光の速度でさえノロマ
「ふう……」
大きな息を吐きつつ、俺は剣を鞘にしまう。
思った通り、個々の練度はたいしたことはなさそうだな。不意打ちにさえ気をつければ、俺でもなんとか対処できそうな相手である。
しかし――いまはそれよりも気になることがあった。
――たとえ最強と呼ばれている者であろうとも……敏捷度が9999にカンストした我ら《神速の月影》にかかれば、塵芥も同然ということよ!――
戦闘前、男はたしかにそう言っていた。
《敏捷度が9999にカンスト》という言葉も謎だが、それよりも……
「メル。《神速の月影》という言葉に、聞き覚えがあるか?」
「う、うん……」
倒れた男をまじまじと見下ろしながら、メルが深刻そうな表情で呟いた。
「隣の……マレボリアス帝国で活動している過激派組織でね。自国を愛するあまり、過去にも何度かマレボリアス帝国でテロを企ててる。そう聞いたことがあるわ」
「マレボリアス帝国……」
予想外な言葉に、俺はその言葉を反芻する。
マレボリアス帝国――すなわち、スウォード王国の隣に位置する大国。
経済面・軍事面ともに、スウォードと張り合っている大国だな。
隣国ということもあってか、様々なしがらみのある国でもあり……過去、何度か戦争を起こした国でもある。
現在は平和条約によって一応の均衡は保たれているが、過去の戦争から、互いを敵視する声は少なくない。
そんな国の過激派組織が、まさかスウォード国内をうろついているとは……
なにか不穏な空気を感じてしまうのは、果たして俺だけだろうか。
「しかも《神速の月影》は、なにやら不穏な実験をしているようでね。私にもよくわからないけど、ステータス……対象者の戦闘力を操作する試みもしているみたいなの」
「ス、ステータス……?」
なんだ。
一気に意味不明になってきたぞ。
「うん。攻撃力とか、防御力とか……いろんな項目があるみたいなんだけどね。連中はそのうちの《敏捷度》を極限まで高めて、ありえない速さを可能にしてるって……」
な、なるほど……
まだ全然頭に入ってこないが、連中が怪しげな実験に手を出していて……そしてスウォード国内でも暗躍していることはよくわかった。
そうとわかれば、どのみち放っておくことはできないだろう。
それに――
「連中の実験とやらは、まだうまくはいってないようだ。敏捷度を極限まで上げてるっていうけど、あんなにノロマじゃ、実戦にならないからな」
「…………え?」
「だから、叩き潰すならいまがチャンスだ。早く先に進んで、連中を叩きのめさないと」
ユキナはともかくとして、師匠まで《神速の月影》に捉われたことは不可解だけどな。
まあ、不意打ちだけは一丁前な連中だ。
普段通り過ごしている最中に、いきなり襲われてしまえば……師匠といえど、さすがにひとたまりもないかもしれない。
まあ、なんにしてもやることは変わらない。
前進あるのみだ。
そう思い、俺は歩を進めた――のだが。
「ん? どうしたんだ、二人とも」
どういうわけだか、メルもミルキアも、一歩も動こうとしない。
ただ唖然とした表情で、俺を見つめているばかり。
「あの速さがノロマって……私の聞き違いかしら……?」
「ルシオ様なら、光の速度でさえノロマとか言い出しかねませんね……」
なんだ。言ってる意味がようわからんのだが。
「変なこと言ってないで、早くついてきてくれ。またいつ不意打ちされるかわからんぞ」
「あっ……! ま、待ってよ!」
「わ、私を追いてかないでください……!」
また不意打ちされることを警戒してか、ぴたりと俺に全身をくっつけてくる二人だった。
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