まらなかったか? なんでこいつがこの部屋にいるんだ……?


「ル、ルシオーっ!」


「!?!?」


 俺が錯乱している間に、メルが勢いよく俺の胸にダイブしてきた。

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