怪しげな気配
「おお……! メルちゃん!」
「待ってたよ! しばらく見なかったけれど、いったいどうしてたのさ?」
――メルの言っていたことは本当だった。
このレイドル村において、メルは「メルちゃん」と呼ばれていて。
特に臆されることもなく、親しげに村人たちと接しているのだった。
(はは……こりゃすごいな)
王都だったら、メルは間違いなく畏怖の対象なのに。それでも分け隔てなく接してくれるところが、この村の良いところなのかもしれないな。
「あら、メルちゃん! そこの素敵な男性は、もしかして彼氏さん?」
中年の女性のそんな爆弾発言に対し、メルは
「もっちろん♪」
と言って腕を組んでくる始末。
「お、おい。すこしは自分の立場をわきまえろよ」
「いいのいいの。ここの人たちはみんな優しいし……変な噂とか、流さないよ?」
「だからって限度ってもんがあ――」
「きゃー! 熱い二人だぁー!」
「妬けるねぇ~!」
俺の反論は、しかし村人たちの声援にかき消されて届かない。
「そうだ! 今日はメルちゃんのために、みんなで宴会しましょうよ!」
「賛成! そこの新しい彼のためにもね!」
お……おお。
メルはともかくとして、まだほとんど面識のない俺をもてなしてくれるのか。
これまでも侯爵家として様々なもてなしを受けたことはあるが、それはあくまで俺の身分があってのもの。
村人たちは俺のことをなにも知らないだろうに……それでも無条件で俺をもてなそうとしてくれている。
もしかすればこれこそが、レイドル村ならではの良さなのかもしれないな。
――と。
「…………!」
突如すさまじい殺気を感じ、俺はふと表情を強張らせた。
なんだ。誰かがこっちを監視している……⁉
咄嗟にその方向に目を向けると、件の気配はさっと遠くに消えてしまった。まるで俺に気づかれたことを察したかのように。
「…………」
しかも――気のせいだろうか。
いまの気配、どことなく例の《黒ずくめの男》に似ていたような……
「ルシオ? どうしたの?」
「いや……」
首を傾げてそう訊ねるメルに、俺は言葉を濁す。さすがに衆人環視のなかで話せる内容ではないからな。
――さっきの話を聞く限りだと、“敵”の追跡から逃れるために、転移門でここに来ているっていう話だったよな……?――
だとしたら、ちょっと見過ごせない状態になってるかもしれないな。
メルも村人も気づいてないようだが……敵の魔の手は、ごく近いところにまで迫ってきている可能性がある。
さっそく《専属護衛》として、重大な任務にあたることになりそうだな。
(メル、すまない。どこかで落ち着ける場所いけないか?)
俺は誰にも聞こえぬよう、小声でそうメルに耳打ちする。
(できるだけ急いでくれ。手遅れになる前に)
(…………)
たったこれだけの言葉ですべてを察したのは、さすが第一王女といったところか。
彼女もすっと表情を引き締め、
(わかった。そうするわ)
と返してくれた。
「それじゃあ、私たち二人はこれから熱い時間を過ごすから……またあとで、ゆっくりお話ししようね! ばいばーい!!」
メルは大声でそう宣言すると、俺の腕を引っ張りつつ、人々から離れていくのだった。
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