都市伝説
「こ、ここは……?」
メルに案内された先は、侯爵家たる俺ですら知らない部屋だった。
地下へ続く階段を降り、迷路のような細い通路を歩いた先で――実に神秘的な部屋があったのである。
「うふふ、さすがにびっくりしたかな? マヌーケとかクズーオも知らない場所だから、みんなには内緒だよ?」
「いやいや……これは驚くだろ……」
まず、部屋全体が薄暗く、先が見通しにくい。あたりに光の粒のようなものが舞っているので、かろうじてそれが光源になっているくらいか。
そして部屋の中央部には――小さな門のようなものが一つ。
その門はすでに開かれており、内部からは淡い光が輝いているが……
「まさかこれって……転移門か?」
「正解。さすがにわかったか」
「お、おいおいおいおい……」
転移門というのはその名の通り、任意の場所まで転移するための門である。本来は《空間転移》の魔法によってのみ行えることを、門で再現したというわけだ。
その名の通り、あまりにも常軌を逸した代物であり――
まことしやかに都市伝説として語られているそれが、まさか本当に実在しているとは……
「……実はね、昨日の《黒ずくめの男》の正体は、私たちでもある程度掴んでいるの。でも、びっくりするくらいに速くて強い連中だから……迂闊に行動できなくてね。この門を使って、目的地まで行き来してるってわけ」
「な、なるほど……?」
理解が追い付かないが、理屈はわかる。
あのクズーオやマヌーケも出し抜いたくらいだから、あの《黒ずくめの男》は相当に速かったんだろう。それこそ、俺の《全力疾走》と同レベルとさえ言えるほどに。
だから迂闊に外を出歩くのではなく、転移門を用いて、安全に外を出歩こうとする……
たしかに理には適っているよな。
一気に話が大きくなったので、正直、頭がついていかないんだが……
「それで……この門はどこに繋がっているんだ……?」
「ふふ、口で説明するより見たほうが早いよ♪ 来て来て!」
「お、おい……!」
急に右手を掴まれ、俺はしどろもどろになってしまう。そのままメルに連れられ、その転移門を潜り抜けた先には――
村があった。
さっきまでの薄暗い部屋とは一転して、日差しの穏やかな田園風景に。
あちこちに広大な田畑が存在し、その田畑に囲まれるように、いくもの家屋が見受けられる。王都の瀟洒な町並みとは打って変わり、こちらは素朴という言葉がぴったりの、心落ち着く風景が広がっていた。
「こ、ここは……」
「レイドル村。――どう、いい場所でしょ?」
「あ、ああ……。そう、かもな」
王都のそれとは違って、レイドル村の空気はめちゃくちゃ綺麗で澄んでいる。呼吸が気持ちいいというか、なんとも爽快な気分だ。
後ろを振り返ると、こちらにも古びた家屋。
どうやらさっきの転移門は、この家屋に繋がっていたというわけか。どこからどう見ても、普通の家にしか見えないが……
「大丈夫よ。転移門を使ってきた人だけ、この家の扉を開ければ、またさっきの部屋に戻れる。そういう仕組みだから」
「な、なるほど……」
こりゃあますますハイテクだな。
都市伝説など目じゃないくらい、王都の隠れ技術は発達しているということだろう。
「じゃあ、まさか俺の寝床って……」
「そう♪ ここで一緒に私と暮らしてよ、ルシオ!」
マ、マジか。
さらに理解が追い付かなくなってしまうが、まあ、俺はメルの専属護衛。
彼女の身の回りにいること自体が、ひとつの仕事みたいなもんだしな。
断る理由がない……というか、断ってしまっては任務違反となってしまう。
「それは別にいいが……俺はともかく、王女がこんなところで暮らせるのか? 絶対に騒ぎになると思うんだが」
「大丈夫よ! ここでは私、メルちゃんって呼ばれてるんだから♪」
「……は?」
メ、メルちゃん?
「ささ、なにはともあれついてきて! 村のみんなに紹介するよ!」
「お、おいっ……!」
そう言われて、俺は村の中心部まで引っ張られていくのだった。
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