表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/30

幼馴染の第一王女

「な……ば、馬鹿な……‼」 

 黒ずくめの男が動揺の声をあげる。メルティーナを抑えている両腕が、明らかに震えているのが見て取れた。

「あのオークを……まさか、ものの数秒で……?」


「は? なにを言ってるんだ」


 思わず呆れてしまう俺。

 オークなど、しょせん危険度Eに指定されている下級魔物でしかない。腕力は高いので、集団戦になると手痛い一撃を喰らうことになるが――それでもまあ、結局は下級の魔物だしな。


 その程度の魔物を三体倒しただけで驚かれるとは……やはり、それだけ舐められているということだろうな。


 侯爵家のスキル開花日は、それなりに注目度を集めるものだし。あの日から一週間たったいま、多くの人が俺の失態を知っていてもおかしくない。


「あのオークは……我々がふんだんに改良した強化個体のはずだ……。なのになぜ……」


「は……? 強化個体……?」


 なんだ。聞き慣れない言葉だな。よくわからないが。


 と――


「仕方ない、かくなる上は……!」


 黒ずくめの男が、再び口笛を鳴らそうとした。


「させるか……‼」


 今回はオークだったからよかったが、次はどんな強敵を呼ばれるかわからない。


 また口笛を鳴らされる前に、なんとかあいつを倒さなければ――!


「スキル発動――全力疾走!」


 俺は大声でそう唱え。

 男と瞬く間に距離を詰め、脇腹に渾身の殴打を見舞う。俺の腕力はそこまで高くないが、《全力疾走》の超スピードによって威力が上乗せされれば、その限りではなく。


「か、はっ……!!」


 黒ずくめの男は、やはりたった一撃で白目を剝き――気を失うのだった。


  ★


 さて……これで一件落着だろうか。


 念のため周囲の気配を探ってみるが、一応、怪しい気配は感じられない。……まあ、俺の索敵能力なんてたかが知れてるんだけどな。


 俺は剣を鞘に収めると、地面にへたり込んでいるメルティーナに話しかける。


「ほら。立てるか?」


「あ……」

 メルティーナは恥ずかしそうに頬を赤く染めると、俺の差し出した手をゆっくり受け取った。

「あ、ありがと……助けてくれて……」


「気にするなって。間に合ってよかったよ……本当に」


 仮にも一国の王女に対して軽すぎる口調だが、これで問題ない。


 俺だって、曲がりなりにも侯爵家の生まれだからな。

 王族と会う頻度は非常に多く、父も「将来の花嫁候補かもわからんぞ」と言って、何度もメルティーナと会う機会を設けてきたものだ。


 王女は彼女以外にもいるが、俺とメルティーナは同い年。 

 お互い話しやすいというのもあって、俺たちは自然と仲良くなった。


「それにしても……メル・・。どうしてこんなところに?」


 ――二人きりのときであれば、こうしてニックネームで呼び合うほどに。


「それが、わからないの……。仕事が終わって、王城に戻ろうと思ったら……急に抱え込まれて……」


「急に……? 護衛の兵士もいたんじゃないのか?」


「いたわ。だけど、本当に一瞬の出来事で……兵士さんたちも間に合わなかったみたい」


「マジか……」


 王国軍の兵士といえば、熟練度の高い実力者の集まりとして知られている。

 しかも王女の護衛を務めるくらいだから、練度は相当に高いはずなんだけどな。


 その兵士たちの目をかいくぐり、メルだけを誘拐するとは……なんだか色々ときな臭いな。さっきはオークを出現させてたり、「強化個体」とかいう謎の言葉を使っていたし……


「おまえ……もしかしなくても、相当ヤバい連中に狙われてるんじゃないのか?」


「うん。そうだと思う。あはは」


「あははって……」


 後頭部に手をあて、いつものように陽気な笑みを浮かべるメル。


 彼女らしいと言えばそうなんだけどな。

 さすがに心配になってしまう。


「とにかく、王城までは俺が付き添うよ。そのあとは陛下にでも報告して、もっと護衛を増やすしかないな」


 幸い、さっきの黒ずくめの男はまだ息がある。

 こいつも一緒に王国軍に引き渡してしまえば、もしかしたら有益な情報を吐いてくれるかもしれないからな。


「うん。ルシオも……ありがとう」

 そしていきなり、俺の手を握りだすではないか。

「ルシオが来てくれなかったら……私、あのまま死んでたと思う。ありがとね、本当に」


「あ、ああ……」


 その様子に、俺は思わずドギマギしてしまう。


 父の期待に応えるべく、いままで「剣の修行」だけに時間を費やしてきたからな。女の子への免疫は全然ない。必然、こういうシチュエーションにはめっぽう弱い。


 そしてメル自身も……王国でも屈指の美人として知られている。


 さらりと透き通った銀髪に、見るからに抜群のスタイル。男性はもちろんのこと、女性にとっても憧れの人だと聞いたことがある。


 これまでも何度か縁談を持ちかけられたらしいが、すべて断っているらしく。一方で俺に対してはこんな態度を取ってくるものだから、やっぱりドギマギするしかなかった。


「気にするなって。これでも一応は、幼馴染の仲なんだしな」


「幼馴染だから……それだけ・・・・?」


「ん? それだけって……?」


「…………」

 そしてメルはなにを思ったか、ジト目で俺を見つめるや。

「えいっ!」


「いてっ」

 急に足を踏んづけてきたのであった。

「脈略なさすぎだろ⁉ 意味わからんのだが‼」


「……はぁ。昔から鈍感なところだけは変わらないんだから……」


 鈍感?


 いったいどういうことかわからないが、この手の話題をいつまでも引きずっていてはいけない。いままでも、こうやって何度も足を踏まれることが多かったからな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 敏捷がカンストしたとして、オークを切り裂ける能力はどこから? 接触した瞬間に骨の強度不足と筋力不足で、腕を失いそうですけれど。 そこらへんの補完をしないと物理的に無理が生じると思います…
[気になる点] 一瞬で目的地に着いて止まっているのにどうやって攻撃に《全力疾走》の超スピードが上乗せできるんでしょうか 移動距離や使用回数も無制限なら全力も疾走も関係ないのになぜ全力疾走という名前に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ