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天使な王女様

「よし! これでばっちりね!」


 王城。その衣装室にて。


 俺はメルに呼ばれて、《専属護衛》の正装に着替えている最中だった。


 といっても、クズーオやマヌーケみたいな甲冑はごめんだ。あんな重そうなものを身に着けるよりは、もっと目立たない、軽装のほうがいい。


 そんな俺のリクエストに、メルは「うーん……」としばらく黙考したあと。


 あれじゃない、これじゃないと、あれこれ着替えに付き合わされているのだった。


 正直、俺としてはそんなに服にこだわらないし、どれも悪くないと思うんだけどな。


 メルとしては納得いかないのか、あれこれと服を持ってきては戻していくの繰り返し。


「うん! これで大丈夫ね! ルシオ、すっごくかっこいいよ!」


 そして数分後……ようやく、メル納得の服装ができあがるのだった。


 黒を基調したジャケットに、これまた黒色の長ズボン。ところどころに銀色の金具がついていたりして、なんだか妙にキマったデザインだ。


「王族の護衛だと、ほんとは白のほうがいいんだけどね。でも白じゃ目立つし、ルシオにはあまりよくないかな」


 ――ということらしい。


 まあ、それはその通りだ。

 俺の《全力疾走》は、なによりその速さが売り。派手な格好をしてはその動きを悟られる可能性があるし、それでは護衛の任務に支障をきたす。それじゃ本末転倒だからな。


 ――デザインも格好いいし、いいかもな、これ。


「ふふ、もしかしたら他の女の子から声かけられちゃうかもね。でも駄目だよ? ルシオは私のなんだから」


「はは。安心しろよ。声なんかかけられないさ」


 そして俺は昔そうしたように、彼女の頭を優しく撫でてみせる。


「……それに、たとえ昔の約束だとしても、忘れることはないさ。侯爵家じゃなくなったし、さすがに結婚は無理だろうけど……精一杯、メルを守ってみせるから」


「~~~~~~~~っ」


 ボフっと。

 メルは一瞬にして顔を赤らめると、水が沸騰したかのように湯気を立ち上らせた。


「ず、ずるい……。反則なんですけど」


 指をこねこねさせながら呟くメルに、俺は


「反則?」

 と言って首を傾げる。

「反則って……なにがだ」


「ああ……もう! いいんですよーだ! まったく、ルシオは昔からそういうとこあるんだから!」


 そう叫びながら、思いっきり俺の胸にダイブしてくる。


 女性特有の柔らかな感触が、俺を優しく包み込んだ。


「ルシオ……好き」


「あ、ああ……。俺もだよ」


 なんとか返答しつつも、大きな二つの膨らみがぐいぐい押し付けられてきているわけで――俺はやはりしどろもどろしてしまうのであった。


 やばいやばい。

 なんとか話題を変えないと、健全な青少年たる俺には耐えられない。


「そ、それで……これからどうするんだ? 専属護衛の仕事内容がわからんのだが」


「私と一緒にいる。それだけでいい」


「…………」


 ま、まあ、俺の任務はメルの《専属護衛》だからな。


 それもあながち間違っちゃいないんだが。


「あと……まず先にルシオの家を探すとこかな。それがないと大変でしょ?」


「あ……。まあ、たしかにそうだな」


「そしたら、良いとこがあるわ。ついてきて」


 そう言って、俺の裾をぐいぐい引っ張ってくるメル。俺と離れることが名残惜しいのか、さっきから手を握ってきたりして忙しない。


「良いとこって……この王城に住むんじゃないのか?」


「それがね……とっておきの場所があるのよ。いいからついてきてって」


 そう言って悪戯っぽく笑うメルは、やはり控えめに言って天使だった。



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