優しい人
「はい! できましたよー」
数分後。
ミルキアの持ってきた料理に、俺は思わず「おおっ!」と歓声をあげてしまう。
これは……熱々のビーフシチューか。
トロトロと煮込まれた肉がたくさん入っており、鼻腔から伝わってくる匂いも格別。嗅ぐだけで一瞬で空腹になってしまいそうな……そんな一品だった。
それだけではない。
瑞々しいサラダや、デザート用にケーキまで……
実に様々な食事が、所狭しと食卓に並んでいるのである。
「こ……これ、全部食べていいのか?」
「は、はい! お口に合えばいいんですけど……」
子爵家ミルキア・ルーフェス。
貴族はあまり料理をしないはずだが、彼女は大の料理好きらしいな。テキパキとキッチンで動きまわる様は、率直に言って見事という他なかった。
「で、ではいただきま~す……」
挨拶もそこそこに、俺は差し出されたビーフシチューを口に入れる。
と。
「うんまいっ!」
俺は思わず、大声で叫んでしまった。
「すごいなミルキア! これ、自分で店開けば儲かるんじゃないか⁉」
「え、えへへ……。そうですかね?」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ミルキアが小声で呟く。
「子爵家を追い出されたあとは、もう本当に暇でしたから。近くにいる魔物を狩って、それで自分で料理する……。実家では召使いさんがやってたことですけど、案外楽しいことに気づいて……」
「そうか……そうだったんだな……」
まあ、こんなところに住んでも、正直やることなんてないしな。
ひとりで料理するのが関の山だろう。
「うんうん、おいしい♪」
隣のメルも、ばくばくと幸せそうにビーフシチューを頬張っている。口のまわりにシチューがついてしまっているが、それさえもお構いなしだ。
「おい……口」
俺は呆れ声を発しつつも、近くにあったティッシュでメルの口を拭く。
「んむ……。ありがと」
「はいはい……」
そんな俺の様子を、テーブルの向こう側でミルキアが珍しそうに眺めていた。
「ん? どうした?」
「いえ……。ルシオ様、意外と優しいんだなって」
「は……? 優しい?」
おいおい、どういうことだ。
彼女とちゃんと話すのは今日が初めてのはずだが――いったい、どんな印象を持たれていたのだろう。
「いえ……アルボレオ家といったら、もうすっごく大きい貴族ですからね。特にログナー様は、そこらへんの貴族なんて歯牙にもかけてなかったですし……」
「ああ……。それはまあ、そうかもな……」
ログナーの行動原理は、とにかく《自分の利益》。
自分にメリットのあることであれば目の色を変えて飛びつくし、メリットのないものは容赦なく切り捨てる。
たとえそれが……実の息子であっても。
「あ……。ごめんなさい、嫌なこと思い出させちゃいましたか……?」
俺の思考を読み取ったのか、ミルキアが申し訳なさそうに頭を下げる。
「はは……いや、いいんだよ。ミルキアの言う通りだ。あいつは……自分のことしか考えていない男だった」
――金が欲しかったら! せいぜいこれを全部拾ってみるんだなぁぁぁぁぁぁぁ! 準銅貨じゃ、いくらかきあつめたって宿代で精一杯だろうがなぁぁぁぁぁぁぁああ!!!――
あのときの父の錯乱っぷりが……トラウマのように脳裏に蘇る。
俺が憧れていた父は、ただの幻想でしかなかった。
18歳まで俺によくしてくれたのも、あくまで俺のスキルに期待していたから……それだけでしかない。
「でも……ルシオ様は、ログナー様とは違う。ルシオ様は……いい人です」
「さ、さすがに褒めすぎじゃないか? 別になにも出ないぞ?」
「よかったです。憧れの人が……こんなに優しい人で」
「は? 憧れの人?」
「あ。いえ、なんでもありませんっ」
メルキアはそこで恥ずかしそうに両手を振ると、改めて俺とメルとを見渡した。
「……それで、お話があるんですよね? とても大事なお話が」
「あ、うん。そうそう」
メルはいったん食事を中断すると、一転して深刻な表情になった。
「私がお願いしていた調査のこと……なにか進展があったら、教えてもらえない?」
【【 重要なお知らせ 】】
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